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4月8日(火)ハイテク機器を手に入れました

 私の手元には、ハイテク機器がある。

 所謂、メディアプレイヤーってやつだ。小さな私の手にもスッポリ入る小さ目サイズ。そして驚きの薄さで、軽い。

 ちなみに私の元々の私物ではない。

 今朝通学したら、机の上に置かれていたのだ。


「何、これ?」

「ん? ああ。なんていうか……学生証みたいな?」


「……は?」


 答えてくれた丞くんには申し訳ないけど、そんな反応しかできなかった。


 その後先生がやって来て、初めてのHRが始まった。

 一通り学園の説明と、教科書の確認、セレブ学園でも定番の自己紹介を終えると、先生はやっとこのハイテク機器を話題にした。


「はい。では電源が入るか、確認してください」


 はいはい。長押しっと……。

 すると、ブゥゥゥンと電源がつく。そこに現れたのは、学園のエンブレムだった。


「エンブレムが確認できましたが? では、説明する通り、操作してください」

「えっ……」


 見渡すと、皆慣れた手つきで操作している。

 ええと……入学式で使ったカードに記載してあるコードをすべて入力する。すると、『確認中……』という文字が出て、私のデータが現れた。


(おおっ!!)


 ええと……パスワード設定……。ええと……どうしよう。


「パスワード設定までできましたか?」


 あ! 待って! 待ってください先生! よし。じゃあ無難に誕生日にしとこう。

 パスワード確認でもう一度誕生日を入力すると、エンブレムの上にいくつかのアイコンが出てきた。


「IN&OUTアプリは、通学時に各自のロッカーに読みこませてください。施錠と開錠となり、同時に保護者の方に通学確認が届きます。あ、更衣室や教室の個別ロッカーの施錠には別のロックアプリを使ってくださいね。続いて……」


 先生の説明はよどみなく続く。

 学食や購買での買い物に使用するおサイフアプリ。選択授業を管理するアプリに図書館利用アプリ。アラームアプリもあれば、学園内の地図アプリ、スケジュールアプリもある。これは学園全体や学年のイベントは既に入力されていた。今月下旬、世間で言うところのGWの合間には『藤見茶会』なるものがあるらしい。学園の周囲には、たくさんの藤棚がある。それらが見頃になると、それはそれは素晴らしい景色だろうなぁ。それを見ながら茶会とはなんとも風流じゃ。

 それにしても、色々なアプリがあるんだなぁ。ニュースアプリ? おお。学園の最新情報が見れるのか。便利だなぁ。あ、部活の体験入部が今日の放課後からできるのね。それとこれは……なんと!!


 学食&カフェメニュー予約アプリ!!!


 なんてこった! なんだこのおいしそうなメニューは!!

 すべてに値段がついていないことが恐ろしいけど、見た目でかなりお高いことがわかりますよ!

 それにしても……お、おいしそう……!

 ん? スイーツまで? 午後3時から6時って……放課後かよ!


「ああ。それは、部活がない日、塾や習い事までの時間を過ごせるようにな。あと茶道部なんかは部活で使うし、テイクアウトもできるぞ。ラウンジ備え付けのコーヒーメーカーやティーメーカーはいつでも使えるし、そこでお茶するやつもいるけど」


 至れり尽くせり! 何事もないようにしれっと言いましたけどね丞くん。そんなの普通の学校じゃありえないよ!

 この学園は数字の8の字型になっている。中央の円が交わる部分には、中等部と合同で利用する学食やカフェテラス、選択授業で使用する特別教室があり、最上階は文系の部室と、生徒会室がある。

 8の字のてっぺんとおしりはそれぞれ中等部と高等部のエントランスホールと購買、保健室があり、2階から4階が教室だ。そして、最上階は職員室や会議室、校長室などがある。

 では、左右の部分は何なのか。

 それが、驚くことにラウンジなんだよ。

 全面ガラス張りで日の光をふんだんに取り入れた広い空間に、ソファーと小さ目のテーブルが置かれている。そこに、使い放題のコーヒーメーカーとティーメーカー。勿論、ウォーターサーバーもあるのだ。

 そこを、生徒は休み時間に自由に利用することができる。

 しかも、ただのコーヒーメーカー、ティーメーカーじゃない。最新式で、様々なカプセルがあり、何種類も楽しめるんだ。


「すごいね。そんなの初めて聞いたよ。今までの学校はそんなのなかったもん」


 驚いていると、丞くんは不思議そうに首を傾げた。


「え? じゃあ、休み時間はどこで過ごすっていうんだ?」


 あああああああ! 開いた口が塞がらないとはこのことですかね! このセレブめ!! 普通はそのまま教室で過ごしたり、仲のいい子と一緒にトイレに行ったりするんですよ!

 ちなみに、トイレは教室棟の両端と、中央棟の両端――1フロアに4か所もある。これもまた、女優ミラー標準装備のパウダールームがついているので無駄に場所を取るのだ。


「え? じゃあ教室以外くつろぐ場所ってないの?」


 学校はくつろぐ場所じゃないと思うけどね! まったく。私がそんなことを言う日がくるとは思わなかったよ!


「勉強は勉強。でも、休み時間にリラックスして頭をリセットして次の授業を受ける。集中力を高めるためだよ」

「な……なるほど!」


 目から鱗です! 目から鱗ですよ! じゃあ、次の休み時間に早速キャラメルラテを試してみたいと思います! 実は既に目はつけていましたからね!



 * * *



「……で? 結局、ほんとに新聞部なのかよ」


 放課後になって、部活の体験入学に行こうとする私に丞くんが話しかけてきた。


「そうだけど?」

「……言っとくけど、新聞部、めっちゃ寂れてんぞ。他にも色々あるじゃないか」


 あった。確かにあった。入学式で聞いたように、オペラ部とかバレエ部とかオーケストラ部でしょ。それにゴルフ部に馬術部にフェンシング部、華道部に茶道部。なかなかにハードルが高いわけですよ。自慢じゃないけど、私はそれらのすべてに関わったことがない。演奏できる楽器はリコーダーだけだし、スポーツだってそれらしいことはやったことがない。昔、パパとキャッチボールやったくらいだ。それで中学時代はソフトボール部に入ったんだよね。運動音痴すぎて練習の足手まといとなり、すぐにマネージャーに転向したけど。かといってスコアつけたりできるわけでもなく……そういうのはコーチに任せて、備品を買ったり飲み物や試合のお弁当を手配したり……ええ、単なる雑用です。おかげで、ソフト部員だっていうのに、日焼けとは無縁でしたよ。


「あ、ソフト部あったよね。それならなんとか……」

「おい。新聞部とソフト部を天秤にかける発言は、姉貴の前ではやめてくれ。つーか、ソフト部の話題は新聞部では厳禁だ」

「え? なんで? 私運動音痴で、他に興味あるのって中学でマネージャーやってたソフト部くらいで――」

「は? 何言ってんだ? マネージャー? ソフト部って、ソフト開発部だぞ?」

「……え?」


 ソフト開発部? 


「そ。アプリ開発部とも言う。スポーツの方じゃなくてさ、このタブレットのアプリを作った部活だよ。――お前、まさかパソコン詳しいのか?」


 その口調、できないと思ってるね? できないけど!

 それにしても、このアプリを作ったのが学生――それも、大学生とかじゃなく、同じ高校生だなんて……。すごいなぁ。

 それなのに、巴さんの前でソフト部のことを話題に出しちゃいけないってどういうことよ。


「――行けばわかる。で? ソフト部にも見学に行くのか?」


 丞くんの言葉に、私は即座に首を振った。結局パソコンが苦手だってすぐに認めちゃったよ。パソコンは搭載されている機能すら使いこなせない人間だからね……仕方ない。


 文化部の部室は、手芸部や料理部、華道部や美術部など専用の設備が必要な部活以外は中央棟の5階にある。

 ソフト部、映像制作部、文芸部……大体の部室は新入生の体験入部を迎えるべくドアが開けられておりとても賑わっている。私と丞くんはそんな楽しげな会話を聞きながら、それらの部室を通り過ぎた。

 つい数日前に会ったばかりだけれど、それでも巴さんに会えるのは楽しみだ。


「ここ」

「あ、うん! って……え?」


 丞くんに案内された部屋は、ドアが固く閉ざされている。中からも人の話し声は聞こえない。だけど、ドアには確かに『新聞部』と書かれていた。


「人の声がしないけど?」

「まぁ……中は1人だからじゃね?」

「……ん?」


 丞くんはココンッと軽くノックすると、中からの返事も待たずにドアを開けた。


「姉貴~。来たぞ」

「ああ、丞。待ってた――あら! のどかちゃんじゃない!」


 部室の中には、巴さんしかいなかった。

 

(寂れてるって……ほんとだったんだ……)


 部室の中は壁一面に本棚があり、沢山の資料に取り囲まれて中央に机が4つ置いてあった。だけど、その机もパソコンや資料で埋め尽くされている。その状況が、新聞部員が巴さんしかいないことを物語っていた。


「のどかちゃん! 本当に新聞部に入ってくれるの?」


 巴さんは嬉しそうに笑って私の手を取った。


「はい! そのつもりです」

「物好きぃ~」

「丞! うるさいわよ! それ以上余計なこと言ったら、今度の新聞であんたが私のワンピース着てポーズ撮ってる写真載せるわよ」

「ゲッ。そ、それは勘弁してくれ……」


 丞くんが巴さんのワンピース……丞くんは小柄で線が細いけど、もしかして……そういう趣味が……。

 でも、色んな人がいるもんね! 最近はオネエとか女装家さんとかだいぶ市民権得てるもんね! そ、そういうのもいいと思うよ! うん。ちょっとビックリしたけど!


「やめろ! そういうんじゃねえ! 幼稚部の時、母親が面白がって着せただけだ! ったく。姉貴もいい加減実の可愛い弟を脅すのはやめてくれよ」

「可愛い弟なら、何も言わなくても困ったお姉ちゃんを助けるべく、新聞部に入部してくれると思うわぁ」

「だから、来てるだろうが!」


 いや、めっちゃ脅されて渋々来てる感半端ないですけど……。


「でも良かったわ! 1人なら廃部! 弟を巻き込んで2人だと同好会! のどかちゃんが入れば3人でギリギリ、部として活動できるわよ!」


 巻き込んでって……巴さんも脅して入部迫ったことは認めるんですね……。


「ここから新聞部をなんとしても立て直してやるんだから! 見てろ大和やまと鷹臣たかおみめ!」


「だ、誰?」


 熱く拳を突き上げる巴さんに聞けず、丞くんに小声で聞くと、彼は小さくため息をつきながら同じく小声で応えてくれた。


「文化部を取りまとめる文化部部長。1年から文化部部長をやってるやり手で、去年新聞部の部費をごっそり減らされた挙句、部室も一番小さなこの部屋に移動させられた。それを姉貴は根に持っててな……それに……」

「それに?」

「新聞部が寂れた原因もそいつなんだよ。ソフト部の部長でもあってな、今日渡された端末。あれに学園のニュースが組み込まれて以来、新聞部の役割がなくなっちまったってわけだ」


 なるほど。それで、ソフト部の話題は厳禁なのか……。確かに、あれは便利だと思ったもんなぁ。


「今や紙の新聞なんざ、発行したところで手に取る生徒なんて殆どいないんだよ」

「デジタル化社会だもんねぇ……。でも、それなら丞くんはどうして新聞部に? 脅されたって言っても、最初聞いた時はそんなに嫌がった感じなかったでしょ」

「あー。俺ん家、新聞社なんだわ。なんだかんだ、紙の新聞にもできることはあるって思ってんの。まさか3人目の部員がやって来るとは思わなかったけど」


 なるほど。家業なわけね。それなら、巴さんの熱の入れようも分かる気がする。

 それにしても、大和鷹臣って、どこかで聞いたような気がするんだけど……気のせいかな?


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