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テストが全部返ってきた。
全体的には、そうだなぁ……。
小学校の頃よりも下がっているのは一目瞭然だった。
けど、周りの声を聞いているとあたしはいい方なのかもしれない。
だけど。点数が大幅に下がっているというダメージは少なからず受けた。
それでか、みんな点数を教えてくれないのー……。
点数の比べっこしたかった。
でも、ホッとしたのは五〇点以下がなかったってこと。
一番悪かったのは六二点の音楽かな。
音楽ってみんな点数良かったみたいだからショック。
英語は八一で嬉しかったけど、由唯と春子に負けちゃった。ちょっと悔しい。
理科は八七という良い数字だったけど、小テストで一〇〇点を取ってしまったために下がったという気持ちが薄れない。
いけるかもとか言っていた国語と社会はそれぞれ七二、七六……。
数学と技家庭はほんとやばい。
合格ラインはせめて八〇なのに……。
ピンポーン
突如鳴り響いたその音に、あたしはまず顔を上げ、日記を記していた手を止めた。
ゆっくり歩いて窓から外を覗く。
家の前には、プラスチックのような素材のバックを持ったちはがふらふら動いていた。
ついついくすっと笑ってしまい、あたしは階段を降りる。
ああ、そっか。今日はそんな約束をしていたっけ。
テストから一週間ほどたった今日。
テスト期間だったからしていなかったけど、ちはとあたしは漫画の貸し借りをしているんだ。
ちはの持っている漫画はあたしの好みにストライクで、借りた翌日にはもう読み終わっているほど。暇人ですから。
適当な置いてあったサンダルを履き、鍵を左に回してドアを開く。
「やっほー」
ドアから顔だけを出して言うと、あたしは家の前の小さな階段を降りた。
「はいよー」
オヤジのような言葉と共に渡された漫画。
バックの持ち手を握るとずしっ、と漫画の重みが手にのしかかる。
「ありがとー」
……最近の子って語尾を伸ばす癖があるのだろうか。
あんまり意識してなかったけど。
ともかく、あたしはちはに新たなる漫画を渡さなければならない。
「次、何読みたい?」
「何持ってるんだっけ」
あぁ、もうまたかよー。めんどくさい……。
そう思いながらも、忘れてしまうことは仕方がないので丸めた指を一本一本立て数えながら言った。
「名探偵コーナンは見たでしょ? あと見てないのは……あ、わたしをなんとかしなさい! は?」
これは結構人気のある少女漫画。
きっとちはの好みに合うと思うんだけどな……。
「あ、見たい見たーい」
「オッケー。……何冊?」
「うち五冊持ってきたよー」
「ちょい待ちー」
あまり待たせないように素早く階段を駆け上がる。
ドタドタ音がすると思うけど気にしなーい。
部屋に着くとまずちはから預かった漫画を床に置き、本棚からあの漫画を五冊取り出した。
うん、一、二、三、四、五、これを適当にあった袋に入れて……っと。
先程と同様に階段を駆け下り外に出たあたしは、袋をはい、とちはに手渡した。
「ありがとー」
「んー」
家の前の壁にある、下方の小さな段にちはが足を乗せ前後に小さく揺れる。
そんなおかしな行動をとる彼女に、あたしはバックを後ろに持ちながら尋ねた。
「テストどうだった?」
「うーん……。思ったよりも出来なかった〜」
「だよね〜。一番良かったのって何?」
「うち理科」
おぉっマジで!? 一緒じゃん!
思わず目を見開いて、ちはを指しながら言ってしまった。
「あたしもあたしもー!」
「一緒だ〜」
ちはがハイタッチの用意みたいなことをやってきたので、あたしも手を耳の横あたりに持ってくる。
「「イェーイ」」
そしてそのまま前に押すと、二人の手が当たってパチーンと気持ちのいい音が鳴った。ちょ、ちょっと手の平痛い。
いつの間にか、ちはは段差から降りていた。
何かさっきから謎の違和感を感じるんだけど……。
あれ、ちょっと待って。
あたしが一番良かったのって理科だっけ?
一個だけ九〇いったのがあったはず――――――。
「あ、一番良かったの美術だ」
思い出して呟くと、「なんだ〜」と言いながらちはの上半身が一回、前後に大きく揺れた。
漫画で言う、『ガクッ』と脱力する感じか〜。
「何点?」
「えー、都は?」
あらあら、疑問文に疑問形で返しちゃいけないじゃないですか。
まぁ、あたしばっか聞いてたからたまにはあたしが答えなきゃね。
「あたしはねー、九二点」
「えー、うちより高いじゃん」
言うのやだなぁという感じで言うちは。
「いいよ、教えてよ。うちも言ったんだし」
「えー……八五」
勝ったー。
心の中でちょっぴり対抗心を燃やしていた。
クラスメイトがテストの点を言い合ってるとき、よく耳をダンボにして自分と比較してる。
クラスの頭いい人に勝てたときの喜びはすごいんだよね〜。
「いいじゃん、八〇いけば」
「まぁねぇー」
落ち着かないたちなのか、地面に足を付けているあたしに反してちははさっきからずーっと動いてる。気になるんですけど……。
あたしはうろうろ動き回るちはを見つめながら、新しい話題を出した。
「じゃあ、一番悪かったのは?」
「社会ー。もう社会とか意味わかんない、人の名前とか物の名前とかべべべべーって感じ。先生だって教え方下手だし……」
『べべべべー』という謎の効果音のときに、ちはが頭と両手を振った。
「ああー、まぁね……」
黒板は書き方汚くてノートにまとめ辛いし、話が変なところまで行くし、禿げてるしね……。最後はどうでもいいか。
でも、先生の説明でわからないのなら教科書を見て勉強するしかないじゃん。
あたしはノートにまとめたし。
社会の何が嫌なんだろう……?
「社会何点?」
ちはに聞かれ、あたしは思い出すときの仕草をしてみせた。
えっと、たしか……。
「七六、だっけな」
ちはがうろうろとした動きを止めた。
あたしを見つめた瞳は大きく見開かれている。
「えぇ!? 嘘でしょ!?」
そんなに驚かれるなんて。
気恥ずかしさもあり、へへっと笑ってしまった。
いや、でも七〇後半の点数が良いとは思えないんだけど……。
あたしはこの点数に満足してないし。
「どうしたらそんな点数取れんのー?」
あぁ、これ春子にも聞かれた。
うぅー、こんなこと聞かれても困るんだよね。
自分に合った勉強方法で工夫することが大切だと思うんだけどな〜。
とりあえず、う〜んと言いながら自分のしたことを言葉にした。
「えっとー、まずノートに要点……大事だと思うところをまとめて、赤シートで隠して覚えるじゃん。後は教科書とか小テストをちょっと見る?」
こんな感じでいいのかな、といえ不安な気持ちが疑問文にさせてしまったが、ちはは「へぇ〜」と感心していた。
……でもきっと、すぐに忘れちゃって実行しないんだろうなぁ。
ちょっとちはがアホっぽく思えてしまって、クスッと笑う。
やっぱり、ちはっておかしいね。
だけど、おかしいのはちはだけではなかった。
再び動き出したちはが、戸惑った様子で少し笑ったんだ。
「都、何それ……」
「へ?」
ちはの笑いを含んだ視線の先には、あたしの足。
普通に立っているだけの、あたしの足。
何はちはのほうだけど……。
精神科へ行くことをおすすめします。
「何? 何もないじゃん」
あたしがいぶかしげな視線を送ると、ちはは必死に「ほんとに! ほんとに!」と訴え続ける。
……まぁ、聞くか。
「何があったのよ……」
呆れた様子で尋ねると、ちはは一人思い出し笑いをし始めた。
「あのね、都がこんなことしてたの」
「あたしが?」
うん、うなずくと、あたしがやっていたという動作をやり始めた。
一、二、三、四のリズムで左右に足を動かし、ステップを踏む。
偶数の際に両足を揃える。
「えっ、これをあたしが……!?」
ステップを踏み続けるちは。
あれ、記憶ないんですけど。
無意識にやっていたのかなぁ……無意識に……。
想像するステップを踏む自分、しかも無意識はあたしの笑いのツボにはまってしまった。
二人で笑った笑いがおさまると。
あたしはふと空を見上げた。
ちはは五時頃に終わる部活の後、ここに来た。
もうきっと六時近いのだと思う。
あたしの目に映る空はもう暗く、紺と紫が混ざり合ったような色をしていた。
たった一つ星が煌めいていて、白くふわっとした雲は、視界には見えない。
いつの間にか電灯が灯され、辺りがほんのり薄い黄色のような光に照らされている。
そんな、いつもの夕方。
あまり暗くなるとちはにも可哀想だし、今日はもう話すこともあまりないからバイバイするかな。
ちはをちらりと見ると、家の前の壁に足を付け、曲げたり伸ばしたりしていた。ひ、人の家の前の壁に……。
小さな苛立ちが宿ったけど、あたしは微笑みながら息をついた。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
あたしがそう言うと、ちはは壁から足をゆっくり下ろし、うなずく。
「だねー」
あたしはそのまま、ちはだけ一歩ずつゆっくりと後ろへ進みながらゆっくり手を振り合った。
「じゃあ、また明日ね〜」
「ちは、明日は土曜日だよ」
あたしがクスッと笑うと、ちはは一瞬動きが止まったけどすぐにこくこくうなずく。
「あ、そ、そうだね」
あまりにも澄んだちはの声、素直な様子。
なんとも言えない気持ちがあたしに押し寄せる。
「じゃあ、バイバイ」
「またね〜」
和泉千早は漫画の入った袋を揺らしながら、あたしに向けて笑顔で手を振り、建物の曲がり角に消えていった。
――――――この子と一緒にいたい。
そう思った梅雨のころ。
梅雨空か晴れても、きっと事は起きる。
これにて大きな四つのうちの一つ、『Spring』が終了しました〜! パチパチパチパチ
春とかいっても、物語の都合上4,5,6が春、7,8,9が夏と言った形でズレてるのですけどね!
もしかしたら、12月を冬に移動する……かも?
これからもよろしくおねがいします!!




