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神凪の巫女  作者: 栗佳
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だるい…。


中間テスト目前の高校生は、大変なんだぞ。

それなのに、こいつらは…。

殺意を覚えるわ。


「パパ、はいアーン。」

「アーン、ん〜!ママの目玉焼きは最高だなぁ!この黄身のとろけ具合は芸術だよ。」

「まぁっ、パパったら。蒼ちゃんの前よ、恥ずかしい。」

「大丈夫。パパとママが仲良しさんなんだから。蒼だって嬉しいよきっと。」


な訳ねーだろ。

このクソ親どもが。

朝からいちゃこらいちゃこらと。

目玉焼きなんて誰が焼いてもそんなもんだ。

大概にしとけやコラ。


「ママ、黄身が口の端しについちゃってるよ。うっかり屋さんだなぁ。」


そう言いながら、母ちゃんに顔を寄せる親父。


「…んっ、ふ…あなたったら…ん、ぅんっ…」


百歩譲って『チュッ』や『ぺろっ』までは許そう。

いや、本当はやだよ!キモいから!見たい訳無いじゃん!当然!

でもまぁ、それは目をつぶるにしても…


「…んっ、ん…はぁ…ん…」


やめてくれよ、ディープなやつは。朝から喘ぎ声とかさ…。マジ勘弁。


思春期真っ只中の、繊細極まる一人娘の眼前で繰り広げられる両親の痴態。


やり切れない。


「ごちそーさま。」


箸をおく。


だって食欲無くすよ。

皿の上の目玉焼きが睨んでくる。


じいちゃん、ばあちゃん、なんで私を置いて逝ったの…助けてよ。


仏壇の前に座り手を合わす。

遺影の祖父母は穏やかに微笑んでいた。






テストも終わって暫くして、担任から放課後の職員室に呼び出された。


「神凪、神凪蒼子、今回どうした?志望校C判定に落ちてるぞ。」


無駄に声でかいな、山もっちゃん。

聞こえてるよ、そこまで年は取ってない。

つか、周りに聞こえるだろ。ヤメテクレョ。


いえ今回は、家庭の事情で…ちょっと…次巻き返しますから…。

などという言い訳は、聞いてももらえないだろう。


担任の山もっちゃんは、脳筋バカにしか見えない熱血体育教師だ。

情に厚く、涙もろい一昔前の漫画に出てきそうな奴だ。

悪い奴じゃないが…ジャージはやめてくれ。筋肉でぱつぱつになった化学繊維の塊は、卑猥な凹凸を明確化してしまう。


そんなもん見なければいいのに…余りの自己主張の塊につい目が…。


目がっ、目がー!

腐る。


「おい、聞いてるのか?」

「あ?はい、え?」


ため息をついた山もっちゃんが、書類の端をペラペラめくりながら言う。


「だからな、志望校変えるか?やっぱり国立一本は無謀じゃ…」

「それは困ります!うち貧乏なんです!でも進学はしたいんです!もう貧乏はごめんです!出来れば奨学金もらって…あ、でも浪人なんて出来ません…から…次は、頑張ります。」


間髪入れずにまくし立てる私に、微妙に引き気味の山もっちゃんが、曖昧な顔をしつつうなづいた。


「そか、…頑張れよ。」







帰り道、鞄が重い。

クラスメイトのペラペラな鞄には何か入っているのだろうか。

私の鞄は完全豚だぜ。


「蒼子、山もっちゃんなんだって?」


呼ばれて振り返れば、友達の雪美がテニスコートから出て来た。


「テストの成績悪くて、発破かけられた。」

「大丈夫だよ。蒼子頭いいもん。直ぐに持ち直すよ。」


下からの上目遣い、反則だょ。キュンと来てしまうわ。


雪美はかわいい。

私でさえ、くらっと来そうな可愛らしさだ。

パッチリ二重で睫毛もクルンクルン。ツンとした小さな鼻と桜の花びらの様なピンクの唇。

でも、決して濃い目の顔ではなく、楚々とした美しさが有る和風美人さん。

身長も小柄で、肩口で揺れる黒髪は絹糸の様。

キューティクルパネえ。


「久々に蒼子のパパに会いたくなっちゃった。お店行っていい?」

「なんであんなの見たい訳?おっさんよ、家じゃステテコでウロウロしたり、キモいよ。つか、部活いいの?誰だっけ、目当ての先輩を追っかけて、無謀にも初心のくせに伝統あるテニス部に入部した人は。」


ぷうっと頬を膨らませる雪美。

かわいい、可愛らしさが迸るぞ。

それなのに、此奴は残念な美少女っぷりを発揮してくれる。


「そうよ、万年球拾いだもの。試合なんて関係無いから別に平気。それに、先輩のキュッとした美尻は確かに素敵だけど、蒼子のパパは別格よ。神に愛された僧帽筋、上腕二頭筋、そして大臀筋…じゅる。男達の媾う華麗にして隠微な世界が、私の脳内妄想に今降臨!」

「ちょっと!人の親父をおかずにしないでよ!キモい!」


でも、と口を尖らせる雪美は、次の瞬間にたりと黒い笑をこぼす。


「ゴメン、パパりんには只今製作中の薄い本にも、御出演頂いてます。きゃふん!」


きゃふん!じゃねーだろこの腐女子が!

雪美の脳内妄想では、きっとBとLの目眩く耽美な世界が、果てし無く広がっているのだろう。


もういい、好きにしろ。






学校から徒歩二十分の所に、私の家が有る。

死んだじいちゃんとばあちゃんが、小さな定食屋をやっていて、地味な店ながらも固定客もついている、地域密着型のお店…だった。


…にも関わらず、じいちゃんの引退を機に、店主の座に就いたオヤジは下克上、オシャレなカフェを夢見ちゃったりしてくれて…私の学資保険(じいちゃんがこっそり積み立ててくれたんだよ)すら解約し、店のリフォームを敢行した。

思いっきりビフォーアフターで客層変わっちゃいましたよ。


「大丈夫!蒼ちゃんが上のがっこに行く頃にはガッツリ貯金も出来てるから。」


小学六年生でさえも眉間にしわ寄せる、根拠の無い自信たっぷりな母の言葉に押し切られた訳だが…後悔している。


ウチの店、客の入りはいい。売り上げはほどほど見込めるはずなのに…。


地域の情報誌にも取り上げられたりして、そこそこには知名度も有る。が、呆れるほどのザルな経営、薄利多売と言えなくも無いが…お客の回転が悪過ぎて結局低空飛行な数字が軒並み並ぶ。


この回転の悪さは…客層に由来する事が大きいだろう。


ちょっぴり小洒落たカフェダイニングにお越し下さるうら若き女性の方々は、八割方ウチの店主を目当てにしている(…と思う)。

おかげで複数の女性客は中々帰ろうとせず、オヤジにちょっかいを出すので迷惑している。

残り二割に『味』が入ればいいのだが、もう一人のバイト君にも色々濃ゆい視線を送るお客様もいらっしゃる。

味より顔か?


けど、えぇ、認めますよ。

ウチのオヤジは無駄にモテる。

若いのから熟女まで、どっからでも来い!そして店に金を落として下さい。


まぁ、本人はかあちゃん一筋の人だから、単に粉かけ損になると思うけどね。

しかし、彼奴の何処にそんな魅力が?


「やだ!蒼ちゃんたら!蒼パパの魅力って言えば、顔でしょ!ワイルドな美形!小麦色したツヤツヤお肌。んでもって厚い胸板と逞しい腕!上背有るから足も長いし、腰の位置高いよ!しかも運動とかしてたの?あの身体つき、細マッチョの極致!普通ああはならないよ。」


私の心を読んだが如く雪美が答える。あんたエスパーか。


「あと、バイトの良夜さんも捨てがたい。男なのに美女にしか見えない。良夜×蒼パパなんてのもいいかも!あ、逆の方がいいかな?」


なにがよ?

とは言わない。言ったら最後、怒涛の耽美ワールドがふちまけられる。


去年の雪美からのプレゼント…。

私はネイルのセットをもらったが、オヤジには若者ブランドのピタピタしたTシャツ…。

なぜ冬にTシャツ…と思う私を他所に、素直に喜ぶオヤジは雪美に乗せられ、その場で袖を通した。


「ちょっとおじさんには若いかなぁ。」


照れながら満更でもない笑顔だ。けど、無駄に胸筋有るからピタピタ通りこして、パツパツ。

それを舐め回す様に視姦する女子高生ってどうよ。

挙句に…「ポチッとしたやつが透け見えれば尚良し。」などと、目を潤ませ息を弾ませる和風美人が怖かった。


あれは狙ってやってるな。



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