Code.1-2 記憶
「ねぇ、■■■はもう進学路決めた?」
リビングのソファーで何をするでもなくゴロゴロしていると、
二階から降りてきた■■が麦茶をコップに注ぎつつそんな事を訊いてきた
「勿論とっくに」
「どこ?」
「■■のいく所さ」
「………あぁ、うん」
ドヤ顔でそう言うと、何故かすっごいドン引きしたような眼差しで見られた
「天乃宮だっけ?■■は頭が良いからなー…俺も頑張らないと。落ちたら死ぬ気で」
「大げさな…無理して一緒の所を選ばなくても良いのに」
「やだね。決めたんだ、意地でも行くんだい!…別に、これといっていきたい場所がある訳でもないしな。それに何より…」
「それに?」
「学歴を強化できる」
「あぁ…うん、そう」
おかしいな…痛い子を見る目から軽蔑の眼差しへ変わった気がする
「…俺も勉強してきます」
耐え切れず俺はそそくさと部屋へ走って行った…
…
……
………
「…ぅ…ん…?」
まるで何十時間も寝ていたような感覚と共に意識が覚醒した。
もやが掛かった様にハッキリしない頭を振り払うように体を起こそうとし…
「!?…っってぇ…」
節々から鋭い痛みが走り即ベッドへカムバック
少々デジャヴを感じるが、
この痛みのおかげであの怪物との出来事が夢ではなく確固たる現実だと教えてくれた。
こんなにありがたくない事はない
寝転がったまま頭だけ動かし周囲を見渡してみようにも
真後ろは壁、そして残りは白いカーテンで閉ざされておりどうしようもない。
病室…にしては質素というか、それらしい器具が見当たらない
とするとここは…
「…あ!良かった…目が覚めて…」
「え…のぁ!?」
突然カーテンが開かれ、少女が入ってくる………と同時に抱きつかれた
…え?ナニコレ?どういう状況???
ってちょっとあの傷が痛い、力入りすぎじゃないかな…って本当に痛い痛い痛い!!!
「…あっ!ご、ごめん…」
よほど苦しそうな顔をしていたのだろう、少女はサッと飛び引くように離れた
「だ、大丈夫……えーと、ここは…何処?」
「ここは天乃宮の保健室…って、そう!!どうして零君が今更ここにいるの!?」
「…え?」
質問しようとしたら逆に凄い形相で問い返された…
「あー……の、どういう事?」
「だから!どうして!零君が!一ヶ月以上も経った後に!この街に居るのかって!!!」
「待って…全然全くこれっぽっちも何言ってるのか分からない…。そもそも零君って?もしかして俺の事?」
「…え?」
ぽかん、と先ほどまでの勢いはどこへやら、急に大人しくなる
「…ねぇ私の名前、分かる?」
「え?いや知らないけど…初対面だし…」
その一言を聞いた途端、少女の顔は血が引いたように真っ青になっていく
そういえば、あの時は目覚めと同時に怪物の襲撃を受けたせいで逃げる事しか頭の中になかったが…
俺の名前って……なんでだ…?何故そんな事すら…
「な、なぁ、君は俺の事を知ってるんだろ?…何も思い出せないんだ。どうしてあんな所で倒れていたのか、知っているはずらしい君のことも、自分の名前すら…何も…」
そう口にし把握していく度、
底の見えない穴に落ちていくような…どうしようもない不安に駆られていく
「大丈夫、零君…貴方は貴方。ちょっとずつ思い出そう?」
彼女に包み込まれた手から伝わる温かさが不安という闇に蝕まれていく心に光を射す
「……ありがとう。もう、落ち着いた…大丈夫だ」
「ふふ、どういたしまして。…こんなに素直な零君を見たのはいつぶりだろ」
「それで…よかったら色々と教えてくれないか?俺の事…知っている筈の君の事を」
「うん、もちろん!いつまでも零君に君キミ呼ばれるのはむず痒くて仕方がないもん」
そう笑いながら彼女は改めてこちらを見据える
「まず、私は"水瀬咲姫"。そして貴方の名前は"霧城零"。関係は…家族同然の幼馴染?」
「霧城、零…それが俺の名前…」
口にしその名を刻む。
瞬間、まるで旧友と久しく出会った様な、すとんと胸の内に嵌った様な感覚があった。
「なぁ咲姫、そういえばここは何処なんだ?天乃宮の保健室とか言ってたけど…」
何故か自然と彼女の事を下の名前で呼んでしまったが、これはとても失礼ではなかろうか…いや失礼だろう…でも家族同然の幼馴染とか言ってたし…不思議と記憶を失う前はそう呼んでいたような気もするし……あああほら彼女もちょっと驚いたような顔を…
「あぁいやその…ごめん、馴れ馴れしく…」
「え?うぅん良いの!いやむしろ良かったらそう呼んで欲しいかなって。今更零君に「水瀬」なんて呼ばれたら背筋が…」
「そ、そうか。」
「ごほんっ。…それで、ここは"天乃宮学園"。私たちが通っていた高校だよ」
「通っていた?」
「うーん…何て説明しよう……"私たちはこの世界…街に閉じ込められている"…なんて言ったら信じるかな?」