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中学には年に三回、大きなテストがある。定期、期末、学年末だ。
この六月下旬には定期テストというものがあって、九教科全部のテストが行われるんだ。
聞いてたけど、実技教科――――――家庭、技術、音楽、美術、保健体育のペーパーテストはやった試しがないから、どんなもんなのか不安でしょうがない。
五教科だって、英語以外は一〇〇点を普通に取れていた人も多くが取れなくなるとか。
六〇点とか、三〇点とか取ったらどうしよう……。
嫌だぁぁぁぁぁ。怖い、すごく不安。
……ってわけで、ちは、由唯、真琴、あたしの四人でテストに向けた勉強会をすることにした。
今日でもう、テスト一週間前を切っている。
だからみんな、クラスでも不安がってる人が多かった。
でもね、テスト一週間前は部活がないの。
早く帰って勉強しろー、っていうことなんだろうけど、折角だからと遊ぶ人もいるようで……。ありえないけど。
ちはと帰る方向が同じなため、一緒に学校を出て家に帰った。
それから急いで用意を整えて、勉強会をするちはの家へ向かったんだ。
ちはの家は、普通の住宅とはちょっと異なる、オリジナルみたいな家。
家の横には斜めに倒れかかってきている銀杏の木があって、二階の中心にある窓がなんだかオシャレ。
木造で白いペンキが塗られてるけど、ところどころ木の色が見えていて決して新しくはない。
なんとあたしが一番乗り。
ちはが用意してくれた小さな折りたたみの机に勉強道具を広げ、喋りながら待つ。
ちはの部屋はお姉さんと共同部屋みたいで、勉強机が二つあった。
左上の隅に大きな木のタンスがあり、右上には棚のようなものが二つ。
左下には黒いピアノと大きなくまの、ちょっと薄汚れたぬいぐるみがあった。
棚にランドセルが二つ掛かっている。
四人全員が揃うと、みんなでチャレンゲのテキストを解き始めた。
始めのうちはあんまり喋らない。
横にいる真琴のテキストをちらりと見ると、驚くべきものが目に写った。
「えっ!? 真琴って数学ハイレベルなの!?」
驚いて思わず尋ねてしまったあたしの問に真琴は、
「うん、まぁね」
と、うなずいてみせた。
真琴は、男子に間違えられそうな黒いボーイッシュなショートカット、黒く焼けた肌。
歯を矯正してるみたいで、笑うと白い歯とそれが見えるんだよね。あたしも歯並び悪いからやりたいなぁ。
「え!? 真琴ハイレベルなの!?」
「さっすが真琴ちゃん」
由唯が冗談めかして言うと、真琴はやめてよー、とゆっくり胸の前で手を振った。
真琴は字が綺麗だし、頭もいいんです。
数学とか本当に無理だよ……。
今は計算だからまだマシなほうだけどさ。
さっきより喋りが活発になってきた四人の勉強会。
でも今はまだちゃんとやってる。
だけど、集中力が続かない人はここらへんでなにかをし始めるわけで……。
ちはが自分の、充電してあったチャレンゲタブレットの充電器を取り、手に取って画面に指を滑らせ始めた。
「みんなはさー、親が決めたパスワードわかる?」
「あたしわかんなーい」
「真琴もねぇ、わかんない」
由唯がテキストから顔を上げて、真琴はいつものようにゆっくりと答える。
あたしは笑みをたたえながら言った。
「あたしは、ママが機械音痴だから自分で設定したよ」
「えぇ、いいのー? それ」
ちははそう言ったけど、
「だってママに面倒くさいから自分で設定してー、って言われたからね〜」
なんだー、と呟くと、ちははタブレットを再び操作し始めた。
「いいなぁ。真琴はパスワード全然わかんないよ」
「うちはねー、お父さんがここの中学出身だからパスワードわかりそうなんだけど合わないんだよね〜」
「そうなんだー」
ここの中学出身だったらどんなパスワードにするの……? ていうか、そのパスワードにするとは限らなくない?
やっぱり謎なちは。
さっきから由唯が会話に入ってない。
と、聞いたことのある操作音がすると思ったら、ちはがタブレットのチャレンゲ勉強用アプリをしていた。
みんなが画面を見ようと、ちはの周りに集まる。
画面を見た由唯が、笑い混じりに呟いた。
「え、ちは、名前……たぶちゃんなの?」
「たぶちゃん?」
あたしが画面を見ると、ちはのアバターの下に『たぶちゃん』の文字があった。
由唯が高い声で笑う。真琴も「たぶちゃん……」と掠れたような声で笑った。もちろんあたしも爆笑。
ちははみんなにつられてか笑いながら、「な、なにかおかしい?」と言っていたけど、おかしいよ、すっごいおかしいよ。
真琴が笑いながらちはに尋ねた。
「なんでたぶちゃんなの?」
それはきっとタブレットだから――――――。
「あー、タブレットだし、適当」
「でたー、適当!」
ちははいつも適当なんだよね。
あたしも多少、そういうところあるけど。
ちはの名前が面白かったせいでみんなの名前も気になってしまい、聞いてみた。
「あたしは白い星と黒い星の間にゆいゆいだよ」
「真琴はねぇ……カピパラペンギン」
カピパラ!? ペンギン!?
なんか変だけど可愛いかも。
「なんで?」
ちはが尋ねた。
謎の名前の由来はなんだ!?
どうでもいいことのような気がするけど。
「カピパラとペンギンが好きだから」
真琴が可愛く見えてきた……。
でも組み合わせるなんて発想、思いつかなかったよ。
「都は?」
「えー、みやこりん」
一瞬、みんな「え?」って顔したよね。
「なんでー?」
ちょっと笑いながら、ちはが澄んだ声で言う。
「適当だよー。なんかピーンときただけ」
「はーっ」
で、でた。ちはの鼻で笑うような感じの相槌……。
ポイントはため息みたいに下がるんじゃなくて、上がることかな。
初めてされたとき、バカにされてるのかとイラッときたな〜。
でももう慣れてきたから、たまにしかイラッとしないよ。
ていうか、あたしだけそんな反応ひどくない!?
超どうでもよさげですねー。
見るともうみんな、シャーペンを机やテキストの上に置いて喋りに没頭しちゃってる。
友達と勉強会なんて、絶対遊んじゃったり喋っちゃうんだから……。
真琴は両手サイズの黒いペンギンを持って、あたしは大きなくまのぬいぐるみに座り、タブレットをいじる。
そんな中、ちはと由唯はちょこちょこテキストに向かっていた。
あたしは友達とじゃあ勉強がはかどらないから、家でやろう。
だって、どっちかしかできないんだもん。
喋りながら勉強とか頭に入らないのはもちろん、なかなか進まない。
勉強に集中したらあたし喋らないし、喋ろうとしてたら勉強がはかどらないし……。
あたしはタブレットのまだ真新しい綺麗な画面を見つめた。
この勉強アプリには、すごくたくさんの機能がある。
その中の一つ、サークルをあたしはタップし、ちはの入っているサークルを見てみた。
たぶちゃんことちはは、料理サークルに入ってるみたい。
入ったサークルで、ここだったら料理について語り合うんだね。
趣味の合う人と仲良くなれることもあるんだよ。
あたしはゲームサークル。
コメントを見てみたけど……。
「料理に関係ないことばっか……」
真琴が歯と矯正を見せて笑いながら呟いた。
「だねー。……ふっ」
タッチペンで色々とタップしていたら、よくわからないボタンを押してしまったようだ。
「え、なに? これ」
「どうしたの?」
真琴と見た画面には、『♡リカ♡さんのコメントに僕も! 私も! を送信しました。』
……や、やばい……?
ど、どどどどうしよう、勝手にやっちゃった。
元の料理サークルの画面に戻ると、あたしが感想を送ってしまったリカさんのコメントが表示されていた。
『玉ちゃん大好き♡ 同じ人感想ください! 仲良くしてほしいな!』
ノオオオオオォォォォォ!! あ、アハハハハハ……。
悪いあたしはこのまま放置したかったけど、真琴がちはにこのことを言ってしまった。
「都が変なコメントに感想つけちゃった……。あは、あは、あは」
笑い方も壊れたようでおかしいし、喋り方から声のテンション低いよー! それで笑うの怖いって!
ちはが不安げな顔をして、横からタブレットを引き寄せた。
「何したの?」
「いや、な、なんかね、よく分かんなくなっちゃって! 玉ちゃん大好きっていうコメントに僕も! 私も! って感想送っちゃった……」
「うち別に玉ちゃん好きじゃないよー! やだー!」
あは、ごめんね……。
そんなちはに、みんなはそれぞれ特徴のある笑い方で笑った。
それから真琴がペンギンのぬいぐるみを潰したら横長になってしまったり、みんなで由唯が持ってきたチョコスナックお徳用を食べたりしたんだ。
すっごく楽しかった。また出来ればいいな。
テストヤダーテストヤダーテストヤダー。
本当にテストって嫌ですよね。
はぁ、次は中間……。その前に振り返りテストがあるや。
感想待ってます。いつもありがとうございます!




