【第5話】異常なパンチ力の正体は魔法? とりあえずウサギを焼いて街を目指す件
俺は、この世界に『魔法(魔力)』という不思議な力が存在することだけは、昔、村で父さんからおとぎ話のように聞いて知っていた。
(正直、さっきの異常なパンチ力とか、檻を粉砕した風圧とか、ウサギ爆散現象……ただの筋力じゃない。何らかの強大な魔法の力が俺の体に宿っているに違いない)
俺は呆然としたまま、自分の小さな両手を裏返したり表にしたりして見つめた。
「カール君……君、もしかして魔法を使えるのかい?」
隣で同じくウサギの爆発を見て呆然としていたクレムに聞かれ、俺は深い穴に落ちてからの事情(光るスライムを主食にして、気づいたら10年経過していたことなど)をざっくりと説明した。
「なるほど……。あ! そうだ、一つ思い出した!」
クレムはポンと手を打って、興奮したように言った。
「僕も昔、本物の魔法使いを見たことがある旅商人から話を聞いたことがあるんだ。魔法を放つ時には、体や手がうっすらと光っていたらしいよ。……カール君があの野盗をぶん殴った時、暗くてよく見えなかったけど、カール君の手、うっすらと青白く光っていたんだ!」
どうやら俺の手は、パンチの瞬間に発光していたらしい。光るスライムを10年間食べ続けた結果、膨大な魔力が体に宿り、ご丁寧にあのスライムの『光るエフェクト』まで受け継いでしまったということか。
自分がファンタジーの主人公のような魔法使いになってしまったかもしれないという事実は、野心家の俺にとってめちゃくちゃテンションの上がる出来事だった。が、今はそれよりも深刻な問題が胃袋で暴れている。
グゥゥゥゥゥ……。
「……まずは、腹ごしらえだな。爆散しない獲物を探そう」
その後、俺は「絶対に、絶対に手加減する。豆腐を撫でるような優しさでいく」と心に強く誓い、なんとかウサギを爆散させずに狩ることに成功した。
クレムが拾い集めてくれた枯れ枝を重ね、俺のサバイバル知識で火を起こす。解体したウサギの肉を串刺しにして、焚き火でじっくりと焼く。
10歳の子供二人、まともな料理なんてやったことがないが、「外側が焦げるくらい火を通せば、お腹は壊さないだろう」という大雑把なサバイバル理論で豪快にかぶりついた。
味付けの塩すら全く無い。ただの素焼きの肉だ。だが、空腹の極限状態で、しかも数日ぶりのまともな固形物を口にした俺たちにとって、その肉は涙が出るほど美味かった。
腹を満たした俺たちは、少しずつ歩きながら、俺の魔法(という名の異常な力の加減)の実験をしつつ、森の茂みをかき分けて進んだ。
(よし、このくらいの力なら小枝が折れるだけ。これ以上力を入れると枝が粉々になる……)と、少しずつ力の出力調整を学んでいく。
そうして歩くこと半日。
「あっ! カール君、見て!!」
クレムが指差した先。木々の隙間から、ついに大きな『街』を囲む巨大な石造りの外壁が見えたのだ。
野盗のアジトのような薄暗い森とは違う、人の活気に満ちた文明の象徴。俺たちは顔を見合わせて深く、深く安堵の息を吐き、希望を胸にその街の入り口へと向かって駆け出した。




