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スライム食ったら世界を救うことになった  作者: エリト


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【第49話】魔境の分断トラップと、エルザの切り札

気がつけば、俺は鬱蒼とした森の中に、たった一人でポツンと立っていた。


(森から生還した生存者が「気がついたら仲間とはぐれて、中型のモンスターに囲まれていた」と証言していたのは、これのことか!)


なるほど。わざと油断させておいて森の深い場所まで誘い込み、分断してから個別に襲って食うつもりか。ひどく知能の高い、悪趣味な狩りの手法だ。

確かに、周囲の茂みからはグルル……という中型モンスターたちの嫌な気配がひしひしと伝わってくる。


ただ、俺は至って冷静だった。

それは何故かというと、事前にエルウィンさんたちとこの事態を想定して、対策を練っていたからだ。

俺の手には、事前に渡されていた一枚の葉っぱ『リープ草』が握られている。


「リープ!」


俺が短く発動の言葉を唱えると、葉がパァッと眩しく光った。次の瞬間、視界がぐにゃりと歪み、俺はジルバさんのすぐ近くへと転移ワープしていた。


「みんな、無事に戻りましたか」


エルウィンさんが周囲を見渡す。俺の他にも、クレムやエルザが同じようにリープ草を使って合流していた。


俺たちの周囲にはすでに数匹の中型モンスターが牙を剥いていたが、分断トラップを無効化して全員が揃っている今の状況なら、まったく恐れることはない。


「さぁ、ここからが探索の本番のようですね」


エルウィンさんが楽しそうに笑う。

結果から言うと、中型のモンスター数匹の群れ程度では、俺やクレム、エルザの出番はほぼなかった。


ドゴォォォン!!


「ギャンッ!?」


(……やっぱりエルウィンさん、強すぎるだろ……)

レベル41のトップ魔術師の圧倒的な魔法の前に、中型モンスターたちは文字通り一掃されていく。

俺はあくびを噛み殺しながら、(この人なら、わざわざ俺たちを連れてこなくても一人で余裕なんじゃないのか?)と呆れていた。


その後も定期的に中型モンスターの群れに襲われたが、それでも俺たちは「こんなもんか?」と余裕すら感じていた。


だが――そう思っていた矢先、ついに『本物』が来た。


ズシン、ズシン……!


木々をなぎ倒すような重低音。

現れたのは、見上げるほど巨大な『大型モンスター』だ! しかも、あろうことかそれが群れをなして遠くを移動している!


(ヤバいヤバいヤバい。さすがにこいつらはヤバいって!!汗)

幸い、まだあちらは風下にいるこちらに気付いていない。


「……これはさすがに、まともに相手をするのは無理ですね」

先ほどまで余裕の笑みを浮かべていたエルウィンさんも、油断なく顔を引き締めた。


「まさか、このレベルの大型モンスターが群れをなして生息しているとは……」

ジルバさんも冷や汗を流している。

「もしこれが森を出て人里に向かえば、まずいことになる。今日の調査はここまでにして、ただちに帰路につきましょう」


俺たちは息を潜め、なるべく気配を殺しながら、来た道を慎重に引き返し始めた。


◇ ◇ ◇


あと1時間も歩けば森を抜けられる。

そう安堵しかけた場所に戻ってきた時――最悪の事態が起きた。


「ギシャアアアアッ!!」


突如、巨大なトカゲの姿をした3匹の大型モンスターに見つかってしまったのだ。

(まさか、出口に近いこんな浅い場所にまで大型が降りてきているとは!)


逃げ切るのは不可能だ。ここは撃破するしか無い。

瞬時に陣形が組まれる。ジルバ隊が1匹、エルウィンさんが1匹、そして我々学生3人で残りの1匹を相手にすることになった。


さすがは実戦経験豊富なジルバ隊と、規格外のエルウィンさん。それぞれ1体を相手にする分には、簡単には勝てないまでも、決して崩される気配はない。


対して、我々3人は違う。

ジルバ隊のような洗練された連携もできないし、エルウィンさんのような圧倒的なステータスや経験値もない。


俺の無属性の『物理殴り』は間違いなく有効だが、相手があまりにデカすぎる。尻尾の一振りでもまともに喰らえば即死だ。

そのため、遠距離から俺とクレムの『ア・レイ(光線魔法)』でちまちま撃って牽制するしかない。

そしてエルザの得意とする闇魔法は、相手を徐々に削っていく状態異常系の攻撃が多く、一撃必殺が求められる巨大モンスターとの短期決戦にはひどく不向きだった。


このままでは、ワンパターンな俺たちの攻撃などすぐに攻略されて、踏み潰されてしまう。ジルバ隊やエルウィンさんからの援助も、すぐには期待できない。

(これはマジでヤバいぞ……汗)


俺が焦りを感じ始めたその時。


「ふぅ……」

エルザが、忌々しそうにため息をついた。

「どうなるか分からないから、本当はやりたく無かったのだけれど……こうなったら仕方ないわね」


エルザは目を細め、巨大トカゲに向けて扇子を突きつけた。


『――サニティー・ブレイク(精神破壊)』


ドクンッ、と不気味な魔力が放たれた。


「ギャルルルッ!? ギィヤアアアアアア!!」


次の瞬間、俺たちを睨みつけていた巨大モンスターが、突如として正気を失い、狂ったように暴れ出したのだ!


(ぐわぁーっ! やばい、暴れすぎやろ!!)

俺が慌てて飛び退いた先で、混乱したモンスターはなんと、隣でジルバ隊と戦っていた『仲間のモンスター』に向かって猛突進していった。


ドゴォォォンッ!!

「ギャアッ!?」


2匹の巨大トカゲが激しくぶつかり合い、もつれて地面に転げ回る。


(今だ! チャンス到来だ!!)


「クレム、頼む!」

「わかってる! 『ホーリー・エンハンス』!!」


クレムから強力な身体バフ魔法を受け、俺は自身の魔力による身体強化も最大まで引き上げた。

足元の地面が爆発したかのような踏み込みで、もつれ合う巨大トカゲの懐へと一気に駆け寄る。


「おおおおおっ!!」


渾身の力を込めた拳を、モンスターの額にある硬いコアに目掛けて叩き込む!

パァァンッ!! と、ガラスが砕け散るような高い音が響き、巨大トカゲの動きがピタリと止まった。


ドズゥゥンッ!!


そしてそのすぐ横では、エルウィンさんが放った『アーススフィア(石の槍)』が、もう1匹の巨大トカゲのコアを正確に撃ち抜いていた。


2匹の巨大トカゲが絶命して倒れるのを見た残りの1匹は、形勢の圧倒的不利を悟り、そそくさと森の奥へ逃げ帰っていったのだった。


「はぁ、はぁ……」

「3人ともよくやりました」


俺は額の汗を拭った。俺たちの、完全な大勝利である。


本来であれば、これほどの大型モンスターの死骸(素材)は持ち帰りたいところだが、さすがにこんな場所から王都まで運ぶのは物理的に不可能だ。

俺たちは泣く泣く素材を諦めて急いで帰路につき、無事に魔境の森を抜け出すことに成功したのだった。


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