三次元の異世界で。
もう色々と嫌になったんだ。
最近ライトノベルでもアニメでもマンガでも、勇者モノに異世界トリップ、転生の話が多いじゃないか。
自分にもそんなことが起きればいいなと思うわけだよ。
異世界に飛ばされちゃった方がいいし、そっちの方が楽しそうだしさ。
だから七夕の短冊に「ある日突然異世界に飛ばされますように」って書いたんだよ。
周りから見ればただの頭のおかしい人だけどね。
つまんないこの世の中で生きていたくなかったんだよ。
絶望的だと思ってる人は少しでも希望を欲するもんだよ?
だから書いたんだ。
そしてその願いは叶ったんだ。
それが今の現実。
「…………」
「なにしてんの?」
「え、いや…」
「その道具片付けといてって言ったじゃん」
「……あ、はい…」
「え、倉庫の場所わかんないとか?」
「はい…すいません…」
目の前の女の子はパンツが見えるんじゃないかという程短いスカートで腕組みをして立っている。
ちなみにこの子は年下なのだが…
「そんなすぐ慣れるとは思わないけどさぁ…早く言ってくんない?そゆことはさ」
「すいません…」
何故か自分が敬語を使っている状態である。
何故かって?
それは自分より経験値が上だからだよ。
ここは広大な土地を活用して成り立っている。
そう。所謂…
「由紀!肥料はまだなんか!」
畑だ。農業だ。
農家の親の実家に今自分はいるんだ。
それも昨日突然親からここに飛ばされたんだ。
追い出されたんじゃないよ。飛ばされたんだよ。飛行機ってのに乗せられてな…
「七海!お前まだいたんか!塾はよ行け!」
「うわ…うるさいなぁほんと…今行くってー!!…倉庫あっちだから。じゃね」
畑で土を耕している老人に向かって声を張り上げて言ったあと従妹の女子高生は赤い自転車に跨り広い一本道を走って行った。
その姿は小さな豆粒ほどになるまでよく見えた。
道はその広い一本道しかなく、あたりは田んぼか畑だけだったからだ。
坂を下ったらしく、姿が見えなくなったのをぼーっと見ていると頭を誰かに叩かれた。
「由紀!お前なにしとんのや!肥料は?」
「あ…今持ってきます…」
「あん?なに?」
「今持ってきます…」
「聞こえんわ」
「すいません…」
「はぁ。もうちょっとハッキリしゃべれや。何言うとるのか聞こえんわ」
「はい…」
「引きこもりだかなんだか知らんがな、会話にならんかったらなんもできんぞ。そんでそこの肥料はよ取って来い」
「はい…」
祖父は自分の顔を見て肩をすくめてから畑に戻って行った。
自分は高校卒業後、大学に進学せず就職した。
でもあまりの辛さに半年近くで辞めたんだ。
人間って怖いよな…ほんと……中でも女は本当に怖いと実感したよ。
そこから自分はニートだった。部屋に引きこもってほぼ寝て過ごした。
七夕の日、家の近くのコンビニにたまたま行った。
生きててもつまんないし楽しくもないと思って短冊を書いて吊るす簡単な笹の置物にあの「ある日突然異世界に飛ばされますように」と書いて吊るして帰った。
ところがその書いた短冊が弟に見つかったらしいのだ。
自分の字はとてつもなく汚いのですぐわかったらしい…
そして弟が親に提案したのがここに自分を送ることだった。
スマホと財布ぐらいしか入っていないような鞄を渡されてチケットを渡されて飛行機に乗せられていつの間にか祖父の家だ。
着いた頃にきた弟からのメールは
件名<\(^o^)/>
本文<どう?ある日突然異世界に飛ばされちゃった気分は?☆ やっぱコンビニもスーパーも近くにないなんもない異世界にいきなり飛ばされちゃったんだから大変だろうね!頑張ってね!兄ちゃん☆>
件名に顔文字まで使いやがってる星の記号がやたら腹立つメールだった。
そのあとに親に電話をかけた時にコンビニから始まった事の経緯を説明されたわけだ。
ここは確かに都会っ子の自分からすれば異世界だよ…
もうほんとに何もないし、暗いわ暑いわ虫はたくさんいるわで…
でもまぁ二次元の話だとその異世界に主人公は最初戸惑いながらも適応していってやがてはその異世界の国を救う勇者的存在になってハーレム状態になっちゃったりして…って展開があるわけだし、自分もこの異世界で頑張れば勇者的地位に…!
と、最初は思ったもののたったの三日で自分の心は折れ、一週間経つ頃には家に帰りたいとホームシックになり、祖父に散々怒鳴られたまに現れる従妹の話題には付いていけず今までにない孤独を感じることになった。
スマホの充電器を持ってきていないため、電池はすぐに切れた。
買いに行こうにもスーパーやコンビニは徒歩では遠く、車は運転できないし自転車は従妹がほぼ使っている。
その従妹に充電器を借りようにも自分も使うからと貸してはくれなかった。
もう本当に最悪だった。
今目の前にあるのは農作業しかなく、それをやるしかなかった。
畑の仕事を手伝い、ほんの少しだが給料としてお金をもらい、その金の使い道もほぼないまま三カ月を過ごした。
ひたすら作業し、こき使われながらも知識なども覚えていった。
「由紀。ちょっとこっち来い」
「はい」
祖父に呼ばれて行ってみると、祖父はいきなり飛行機のチケットを手渡してきた。
それも明日の便のものだった。
どういうことかと一瞬固まっていると、
「由紀。お前はようやったよ。正直心配してたんよ。美里さんから由紀が心を壊したって聞いてな。部屋から出て来ないことも聞いとったし、その状態でここに来るのはいいことなのかと思っとったよ」
「おじいちゃん…」
「何事も最初が肝心だ思ってな、厳しく言うてたと思うがな、あそこで挫けたらその時にこのチケットを渡そうと思っとったんだよ。そうすればお前は家に帰れるわけだしな」
祖父は笑って肩を叩いた。
そんな風に考えているなんて知らなかった。
「すぐ帰すことになったら孝太達にはちゃんとまだ無理じゃねぇかぁ言うつもりだったんだけどよ、よう頑張ってたから関心したよ」
「……っ」
「また遊びにきぃよ。そんでまた手伝ってくれや」
「はい…!」
「おう。いい返事するようになったわ。顔つきも最初の時よりいいわな」
なんだかんだで異世界は自分にとって経験値を積むいい場所で自分を変えることのできるチャンスだったんだと思った。
二次元では異世界の中でそのまま勇者になって終わるが、自分は現実に帰ってから勇者になるんだ。
そのための場所だったんだ。
「ありがとうございました…!」
家の方に歩き出していた祖父の背中に向けて大きい声で言い、深く礼をすると祖父は顔だけをこちらに向けてこう言った。
「おう。ちゃんと聞こえたで」
そう言われた時の自分はとても「嬉しい」と感じた。
今までにないなんとも言えない嬉しさだった。
そしてその次の日、自分は飛行機に乗って家に帰ったのだった。
「あ、兄ちゃん!おかえり~」
「ただいま」
「由紀!おかえり!疲れたでしょう?おじいちゃんのとこはどうだった…?」
「おかえり。なんだか雰囲気が違うな?」
家族が自分を見て笑顔で話しかけてくるのを見て、自分は少し変わったのかもしれないと思った。
きっと二次元の異世界で言う伝説のアイテムを手に入れたってやつだな…
「ああ、ちょっと自信がついたみたいだよ」
笑う自分を母親は涙ぐみながら何度も頷き、父親はよく頑張ったと誇らしげに言ってくれた。
そして自分は弟に…
「次はお前が異世界に行く番だな?」
「え?」
「大学、頑張れよ」
「なんだそんなこと?大丈夫だってー。そんなもん異世界でもなんでもないんだからさぁ」
そうやって馬鹿にしたように笑っていた弟は、高校生の時と違う人間関係の付き合い方と単位を取るということに随分苦労し、半年が経った頃に「もうやだこの世界…」と嘆いているのだった。
END
一気になんとなく書いたのであまりまとまっていないが一応投稿してみました。
所々おかしい点があると思いますが、なんでも諦めずに頑張ればできるかもよ…!っと自分が思っているので主人公である由紀にもそうしてもらった感じです。
登場人物の名前は適当にその場でつけました。
ちなみに、由紀は最初女の子っぽくない女の子にしようかと思ってました(笑)