【第43話】地獄の凱旋帰郷と、拍子抜けの大冒険
俺たちは無事に進級し、4年生になった。
いよいよ魔法大学の高学年最大のイベント、フィールドワークが始まる。
……のだが、実は3年生の終わりから春休みにかけて、俺たち3人はとんでもなく忙しい日々を送っていたのだ。
エルザは、自領であるカルバン領とひっきりなしに連絡を取り合っていた。どうやら本気で「銀の騎士」やアトミックブレイクのコアである「ドラゴンの心臓」について、実家のツテを使って相談し、裏で手を回しているらしい。お貴族様の行動力、恐るべしである。
一方のクレムは、有能な回復魔法の使い手として、模擬戦闘をしたい血気盛んな荒くれ者たちから引っ張りだこになっていた。クレム自身もガバレリア仕込みの体術オタク……もとい戦闘訓練が好きなので、嬉々として毎日出ずっぱりである。
そして問題は、俺だ。
やりたくもない模擬戦に、なぜか連日無理やり引っ張り出されるハメになっていた。
「あのワンパターンな戦法なら俺でも勝てる!」「あんな虫を使った卑怯な手で優勝しやがって!」「あいつだけは絶対に許せん!」等々。
例年、トーナメント明けは生徒たちの戦闘熱が上がって模擬戦が増えるらしいのだが、今年は特にその熱が異常だったらしい。しかも、普通は順位の低かった下位層同士が切磋琢磨して頑張る形が多いのに、今年に限っては優勝者の俺や、強豪を追い詰めたクレムばかりが執拗に引っ張り出されたのだ。
(……なんでや!)
俺は毎日、恨み節と物理パンチを撒き散らしながら過ごすことになった。
そんなこんなでバタバタと過ぎ去り、あっという間に4年生のフィールドワーク開始時期。
エルザはさっさと自領のカルバン領へ帰っていった。
「私はとりあえず3ヶ月で戻るわ。私のとびきりの土産話を楽しみにしてなさい」
相変わらず自信満々なセリフだけを言い残して。
その後、しばらくして俺とクレムも隣国アストリアに向けて出発した。
目的地は隣国だが、俺たちはやや遠回りになるルートを選び、一度故郷のガバレリア領へ寄ってから行くことにした。
いくらグスタフ学長からエルウィンさんに手紙が出ているとはいえ、スライムや世界のバグの件を勝手に喋ってしまった手前、自分たちの言葉でしっかり直接謝罪と報告をしておきたい。
それに、カリン(母さん)にも会いたいし、どうやらクレムの両親も領主の屋敷の方へ来ているらしいのだ。
ガバレリア領の屋敷へ到着すると、あの変態マッドサイエンティストことエルウィンさんとの面会が待っていた。
「ずいぶん成長したようだな。まずはトーナメント優勝、おめでとう」
「えっ」
色々と大目玉を食らうことを覚悟してガチガチに緊張していた俺たちは、その穏やかな言葉に完全に拍子抜けした。
なんだ、エルウィンさん、意外と優しいところあるじゃん!
と、俺がホッと胸を撫で下ろした、次の瞬間。
「……まぁ、凱旋した日くらいは褒めてやらないとな」ニヤッ。
エルウィンさんが、あの底知れぬ三白眼を細めて、凶悪に笑った。
(やべー! 明日はこってり怒られるパターンのやつや!!)
俺の野生の勘(スライム避けで培った直感)が全力で警鐘を鳴らした。
そして俺たちの滞在した3日間は、まさに地獄だった。
初日の優しさはどこへやら、二日目からはねちっこい小言と、とんでもないしごきが待っていたのだ。
「君たちの実力も見ておこう。ジャック君、彼らに君の今の実力も見せてやれ」
「はいっ、エルウィン様! 行くぞ、カール、クレム!」
いやいや、ジャック兄さんとも久しぶりの再会なんだから、せっかくだし平和に昔話でもして遊ぼうよ……とは口が裂けても言えず。
俺たちは青く光る魔剣を振り回すジャック兄さんと、容赦ない魔法を撃ち込んでくるエルウィンさんを相手に、ただただ地獄のような特訓(という名の実験)をさせられたのだった。
(母さんには悪いが、しばらくガバレリアには帰らないでおこう……涙)
俺は全身筋肉痛の体を引きずりながら、固く心に誓った。
その後の旅は、驚くほど順調だった。
リディア国とアストリア国を結ぶ道は大きな街道が綺麗に整備されており、国交が良好なため交易も非常に盛んだ。
隣国への出立! 未知のモンスター! 襲い来る野盗!
……といった王道ファンタジーな『大冒険』を密かに期待していた俺たちは、あまりにも平和で安全な馬車の旅に、またしても拍子抜けしてしまった。
そして俺たちは無事に、隣国アストリアの首都『フィレンティア』へと到着した。
芸術と魔法が調和した、とても華やかで美しい王都だ。
お目当てのトップ土魔術師、オズワルド師は、この首都の魔法師団にいるらしい。
グスタフ学長の直筆の紹介状という水戸黄門の印籠レベルのチートアイテムのおかげで、一介の学生である俺たちでも、すぐに接見の機会が貰えた。
さぁ、ついにこの世界の歴史を知る大魔術師との対面だ。
俺の最大の目的である『銀のヴォルク』について、彼は一体何か知っているのだろうか。俺は期待に胸を膨らませて、魔法師団の重厚な扉をくぐった。




