【第8話】本職の魔法使いに岩砕きを見せたら、領主様の街へ連行確定した件
「単刀直入に聞くが……いままで『君が魔法を使えるかもしれないこと』を、ジャック以外に誰かに話しましたか?」
部隊から少し離れた森の木陰。エルウィンさんは、周囲に絶対に声が漏れないよう声のトーンを極端に落として、鋭い視線で俺を見下ろして聞いてきた。
「えっと、一緒に逃げてきたクレムと……ジャック兄さんしか聞いてないです。街の役人さんにはただ『逃げてきた』としか言ってません」
俺が正直に答えると、彼の瞳の奥がスッと細くなり、冷たい光を宿した。
「……よろしい。いいかいカール君、これ以上は『絶対に』他言無用だ。いいね?」
その言葉には、有無を言わさぬ重圧があった。俺はコクコクと激しく首を縦に振った。
「さて。それじゃあ、君のその異常な実力とやらを見せてもらおうか。……ちょっとあそこの岩を、君の全力で殴ってみてくれ」
エルウィンさんが指差したのは、大人の頭ほどの大きさの、苔むした硬そうな岩だった。
(よし、ここらで一発、俺の伝説の力を見せつけてやるか!)
言われるがまま、俺は手頃な岩の前に立った。
だが、あのウサギが爆散して血の霧になったトラウマの反省を活かし、今回はしっかり手加減して「粉々にする」のではなく、ただ「砕く」程度に出力を抑えて右の拳を振り抜いた。
パァァンッ!!
軽い破裂音と共に、岩は綺麗に真っ二つに割れて地面に転がった。
「……ほう」
エルウィンさんは顎に手を当て、感心したような、しかし少し物足りなそうな顔をした。
「すばらしい。魔力のコントロールも無意識にできているようだ。……だが、ジャックの報告では大人が数十メートル飛んだと聞いている。もう少し、思い切り力を入れられるかい?」
(なんだ、もっと派手なのが見たいのか。じゃあ遠慮なく!)
俺は近くにあった、今度は子供の背丈くらいある、大人が数人がかりでも動かせないような巨大な岩の前に立った。さっきより多めに、体の中に眠る熱い力(魔力)を拳に集中させる。手がうっすらと青白く発光するのを感じた。
「いきます!」
ドゴォォォォォンッ!!!
凄まじい轟音と共に、俺の拳が触れた瞬間。
巨大な岩は一瞬にして粉微塵に弾け飛び、バラバラの砂利のような破片となって、周囲の木々にバラバラバラッ! と散弾銃のように降り注いだ。
「やぁやぁ、これはいい! 素晴らしい出力だ!!」
振り返ると、さっきまでクールで知的だったエルウィンさんのテンションが急上昇していた。目を爛々と輝かせ、口元を歪めて笑うその姿は、完全にマッドサイエンティストのそれだった。
「あの……俺、これ何のためにやらされてるんですか? もう帰っていいですか?」
生意気にも恐る恐る聞いてしまった俺に対し、エルウィンさんはニヤリと笑って、とんでもないことを口走った。
「ふふふ。君は、領主様のいる大都市『ガバレリア』に行くことになるよ」
「……はい?」
「いやぁ、まさか辺境でこんな極上の原石を見つけるとはね! さて! 気分がいいから、ササッと邪魔な野盗を討伐してしまおうか!」
えー!? なんでー!?
ただの野盗のアジト案内係(仮)としてお小遣いでももらえるかと思っていたはずなのに、どうやら俺のデタラメな力は、俺の想像を遥かに超える国家規模のヤバい事態を引き寄せてしまったらしい。




