終幕
シュンは剣を払い、鞘に納めた。
「お疲れー。」
「おーう。」
神楽がシュンの肩を叩いた。
周りでは、悪魔の支配から解放された人々がざわめき合っている。神楽は彼らが、倒れたままぴくりともしないグラディアに気付く前に、右目に刺さったままの短剣を躊躇なく抜いた。血は一滴も出なかった。
神楽はそれを鞘に納めると、踵を返した。
「さ、行こう。」
「・・・おう。」
魔法を解いたナギも二人に合流し、三人はへたりこむ衛兵たちの間をすり抜けて広間を出た。
階段に足をかけたところで、
「待たないか。」
神楽は立ち止まった。シュンが嫌そうな顔で振り返る。
「んだよ、ライジア。」
「呼び捨てにされるほど仲良くなった覚えはないのだけれどね、シュン?」
「そう思ったらお前も呼び捨てんなよな。」
「まぁそう言うな。ところで、司殿?」
ライジアは、振り返らない神楽の背に話しかけた。
「なぜ、フルール様を殺したのですか?」
「・・・・・・・・・。」
「貴女の実力は聞いています。貴女ならどれだけ憑依が深くても、悪魔だけを引き摺り出して倒せるんでしょう?何故、殺したんですか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「答えてください、神の司様!!」
神楽は目だけでライジアをチラリと見、一言。
「・・・・・・・・・右目ひとつで心が戻ってくるなら、安いもんでしょ。」
それだけを言って、階段を下りていった。
その後、意識を取り戻したグラディアの右目は、まったく見えなくなっていた。しかし、悪魔に喰われたはずの精神は、元通りになっていたらしい。神楽は彼を殺したのでなく、強制的にだが彼の右目を神に捧げ、精神を復活させていたようだ。いつの間にそんなことを仕込んでいたのかは全くわからなかったが。
彼は自らの未熟さを痛感し、改めて修行に励みだしたと聞いた。
◇
久しぶりに見たような青空が広がっている。
三日後、シュンはすっかり雪も払われた酒場の屋根の上で、ぽかぽかと柔らかな日差しの布団にくるまって、うつらうつらしていた。
神楽があの時なにをしたのか、シュンにはわからない。わからないが、きっと間違ったことはしてないだろう。たとえ間違っていたのだとしても、じゃあ正解は何なのかと聞かれたら、答えられる者はいまい。だから、シュンは神楽を信じていた。
信じるしか無かった。
神の司の役目は、誰に対しても公平に、無情だと冷酷だと言われても、常に中立の立場から宗教のいざこざを払うことだと聞いた。
シュンは思う。
神の司は、悪魔でも天使でもあるのだろう、と。
一般人からすれば、悪魔を祓う神の司は天使のような存在に見えるだろう。しかし、司の役割は悪魔を祓うだけじゃない。場合によっては、天使を、聖者を、否定し断罪することもある。聖なるものにさえ罰を与える神の司は、人々には悪魔のように見えるだろう。
孤独な職業だ。過酷な使命だ。
(――――――だからこそ、俺がいる意味がある。)
旅の道連れとして、護り人として、シュンは最後まで付いていくと、既に決心している。この気持ちが揺らぐことは無いだろう。たとえ間違った道でも、ともに、歩き続けよう。神楽が歩む道は、神の旅路だ。恐れることなど、何もない。
暖かい陽気にあてられたのか、シュンはそんなことをぼんやりと考えて、大きく欠伸をした。
ありがとうございました。
思っていたよりナギの存在が生きなくて、力不足を実感しています。本当は、ナギVS神楽のギャンブル対決とか、クロヌ感謝祭についてもいろいろやりたかったのに・・・。あ、あと、ライジアはもっと出したかったです!シュンといろいろやりあって欲しかった!
ううむ・・・・。
文章力が欲しいと本気で思います。
続き及び番外編、その他の作品を書く事がありましたら、さらにいいものが書けるよう、日々努力して行きたいです。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。




