ねえ、なんで?
冬童話参加作品です。
童話っぽくなってればいいなーと思います。
かなちゃんは奏という名前です。
でもお母さんもお父さんも、小さな奏ちゃん自身も「かなちゃん」と呼んでいます。
そんなかなちゃんはとっても好奇心旺盛で、なんでも知りたがります。
「ねえ、なんで、おそらはあおいの?」
「ねえ、なんで、ねこさんはたかいところにいけるの?」
「ねえ、なんで、おかあさんのたまごやきはおいしいの?」
毎日浮かんでくるたくさんの「なんで」に答えてくれるのは、お母さんとそーくんでした。
そーくんは、かなちゃんの家の隣に住んでいる男の子です。
そーくんはかなちゃんよりも年上だけど、時間があるときはいつもかなちゃんと遊んでくれるので、かなちゃんはそーくんのことが大好きでした。
3歳のかなちゃんが聞きます。
「ねえ、なんで、とりさんはそらをとべるの?」
「かなちゃんが走るのが大好きなように、鳥も飛ぶのが大好きだからだよ」
かなちゃんは、そーくんの答えに「そっかー」と言ってにっこり笑いました。
4歳のかなちゃんが聞きます。
「ねえ、なんで、おほしさまはおちてこないの?」
今日はかなちゃんのお母さんがお仕事で遅くなるので、そーくんのお家にお泊まりです。
そーくんのお部屋の窓からはたくさんの星がきらきら輝いて見えました。
「お空が真っ暗だとお月様がさびしいから、お星様がいっぱい光ってさみしくないよって言ってあげてるからだよ」
そーくんの答えに満足して、かなちゃんはそーくんの布団に潜り込みました。
一緒に寝る布団は暖かくて安心できて、かなちゃんはすぐに寝てしまいました。
5歳のかなちゃんが聞きます。
「ねえ、なんで、アイスはすぐにとけちゃうの・・・」
かなちゃんの涙が浮かんだ大きな目は、ぺちゃりと落ちてしまったピンク色のソフトクリームをじっと睨んでいます。
大好きなソフトクリームはかなちゃんが食べ終わる前にいつも溶け出して、ベトベトになってしまうのに、今日は一口食べただけで溶け落ちてしまったのです。
「ソフトクリームはね寒いのが好きなんだ。だから今日みたいに暑い日はたくさん泣いちゃうから早く溶けちゃうんだよ」
そーくんはそう言って、自分が食べるはずだったソフトクリームとかなちゃんの手に残ったコーンを取り替えました。
きれいに渦を巻いたソフトクリームをぺろりと舐めて、かなちゃんはにっこりと笑いました。
かなちゃんは白いソフトクリームも好きになりました。
6歳になったかなちゃんが聞きます。
「ねえ、なんで、そーくんといっしょに学校に行けないの?」
かなちゃんはもうすぐ一年生。ぴかぴかのランドセルを背負ってそーくんに見せに行くと、そーくんは新しい黒い服を着ていました。
そーくんは中学生になるのです。
一緒に小学校に行けると思っていたかなちゃんは悲しくなりました。
「学校は違うけど、僕もかなちゃんも同じ一年生になるんだよ」
そーくんのその言葉に、かなちゃんは少し考えて、そしてにっこりと笑いました。
「同じならいいね。一緒だね」
一緒に通うことは出来ないけれど、同じ一年生という「おそろい」が嬉しかったのでかなちゃんはがまんできました。
7歳のかなちゃんが聞きます。
「ねえ、なんで、お姫さまは王子さまとけっこんするとしあわせになるの?」
文字が読めるようになったかなちゃんは、たくさんの本を読みます。
かなちゃんはお姫様が出てくるお話が大好きです。
お姫様はいつも最後には王子様と結婚をして幸せになってお話が終わります。
「王子様じゃなくても、お姫様は幸せになると思うけどね」
「そうなの?」
「そういうこともあるんだよ」
そーくんの言葉は難しくて、かなちゃんにはよくわかりませんでした。
「じゃあ、かなも、王子さまにあえなくてもしあわせになれるの?」
かなちゃんは自分がお姫様でないと知っているので、幸せになれるか不安だったのです。
「女の子は幸せになるとお姫様になるんだってよ」
かなちゃんは再度首を傾げます。
「お姫さまじゃなくても、お姫さまになって、しあわせになるの?」
「そう。だからかなちゃんは待っててくれるかな?」
「うん、まってるよ」
かなちゃんは何を待てばいいのか分からなかったけれど、そーくんの言葉に素直に頷きました。
10歳のかなちゃんが聞きます。
「ねえ、なんで、男子って意地悪ばっかりするの!」
かなちゃんは怒っていました。
同じクラスの男の子がいつもかなちゃんの長い髪を引っ張って遊ぶのです。
そんなかなちゃんを見てそーくんは苦笑します。
「その子はかなちゃんのことが好きなんじゃないかな?」
かなちゃんはきょとんとした後、ものすごく不思議そうな顔をしました。
「好きなのに意地悪ばっかりするのって変じゃないの?」
「男って言うのは好きな子に見てもらいたいから、時々馬鹿なこともしちゃうんだよ」
そういったそーくんの顔はなんだか寂しそうで、かなちゃんはどうしていいか分からなくなりました。
13歳のかなちゃんが聞きます。
「ねえ、どうして、先輩っていうだけでエラそうにするの?」
中学生になったかなちゃんは、部活の先輩がいつも一年生に対して命令口調なのが許せないのです。
「もしかするとその先輩も同じようにされてきたから、同じ態度しか取れないんじゃないかな?」
そーくんの言葉にかなちゃんは少し考えます。
「じゃあ、かながこうしてくださいってお話ししたらわかってくれるかな?」
「話の分かる人ならかなの話を聞いてくれるだろうけど、いろんな人がいるからね。あまりに困るようなら先生に話してみるのも一つの手だよ」
そう言ってそーくんはかなちゃんの頭をくしゃりと撫でました。
かなちゃんはくすぐったくてクスクスと笑いました。
「ねえ、なんで……」
16歳になったかなちゃんの声が部屋に落ちました。
いつも聞いてくれるそーくんはいません。
今日、学校からの帰り道に見かけたそーくんは、かなちゃんの知らない女の人と楽しそうに歩いていました。
「あの人はそーくんの彼女、なのかな……」
高校生になったかなちゃんと、大学生のそーくんの距離がとても開いてしまったような感じがします。
次の日から、なんとなくかなちゃんはそーくんを避けました。
今までのようにそーくんの顔が真っ直ぐに見られなくて、そのことが悲しかったのです。
久しぶりに会ったそーくんは少し怒っているようでした。
かなちゃんはそっと目を逸らして逃げようとしましたが、そーくんはその腕を掴んで引き留めました。
「奏、なにかあったの? なんで俺を避けるの?」
そーくんが俯くかなちゃんの顔を覗き込みながら聞きました。
そういえば、そーくんはいつから「かなちゃん」ではなく「奏」と呼ぶようになったのでしょう。
その事に気付いたかなちゃんは、心がきゅーっと苦しくなりました。
「奏?」
優しい声にかなちゃんの瞳から涙がこぼれ落ちました。
「ねえ、なんで……?」
涙混じりの声は少しだけかすれています。
問いかけたいことはたくさんあるのに、かなちゃんの言葉は続きません。
そーくんはかなちゃんの頬にそっと手を当てて、涙を拭いました。
「なあ、どうして?」
それはそーくんからの初めての問いかけでした。
その事に気付いてかなちゃんがじっと待っていると、そーくんは言葉を続けます。
「奏はいつになったら、俺のことを男としてみてくれるの?」
「……そーくん?」
「宗一だよ。もうそーくんを卒業させてよ」
真剣なそーくんの顔を見て、かなちゃんは何故だかドキドキとしてきました。
「そろそろ約束を果たしたいんだけど、奏はもう待ってないの?」
「待ってるって……約束って……?」
「俺言ったよね。奏をお姫様みたいに幸せにするから待ってて、って」
それはずっと昔の小さな約束でした。
考えて考えて……ずっとずっと昔の記憶の中から、かなちゃんはようやくその「約束」を思い出しました。
「そーくんが、私の王子様?」
「そうなりたいってずっと思ってたよ」
ふわりと笑うそーくんの顔とその言葉に、かなちゃんの頬に透明な雫が流れました。
「そーくん……」
「宗一だよ」
「宗一……くん」
「うん。奏は俺のお姫様になってくれる?」
かなちゃんはもう何も言えなくなって、ただただ一生懸命に首を縦に振りました。
そんなかなちゃんを、そーくんは優しく抱きしめました。
そうして、かなちゃんは奏というお姫様になって、宗一という王子様と一緒に幸せになりました。
めでたしめでたし?
読んでいただきありがとうございました。
でもよく見直してみれば、そーくんは何歳のかなちゃんから目を付けていたのでしょうね・・・(汗)