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神凪の巫女  作者: 栗佳
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雪美の壮大な桃色の妄想に付き合いならがら、たらたら歩けば町中の裏通りに入る。


普通の民家もあるし、可愛らしい雑貨を扱う個人店もあり、静かな雰囲気の通りに、うちの店舗兼住宅が見えて来た。


しかし、なんて言うか…メルヘン?な外観だよな。じいちゃんが見たら腰抜かしそうだ。

瓦屋根の純和風建築物が、すっかり気取った鼻持ちならぬエセアメリカンなお家になりました。


枕木で作った花壇のエッジがいい味を醸してる。

ペチュニア、バコパ、ゼラニウム、ジギタリス、白や淡いピンクの小花、白から薄紫のグラデーションが美しい。そしてトネリコの木が作り出す柔らかな木漏れ日が、レンガで作られた小道に影を揺らす。アプローチは緩やかなカーブを描き、店の入り口まで続く。

決して広い庭ではないが、効果的に空間を作り出す演出のお蔭で、広々と見えるのが不思議だ。



Cafe Chez Grand-maman


シンボルツリーの元に、控え目に小さな看板が出ているが…みんな気付いてくれてるのかな。

たしか、おばあちゃん家…って意味だそうですよ。

じぶんちなのに、イマイチ自信がない。

なんでフランス語なの!私は英語で手いっぱいだっての!日本語すら怪しいかも…。


店の入り口には小さな黒板がイーゼルに立てかけられている。

顔を寄せ、真剣な表情で覗き込む雪美。


「本日のケーキセットは…米粉のキャラメルロールケーキ、ブラッドオレンジとホワイトチョコのムースに、こだわり卵のプリンアラモード…うーん全種類制覇したいよう!蒼子、一緒に食べよう!」


「そう言っていつも後悔するんでしょ。一個にしとき。腹に脂肪ばかり溜め込んで、ちっとも消費されないって泣くんじゃない。」


そんな事を言っても、実は雪美はスタイルがいい。彼女の脂肪は腹ではなく、胸に付くものらしい。成長期も合わせ見事育った胸部を、すれ違いざま二度見する男は珍しくもない。


「蒼子はいいなぁ、背高いもんね。ちょっと位太っても気づかれないよ。ちびっこは辛いよ、直ぐにばれちゃう。」


「デカすぎるのも問題なんだよ。こないだも一年生の女の子に告白されました。もちろん丁重にお断りしたけどさ、どんだけ男前なのよ私。」


うう…170cmもある自分が不憫だ。いいんだ、負けるもんか。


「それは蒼が葵に似たからだよ。」


柔らかく響く声質は耳に心地よい。

振り向けば、雪美の大好物が微笑みながら立っている。

呑気に笑ってる場合じゃないよ、隣のアマゾネスはあんたをロックオンしたよ。


「良夜さん!」


瞬時に狩りモードに移行した雪美。さすがっすね、声のトーン違うわ。


「いらっしゃい雪美ちゃん。相変わらず綺麗だね。」


いゃ〜そんな事無いデスよ。などと体をくねらせ頬を染めるアマゾネス。

おい雪美、チョロすぎるじゃね?狩るんじゃないの?なんでそんなに恥じらってんだ?

しかし簡単に撃破されてしまった。

恐るべし良夜。

そんな台詞真っ当な大和民族は裸足で逃げ出す!それを言う側にもダメージを与える諸刃の剣のはずなのに、泰然と微笑む。


「良夜さんて大人の余裕が…素敵。」


そうかい?

見た目クールなにいちゃんだけどさぁ、中身は小姑だよ?


「蒼、君は女性らしさが些か希薄。もっと自分を演出しなくては、葵のコピーみたくなるよ。」


ほーら出ました、柔らか〜な表情と口調に騙されないで。結構グッさりくる事言ってくれるんだょこいつ。


「ですよね!蒼ったら髪も短いし…女の子っぽい服とか苦手だし。その上、階段から落ちかけた女の子を受け止めたり、なんて言うか漢なんですよね。」


「私がロングとか似合わなそうだよ。」


それに人命救助は最重要項目でないかい?たまたま偶然だし、無意識に体が動いただけで…お蔭で告白されたりとおまけが付いたけどね。



立ち話もなんだからと、良夜にテーブルに案内される。

木の温もり溢れる店内は、暖色系の照明に照らされ、居心地も良さそうに思う。

まだ中途半端な時間帯のせいか、入っているお客様もまばらだ。


「僕のオススメはロールケーキかな。やっぱり米粉がいいよね、日本人に馴染むっていうか…。でも、どれも美味しいよ、葵が張り切っていたから、今日辺り雪美ちゃんがきてくれるかも…って。葵は勘がいいからね、ふふ。」


良夜の微笑みに脳天を撃ち抜かれた雪美だが、直ぐに体勢を立て直し食らいつく。


「あ、良夜さん、蒼パパは?」


そうでした、雪美のお目当てはうちの親父殿。


「葵…店長は、佐也子さんの所。ちょっと体調崩したみたいで…。」


「大変!お大事にして下さい。蒼子、私はいいからお店の手伝いしなよ。蒼パパに会えないのは残念だけど、また来るから。」


「や、でも母さんがひっくり返るのはいつもの事だから、心配しないで。あの人病弱だからさ。」


佐也子さんは私の母でございます…が、こちらがイラっとする程のマイペースな人で…。ついでに病弱で、親父にべったり。

暑苦しく、周りのドン引き具合も気付く事も無く愛し合う二人であるが、私から見たら、共依存としか思えない。

だから、あまり相手にしない方がいいよね。


「なんかごめんね。折角店にまで来てもらったのに。」



「いいのよ、気にするなって。でも…じゃあ、蒼パパの写メ送って欲しいな。リアルな筋肉とアングルにこだわって、煽りで一枚、振り向きざまに一枚、背後から一枚、良夜さんとの絡みも交えて…。」


わかったわかった。

薄い本のネタだろうが、本人達が知らなきゃいいか。

目元を潤ませ、ハアハアと危ない息遣いの雪美を椅子に座らせると、私は着替える為に奥に引っ込んだ。




膝下まである黒のギャルソンエプロンは、長身の私に良く似合う。自分で言うのもなんだが。


姿見に映る姿に、溜息がでる。

可愛らしい、何それ美味しいの?

と言いたくなるくらい、凛々しい私。


『葵のコピー』


良夜の台詞が蘇る。

全く、何から何までソックリ!

頭に来る!

顔つきも体付きも、当然男と女で違うのに、(凛々しい女の子レベルで、男顔って程ではない!)嫌になるくらい似ている。

葵のミニチュア。

ムカつく、確かに血の繋がった親子なんだょな。


でも、中身は違う。

私には…


鏡の中に映る少女が、ジッと見返して来る。

同じ顔した別人と、向かい合ってる…そんな気がする。






「蒼子、ロールケーキ最高!」


確かにあんたが食べてるのはロールケーキ、だけどもさテーブルに乗ってるのはプリンアラモードにチョコムース…知らねえよ、豚になっても私に言いがかりを付けないように。


「良夜さんの美尻…ムフフ」


不穏な呟きを残し、良夜の奢りだというスイーツをたらふく食べた雪美は、ご機嫌で帰って行った。

時計を見れば、もう5時を回る。


「さて、忙しくなるね。そろそろ親父を引っ張ってくるか。佐也子さんの具合はどうかな。」


「…大幅に『入れ替え』したばかりだからな。もう暫く葵についていてもらった方が無難だろうな。」


「仮にも神凪の名を頂く一族の頂点に立つ女だ。そこまで見くびるなよ。」


声にふりかえれば、厨房にのっそり入ってきたのは親父殿。こきこきと肩を鳴らし、伸びをする。


「それに、俺の熱い抱擁が、佐也子の冷えた体に活力を注ぎ込むのだ。あぁ俺のヘカテ、美しき魔女の女王!だから大丈夫。」


真っ白い歯を覗かせ、爽やかに笑う親父殿。

一体何が、どこらへんが大丈夫なんだろう。

ついでに言っていいだろうか。


気色悪い。


日用会話には用いられないだろう、微妙な言い回しが、なおさら気色悪い。



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