カラフルな世界へ(仮タイトル)
|「・・・静かな試合だなぁ。」
そう呟いたとたん肩をトントンと叩かれ、隣を見る。
「何いってるの!物凄くやかましいからね!」と、呆れた表情を向けてくる友人の口を読んで、そうだった。と思い出す。
今は友人に付き合って自分の学校が出ている野球の試合を観ているのだが、途中から雨が降ってきたので補聴器を外したのだ。補聴器はもちろん機械なので水に濡れたら壊れてしまう。
呆れた表情を向けてきた友人は天川 霧音。肩より長めで茶髪のそれは少しゆるふわパーマがかかっており、顔はタレ目に少し大きめの目をクリっとさせている可愛らしい顔立ちだ。身長は平均の153センチだ。現在、青葉高校2年生である。
静かだなぁと感想を漏らしたのが、雨宮 紗良。霧音の友人で同じく青葉高校の2年生であり、同じクラスでもある。肩までの黒髪にショートボブで、顔も平凡、頭も平凡、身長は平均より低めの148センチというどこにでもいるような女の子だ。ただひとつだけ、耳が聞こえないと言う障害を抱えていること以外は・・・。
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|「紗良!おはよーっ!!」
学校に向かう道の途中で急に背中をポンっとされて思わずビクゥッとからだが跳ねたあと急いで後ろを見ると霧音が、弾けるような笑顔で挨拶をしてきた。
「あ。霧音、おはようー。ごめん、ビックリしちゃって」
「いえいえ、いつものことなんだから紗良も慣れてくれてもいいのに・・・。」
紗良はよく、肩などをタッチされてビックリしてしまうことがある。もちろん聞こえないのだからタッチして呼ぶしかないと言うことはわかっているのだが、どうしてもビックリしてしまうものは仕方ない。耳が聞こえないひと全員がそういうわけではないと思うので単純に私がそういう・・・ビックリしやすい体質か何かなのではないかなと思っている。
「慣れるとかの問題じゃないから諦めて」
「えー・・・まぁいいけどね。時々こっちまでビックリするときもあるけど基本的には紗良がビックリするの面白いしね!」
「ちょっとひどくない?」
紗良は呆れ顔だ。
「えへへ。あ!そうだ!一昨日は付き合ってくれてありがとうね!途中から雨になっちゃったけど・・・」
「ううん、構わないよ。勝って良かったね。」
「うん!しかも先輩カッコ良かった!次の試合も応援に行かないと」
霧音は嬉しそうに手振り身ぶりを加えつつ話しかけてきている。
その様子は可愛らしく花も飛んでいそうな様子である。
一昨日は土曜日だったのだが、複数の学校と競う野球大会がありそれに青葉高校も出ており、さらに霧音が憧れているイケメンの先輩が出ていたのだ。紗良は一緒に応援に行こう?!と必死に頼まれ付き合ったのだった。
そんな経過もあり、霧音はテンションが高く、オーバーリアクションになっていたのだが、それだけではなく、紗良に通じるようにするためでもあった。
紗良は生まれつき耳が聞こえず、障がい者手帳は2級だ。全く自分の事に興味がなかったので最近まで知らなかったのだが、霧音がわざわざ調べたらしく、聴覚障がい者は2級までで1級がないんだね!てことは一番耳が重いんだ?!と聞かれた。それにはビックリして親に聞いてみるとその通りだったようだ。
とはいえ、紗良は幼少時に発音の勉強などを受け、お喋り好きな性格だったこともあって普通にベラベラと喋っていた。発音は少し悪いので聞き取れないときもたまにあるが・・・。
相手の言っていることも、一対一で、口を大きく開けてゆっくり喋ってくれれば読み取れるので会話が成り立っており、どうしても一番耳が重い障がい者には見られず、驚かれることもある。
とはいえ、耳が重いのは確かで、ただ声や音が聞こえれば良いというものではなく。・・・一応補聴器で聞こえてはいるのだが。
紗良にとっては、声も音の一部のようなものであり、何を言っているかまでは分からないのだ。口を読み取り、ボディーランゲージや、それまでの会話の流れで推測したりして分かっているだけである。
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|やっと終わった・・・疲れたし早く帰ろうかなぁ。
「紗良!一緒にグラウンドにいこう!」
「えっ?!」|