遠足の班
* * *
「はーい、じゃー班に移動してー」
文字にすると伝わらないけど、我らが担任、駒紀百恵先生の声は大きくて力強い。あたしはこの声が大っ好きなんだ!
うまく言い表せないけど、好き。とにかくいいんだよ。
今日も駒紀先生は茶色い縁のあるメガネにふっくらとした顔、二重あごに大きな鼻。そしてちっちゃい。
見た目は30代なんだけど、実は24歳だったのでした……なーんてことが前にあったんだよね。服は以前にも見たことのある白いブラウスだった。
でもね、すごく面白いし明るいし、絵下手だし、ちょっと可愛らしいし、生徒には人気があるよう。
振られた班の席は真ん中の一番前。そこに移動して皆で座ると、他の班はぼちぼちと遠足のことについて話し始めていた。
決めることは1つだけ。でも、もちろんあたしは無言。ちはも、結構ムードメーカーっぽいけど慣れていないためか喋らない。男子も「……」な状態。
残った春子、というは案の定春子が話を切り出した。さ
「えっと、じゃあまず班のメンバー書こっか」
でも、春子だって班長とかになりがらない性格だから、恥ずかしそうに笑っていた。偉いなー、春子は……。やっぱすごい。
みんな何も言わずに『遠足のしおり』をパラパラめくる。メンバーを書くことろを見つけると、書き始めた。
女子メンバーの名前を書きつつ、あたしは前で鉛筆やシャーペンを動かしている男子たちを見た。
一番左はじ、千早の前にいるのはたしか、インドネシアかフィリピンかのどっかのハーフ、住吉。
肌が茶色くてこんがり焼けているみたいだけど、これは元々なんだっけ。言っちゃ悪いけど動物に例えるとしたら猿。鉛筆を使ってる……ダサっ。
その隣、男子たちの真ん中にいるのが、天然パーマで背が小さめの小松。まぁ、あたしよりは大きいけど……。それで、自分のことを『僕』って言う珍しい男子なんだ。僕系男子っていうのかな? 動物に例えるとしたらトイ・プードル。
最後に、小松の隣、つまりあたしの前にいるのが大東。黒縁メガネをかけていてみんなからは「毒舌大東」って言われてる。まぁ、ツッコミのエキスパート?
春子が住吉に「漢字どうやって書くのー?」と聞いたので、あたしと千早もそれに便乗して見せてもらう。
男子たちもそれに続き、全員で名前の見せ合いっこをした。あたしの名字の漢字は、わからない男子がいたからまぁまぁ喋れたの!
もしかしたら、メンバーの名前を書き合うことだけでもいいコミュニケーションなのかもね。
みんながほとんど書き終えたとき、小松が裏声のような、特殊な声をあげた。
「なに決めるんだっけ?」
変な声だなぁ……。声変わりしてないのか、男子にしては若干高めだし。っていうか見れば見るほどトイ・プードル……ぷっ。前世イヌだったんじゃないの? ってくらい。
トイ・プードル小松の質問には、大東が答えた。
「え、どこに行くかを決めるんじゃないの?」
こちらも特徴的な声。
「あ、そっか」
そっかじゃないって! 話進めてくれればいいのに……。
「班長とか決めないの?」
住吉がぼけっとした声でいうと、みんなあぁー! と声をあげる。
「じゃあ誰が班長にするー?」
こういうときは必ず誰かを指差すものだよね。
今も、春子以外みんな誰かを指差している――――やっぱり、春子だった。
春子は「えええええー、無理無理」とか言って自分の前で手をたくさん振ってるけど、春子しかいないよね。
「えーっ、なんでよ、都だってしっかり者じゃん」
「えー、あたしのどこがよ」
さっきから『え』を言ってばっかだなぁ……。
春子はしばらくすると諦めて、やっと班長の座に収まった。
残るは時計係。
「誰にする? 時計係」
「あたし時計持ってない……」
「じゃあうちやるよー」
女子だけの話し合いとなり、あたし以外の女子二人が役割についた。やばい、あたしって超役立たずじゃん……。
春子は先生からもらったファザー牧場のマップを広げた。
「あのね、オリエンテーションが終わってから集合までの間に自由時間があるんだけど、どこ行きたいー?」
四隅の、あたし含めた4人は身を乗り出してマップを見、口々に言った。
「こぶたのレース可愛い﹏﹏﹏﹏!」
「ふれあい牧場行きたいなぁ」
「アヒルの大行進ってなに? ただ歩くだけ?」
「春子も子豚のレース見たいなぁー!」
可愛いと騒ぐちは、子供のように言う小松、お得意のツッコミを披露する大東、明るく言う春子。
あたしは大東のツッコミに笑いながら、「そうじゃない?」と相槌を打った。結構面白いなぁ、大東。
不安だったけど、ちょっとは楽しいかもしれない。緊張して縮小した体全体の筋肉が緩んでいくみたいだよ。
あたしはこぶたのレースかアヒルの大行進がいいな〜。――――――って、あっ!?
あたしはおそるおそる、主にちはと春子に言った。
「ねぇ、思ったんたけどさ……。自由時間の時間に合ってないといけないし、その後の集合場所との距離も考えなくちゃいけないんじゃない? かな……」
ううう、やっぱりみんなの前で言うのは少人数であろうと緊張します……。
ちはは一人、え? どういうこと? と言っていて、それ以外の人は理解してそっか、じゃあコレはだめだ、などと呟いていた。
だから、自由時間の時間に合っていて、かつオリエンテーリングの到着地点からの距離も考えなくちゃいけない。プラス、その後の集合場所のことも考えると、こぶたのレースは行けなくて――――――。
春子が苦笑混じりに呟いた。
「これ、ふれあい牧場かアヒルの大行進しか行けるところないね〜……」
でも、先生の言ってた、行く所を選ぶときの注意だと……。
「ふれあい牧場は行っちゃいけないんじゃないの?」
大東とあたしの考えが見事に一致。別に嬉しくないけどね……。
アヒルの大行進ね〜。
別に決まったものにケチつけるわけじゃないけど、往復するから大変だよ〜? 集合場所とオリエンテーリングの到着地点が近いんだからさ。
マップの写真を見ると、アヒルがわんさか歩いてて激カワ。この可愛さはヤバイよね。
「グワッグワッ」「ガーガー」って鳴くアヒルを想像するだけで幸せ……♡
早く見たいなぁー!
男子は男子、女子は女子で喋りながら、グループの相談は終了した。
フゥ、長かった……(*´ο`*)=3
今回は、私にしては長いと思います。
だから読むの大変かもしれませんね(^_^;)
でも、ちょっとずつでも、しおりできるので読んで頂ければ幸いです。
次話もいつになく速いペースで仕上げたいと思います〜。
ではっ!