【第4話】ウサギが爆散して気づいた、俺がダンジョンで避けられていた本当の理由
「おらぁ! どこ行きやがったクソガキども!! 絶対に探し出して八つ裂きにしてやる!!」
背後から遠く響いてくる野盗たちの怒号と、松明の不気味な明かりにヒヤヒヤしながら、俺と少年は道なき夜の森を夢中で駆け抜けた。
足場は最悪で、木の根に何度も足を取られそうになる。飛び出した鋭い枝が頬や腕をかすめて傷を作ったが、立ち止まるという選択肢はなかった。俺たちは大人である野盗の追跡から逃れるため、あえて人が踏み入らないような険しい森の奥深く、獣道すら途切れた場所へと進み続けた。
そして、息が完全に上がり、足が棒のようになった頃。ようやく東の空が白み始め、鳥のさえずりとともに朝を迎えることができた。
「はぁっ……はぁっ……。ここまでくれば、たぶん大丈夫だろ……」
俺たちは太い木の根元にへたり込んだ。近くからチョロチョロと水の流れる音が聞こえ、綺麗な湧き水を発見した。両手ですくい、冷たい水でカラカラに乾いたのどを潤して、ようやく深い安堵の息を吐き出す。
「……ありがとう。助け出してくれて、本当にありがとう」
落ち着きを取り戻した彼は、涙ぐみながら俺に深く頭を下げた。
彼の名前は『クレム』といった。話を聞くと、クレムは俺と同い年(10歳か11歳くらい)で、とても家族思いの心優しい子らしい。ただ、少し子供特有のやんちゃさと見栄っ張りなところがあり、他の村のガキ大将たちに「お前は臆病者だ」とからかわれたのだという。
「それが悔しくて……度胸試しに、一人で深い森へ入ったところを、あの野盗たちに見つかって攫われたんだ……。僕がバカだった」
「……あー、なるほどな」
俺の「掟を破って調子に乗って穴に落ちた」というアホな(ゲフン)……野心に満ちたやんちゃな理由にあまりにも似ていて、俺は彼に強烈な親近感を抱いた。似た者同士、これも何かの縁だろう。
その時だった。
グゥゥゥゥゥ……。
静かな森の中に、俺とクレムの腹の虫の音が盛大にハモって響き渡った。
「……お腹、すいたね」
「ああ。干からびたパンの欠片しか食ってないからな」
限界まで腹をすかせた俺たちは、朝飯を調達することにした。耳を澄ますと、少し離れた茂みからカサカサと葉っぱが擦れる音がする。そっと覗き込むと、そこには丸々と太った野ウサギが呑気に草を食んでいた。
(よし、肉だ!)
俺はあの薄暗い洞穴で10年間培ったサバイバルスキルをフル稼働させ、気配を完全に殺して風下から背後へと忍び寄る。そして、手頃な大きさの硬い石を右手に握りしめ、ウサギの頭めがけて思い切り、迷いなく振り下ろした。
「よし、とった……!!」
パァァァンッ!!!
「…………は?」
鈍い骨の折れる音がするはずだった。しかし、森に響いたのは、風船が弾けたような甲高い破裂音だった。
ウサギの頭蓋骨を砕くどころの話ではない。俺が振り下ろした石もろとも、ウサギの体はまるで内側に高性能な爆弾でも仕掛けられていたかのように、木端微塵に弾け飛んでしまったのだ。
血抜きをする手間などいらない。なぜなら、肉片すらほとんど残らず、赤い霧となって消し飛んでしまったのだから。
ポカンと口を開けたまま、俺は自分の右手と、ウサギがいたはずのクレーター状にえぐれた地面を交互に見つめて呆然とした。
(ちょっと待てよ……?)
10年経っても10歳のままの体。大人がミサイルのように数十メートル吹き飛び、かすった風圧で太い木の檻が粉砕。そして今、爆発四散したウサギ。
(……もしかして、あの洞穴で10年間、毎日あの『光るスライム』を食べ続けてたせいか……!?)
俺の体に起きている、明らかに常軌を逸したデタラメな変化。そこで俺の脳裏に、電撃のような閃きが走った。ハッとあることに気がついたのだ。
(待てよ!? じゃあ、ダンジョンを抜ける時に、あの凶悪なオークやゴブリンたちがブルブル震えて道をあけて逃げていったのって……俺がお風呂に入ってなくて激烈に臭かったからじゃなくて……!! 俺がスライムを食いすぎて、モンスターが本能で恐怖するほどの『異常なレベルのバケモノ』に進化してたからか!?)
それなら、すべての辻褄が完璧に合う。あのモンスターたちは、俺から発せられる圧倒的な強者のオーラに怯えていたのだ。
スライム、恐るべし。ただの非常食だと思っていたゼリーは、とんでもない経験値とパワーの塊だったらしい。俺は粉々になったウサギの跡地を見つめたまま、自分自身の規格外な異常性に一人でブルブルと震えるのだった。




