【第48話】調査隊への合流と、魔境の洗礼
グランゼン様が用意してくれた『ジルバ隊』と、俺たちは王都で合流した。
隊と言っても、リーダーのジルバさんを含めてたったの3名だ。ジルバさん本人は光属性(回復魔法)が得意な中級魔術師で、残りの部下二人は基本の4属性を器用に使いこなすらしい。
危険な魔境での簡易調査において、戦闘よりも「生き残り」と「離脱」に特化した身軽な編成としては最適のチームだ。
「最近、ゼレナ山脈の麓にある森で異変があったらしい。我々の任務は、その調査に向かうことだ」
ジルバさんは真面目そうな顔でそう告げた。
対して、我々便乗組の4名。当初の話し合いでは、メンバーの中で唯一の『初級』であるエルザは、当然ながら王都に置いて行くという結論になっていた。
「絶対に行くわ!」
「いや、足手まといになるから」
「私は貴重な闇魔法使いよ、絶対に役に立つわ!」
「いや、だからレベルが……」
「もし私を置いていくなら、あんたたち全員、一生消えない呪いをかけて闇に葬ってやるわよ……!」
エルザが扇子を振り回して烈火のごとく騒ぎ、最後には本気の脅迫まで飛び出したため、結局折れて連れて行くことになったのだった。(このお嬢様、ほんと執念がすごい)
ここで補足として、この世界の魔術師の『レベル』と『階級』について説明しておく。
・レベル1~19:初級(※Lv9までは半人前扱い)
・レベル20~35:中級
・レベル36~45:上級
・レベル45以上:超級
このレベルの上限は、伝説の魔術師バルタザールを『Lv100』として換算して設定されているらしい。……いや、どんだけおかしなバケモノだったんだよ、その人。
超級の魔術師がどれだけ貴重かというと、魔術師1万人に1人いるかどうかのレベルだ。そして、Lv50を超えた魔術師など歴史上ほとんど存在しないらしい。
ちなみに、あの規格外のマッドサイエンティストであるエルウィンさんで「レベル41」、アストリアのトップ魔術師オズワルドさんでも「レベル43」とのこと。
(そう考えると、10歳でレベル30を叩き出して『中級』上位に食い込んでいた俺の異常性がよくわかる……)
さて、今回の調査の指揮権は、当然ながらジルバさんにある。
役職やレベルで言えば上級のエルウィンさんが圧倒的に上だが、軍の任務であるこの場ではそれは通じない。あくまで我々4人の調査は「ついでに同行してよし」というオマケの立場なのだ。仕方ない。まずは念願の森に入れるだけでも良しとしなければ。
◇ ◇ ◇
そして俺たちは、ゼレナ山脈の麓――森との境界線にやってきた。
「……ごくり」
俺は思わず生唾を飲み込んだ。なるほど、これは確かにヤバい雰囲気が漂っている。
さらに、近隣に住む村の住人たちから聞き込みをしたところ、「最近、山の方がひどく騒がしい。モンスターの群れ(スタンピード)でも出てくるんじゃないか?」とひどく恐れているらしいのだ。
ただでさえヤバそうな魔境の森が、騒がしい……。
これ、本当に入るの?
俺、将来でっかいビッグな男にはなりたいけど、モンスターの美味しい餌にはなりたく無いんですけど!(汗)
とは言え、森に入る程度でビビって逃げ帰っていては、のちに語り継がれるであろう『カール様伝説』に大きな汚点を残すことになるからな。俺は震える膝を必死に叩いて気合を入れた。
「行くぞ。警戒を怠るな」
ジルバさんの合図で、一行は薄暗い森の中へと足を踏み入れた。
――そして、森に入って3時間ほど経った頃。
(……正直、拍子抜けだ)
俺は心の中でボヤいた。
確かに小さなモンスターには何度か遭遇したが、ジルバ隊の洗練された動きや、エルウィンさんから漏れ出る強者のプレッシャー(レベル)にビビって、向こうから勝手に逃げてしまうのだ。
村人が恐れていたような大規模な異変も、今のところ特に見られない。
ふわぁ……あくびが出そうだ。
みんなビビりすぎて、ただの噂に尾ヒレがついたんじゃないか?
俺がふうと息を吐き、そんな風に完全に気が緩んだ――その時だった。
「……あれ?」
気がつけば。
さっきまで目の前を歩いていたはずのジルバ隊も、クレムも、エルザも、エルウィンさんもいない。
俺は、鬱蒼とした森の中に、たった一人でポツンと立っていた。




