#.青井音羽
疲れた。
登校で約1時間かかった。
音中までは1時間弱かかることを知っていたが、思ってた以上に遠い。
これから毎日、この殺風景の道を1時間かけて通るんだと思うと鬱になってしまいそうだ。
うちの名前は青井音羽。
今日から、音色坂中学校の1年生だ。
音中の門の前には、沢山の人が居てなかなか前に進めない。
人をかき分けるようにして前え進む。
ふと、上を見上げると大きな銅像があった。
その銅像は「二宮金次郎」などではなく、音符を7人の子供が囲っている像だった。
子供たちはみんな笑顔で音符を囲っている。
これはなんという銅像なのか?
「それは、〈音楽と子供〉という像だよ。」
後ろからの声にうちは小さな悲鳴を上げてしまった。
「ハハハ、何に怯えているんだい?僕は音色坂中学校の生徒会長の高木だよ。」
生徒会長、か。という事は彼は3年生か。
「え・・・えっと、この銅像って誰が作ったんですか?」
「えぇっと・・・あれだっ!!10年前の卒業生!!皆でお金を出し合って作ったらしいよ。」
「ふーん・・・。」
なんだ。有名な人じゃないんだ。
「ちなみにデザインを考えたのは、その年度の吹奏楽部だよ!!」
・・・吹奏楽部。
「その年の吹部はね、初の全国大会に出場したんだってさー。」
「・・・全国?」
「そうそう!!確か演奏した場所は東京にある・・・」
「・・・普門館。」
「そうそう!!普門館!!・・・って何で知っているの??」
「ちょっと興味があるんで・・・。」
「ふーん・・・。」
高木君がうちの顔を覗き込むようにして見る。
「じゃあさっ!!吹奏楽部においでよ!!」
「・・・え?」
「実は僕も吹奏楽部員なんでねぇ。ハハハ。」
うちは耳を疑った。
吹奏楽部に所属する中高生のだれもが夢見る舞台、普門館の名前を忘れるような人が吹奏楽部員なんて…。
それに、高木君の手には肉刺の様なものがある。
きっと高木君はテニス部とかなんだろう。
音色坂中学校の生徒会長は嘘をつくのですか??
「去年はあまり人数が入ってこなかったから今年こそはって期待しているん・・・っちょ!!」
うちは高木君を無視して昇降口へ急ぐ。
馬鹿馬鹿しい。
生徒会長の子芝居に付き合ったうちが馬鹿だった。
「とにかく、仮入部には来てね~!!!」
後ろから高木君の声がする。
なんで、吹奏楽部員に成り済ましてまで勧誘をするんだろう?
学校を悩ますほどの部員不足なの?
・・・吹奏楽。
楽しそうだな。
吹奏楽をやるためにわざわざ音中に来たんだから、アイツに言われなくったってちゃんと入部するのに。
昇降口の前。
数人の先生が掲示物を剥がしている。
あれって・・・クラス名簿?
うちまだ自分のクラス分からないんでけどッ!!
「ちょっ・・・!!!剥がさな・・・」
「君、新1年生でしょ!?入学式始まっちゃうよ!!急いで入りなさい!!」
うちは強引に校内に入れられ、気付いたら上履きも履いていた。
クラス・・・うち何組なの?
先生達、もういないし・・・。
・・・クシャッ
なんか踏んだ?いや、上履きの中がモゾモゾする。
右の上履きを脱ぐと、中からメモが出てきた。
・・・?
『音羽ちゃんのクラスは1年3組。出席番号は2番だよ\(^^)/
どや!驚いたww??
あと、入学式は体育館で行われるよ。1年生は体育館裏で待機。だヨ。
音羽ちゃんへ生徒会長より愛を込めて♥』
アイツはマジシャンなの?
っていうか、なんでうちの名前知っているの?
まぁいいや。
とにかく体育館裏に急がなきゃ!!