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悪の組織は貴方の側に  作者: コグマ
最強の戦士、フラッシュマン登場
3/6

1-2

オーナーさんは、ホテルのロビーラウンジに来ているとの事。私は、辺りを見回してオーナーさんっぽい人を探す事にしました。優しそうな老紳士、若いアベック、骸骨みたいな人。私の中でオーナーさんは、老紳士と決定しました。あの骸骨さんはお金とは縁が無さそうなので・・・。「なんて声をかけたらいいのだろう?」一層緊張した私は、壊れかけたブリキのロボットの様な歩みで、老紳士の方に向かいました。骸骨さんには、変顔をされ、若い女の人にはクスクスと笑われていました。若い男の横を通り過ぎようとした時、「和泉いずみ 知沙ちささんですね。」と声をかけられました。


え!


三十センチは飛び上がりました。予想もしていないタイミングで声をかけてくるから。ロビーラウンジは爆笑の渦に包まれました。あの優しそうな老紳士も笑っている。それも、机をバンバン叩いて。酷い・・・。静寂を取り戻したのは、それから3分後の事でした。

女性は、私が男性と向かい合えるように席を譲ってくれました。そして、女性は男性の横に座り直しました。男性はウェイトレスにオレンジジュースを注文し、私に話し始めました。

「私の事を覚えていませんか?」


・・・。


・・・。


・・・。


あ、思い出した。このモアイみたいな人、私が自転車で轢いた人だ。わー、わー、わー、どうしよう。

「はぃ。」返事を返すのが精一杯。

私が慌てて居るのに気づいた男性は、ニコッと微笑んだ後にゆっくりと話し始めました。

「私は、毒嶌ぶすじま 悪斗あくとと申します。先日の事件で、いろいろと苦労された事とおもいます。私の所有しているビルに空き部屋が御座いましたので、余計なお世話と知りながら、貴方のご両親に連絡させて頂きました。その結果、本人が嫌でなければ入居させて頂くとご両親からご返事を頂いております。そこで、お部屋の説明と合わせて、貴方の様子を見に来させて頂きました。」男性の話が切れると同時に、私の前にコースターの上に乗ったオレンジジュースが置かれました。


うー。何と答えればいいのだろうか?新しいオーナーさんは、初めて会う人ではなかったのですが、それ以上に緊張してしまう相手でした。頭が真っ白になりそう・・・


カラン。グラスの氷の音で、我に返りました。どの位、経ったのでしょうか。私の前に置かれたグラスに付いた水滴が流れ始めています。沈黙を破ったのは、毒嶌さんの横の女性でした。

「モアイみたいな顔の男に、あれやこれや言われたら、こんな可愛い女の子が怯えるのは当たり前でしょう。ちょっと鏡でも見てきなさいよ。」

緊張して気づきませんでしたが、女性は金髪にウエーブのかかった美しい髪に、二重の大きな瞳、小さな鼻。女性でもうっとりしてしまうすごい美人でした。

撫子なでしこくん。一応は、君の上司なんだよ。もう少し言葉遣いを何とかならないかな。」諦めた様子で撫子さんに毒嶌さんは言いました。撫子さんは、空返事をしながら私に同意を求めていました。


「プッ。」私は思わず笑ってしまいました。「しまった。」と思い、毒嶌さんと撫子さんの顔を確認すると、彼らはほっとした様な顔をしていました。撫子さんに後で聞いた話ですが、石造の様に動かない私をどうにかしようと思い、「毒嶌さんの顔の事を言ってみた。」との事です。毒嶌さんの反応から、何時も言っている事は想像に難くないでしょう。

緊張から解き放たれた私は、自転車で轢いてしまった謝罪と心配して貰っていた事に対するお礼を述べ、部屋について色々と説明して貰いました。部屋は5階建ての2階で、1階はどこかの会社の事務所になっているとか。1LDKでベランダは南向き。大きな道路から、2、3本内側に入っているので騒音も問題なさそう。学校からは少し遠くなりますが、我慢出来ない範囲ではありません。

毒嶌さんは、「話だけではわからないと思いますので、後日案内します。」と言い残して帰って行かれました。


毒嶌さん達に合った夜、ママから電話がありました。「毒嶌さんについて、ママの知り合いに調査させたので、問題ない。気に入ったら住めばいい。」との事でした。ママの知り合いって、何時ものCIAって組織の人かな。気軽に調査をお願いしているので、小さな探偵事務所だと思います。かっこいい名前ですよね『CIA』って。就職で困った時は、「雑用係か何かで雇って貰おう。」と心に決めています。


心の余裕の出来た私は、心配してくれていたももやクラスの子、春に連絡を取りました。大量のメールの中に、春のママから送られた物が混じって居たのには驚きました。「心配しています。顔を見せに来てください。」だって。昔から良く面倒を見てくれていたので、春のママに合いに行く事にしました。決して春に会いたかったからではない事を強く主張しておきます。春のママは、夕食に、私の好きな鳥のからあげを沢山用意して、出迎えてくれました。とてもうれしいな。私の好きな物を覚えていてくれたのかな。事件の事や、事故の事を自分の事の様に親身になって聞いてくれました。昔と変わらず優しい人で安心しました。将来、お義母さんを選べるならこんな人にします。そうなったら、旦那さんが春になってしまう・・・。やっぱり却下と言うことで。

ももやクラスの子にも会いに行きました。放課後に待ち合わせをして楽しくブラインドショッピング。お小遣いは、事故後直ぐにママが送ってくれたので、みんなに心配かけずに済みました。

そんな生活を数日過ごした後の事でした。ママから毒嶌さんが会いに来ると告げられたのは。


前回と同じ様に、毒嶌さんがホテルまでやって来ました。違っていた事と言えば、撫子さんが居なかった事かな。小雨の中、彼の車に乗ってマンションに向かいました。フロントガラスに付いた小さな雨粒は、風に乗って後ろに流れてゆきます。道行く人達は、傘をさす人、手に持つ人と様々でした。

マンションの部屋は、説明で聞いていた通りですごく気に入りました。オートロックもあるし、洗濯物を干しても人に見られそうにありません。女の子の一人暮らしは、いろいろと大変なのです。不満があるとすれば、下の事務所の看板でしょうか。毒嶌さんに、ここに決めた事を告げると嬉しそうにしていました。


毒嶌さんと私は、一緒に昼食を取る事にしました。毒嶌さんは日替わり定職で、私はからあげ定食。私のメニューは、聞かなくてもわかりますよね。いろいろとお話を聞いていると、どうやら彼は会社の社長さんだとか。怪我させていたら、どれ位損害賠償を請求されすのか。恐ろしい事に今気づきました。


「事故の時に、もしかして怪我されていませんか?」私は聞きました。「怪我はありませんよ。ただ、帰ったら大事な物が壊れていました。」食事の手を止めて残念そうに答えました。


えっ。私が壊しちゃった・・・


彼は、いろいろと私に向かってフォローしていた様ですが、全く聞こえていませんでした。私は、どうすればいいのか、一生懸命に考えていましたから。うー。やっぱり、誠意を見せる必要があるな。


「私が弁償します。」机を叩いて立ち上がりながら、私は彼に言いました。周りのサラリーマンや主婦達が驚いた顔で私を見つめている事には、その時は気付いていませんでした。

「私の不注意ですので、弁償なんて必要ありませんよ。」

「弁償します。」再び机を叩きました。周りの人達の視線が私達の席に注がれています。これ以上注目されるのが嫌だったのでしょうか。彼は頷いてくれました。

「何が壊れたのでしょうか?」椅子に座り直しながら私は聞きました。

「フィギアです。」彼はとても小さい声で答えました。フィギアって、アニメのキャラクターの人形だっだかな。モアイの趣味がフィギアって・・・。笑いを抑えながら、値段を確認しました。


「56万4千円です。」


えっ。桁を聞き間違えたのかな?もう一度確認しても、金額は変わる事がありませんでした。


外を歩く人達は、皆傘をさし歩いています。小さな雨粒を落していた空が、急に大粒の雨を落し始めました。私の心にも大雨が降り始めました。そんな大金、返せないよー。

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