【第39話】呆気ないカミングアウトと、大師匠の閃き
「クレム、エルザ、今まで黙っていてすまん。実は、俺にはお前たちに隠している秘密があるんだ」
学長室に二人を呼び出した俺は、ソファーの前に立ち、深々と頭を下げた。
ついに、俺が一人で抱え込んでいた『世界の命運』という爆弾を打ち明ける時が来たのだ。二人はさぞ驚き、そして怒るだろう。俺は固く目を閉じ、どんな罵倒でも受け入れる覚悟を決めていた。
だが、二人の反応は俺の予想とは全く違う、意外なモノだった。
「……今更、何言ってるのよ?」
エルザは扇子をパタンと閉じ、心底呆れたような顔でため息をついた。
「あははっ! そんなこと、あの洞穴ダンジョンで巨大スライムからお母さんを助けた後から、とっくに気づいてたよ!」
クレムに至っては、お腹を抱えて大笑いである。
「……え?」
俺は間抜けな声を出し、下げていた頭をバッと上げた。
「だって、あの時のカールの挙動、あからさまにおかしかったじゃない。一人だけ奥の部屋に行ってたし」
「それに、僕とジャック兄さんが『勇者の仲間』って呼ばれたんだよ? その中心にいるカールが、何も知らないわけがないって、普通に考えたらわかるよ」
「そもそも、あのスライム由来だっていう規格外の魔力からして隠し切れてないのだから、他にも裏があることくらい明白でしょうに。ねぇ?」
やれ挙動不審だったの、やれ設定に無理があるの、等々。
二人の口から、俺が『何かを隠しているとバレていた理由』が次々と並べ立てられていく。
(ぐぬぬ……!)
重大な秘密をバラして二人に誠心誠意謝ったつもりが、まさかこんな圧倒的な敗北感を味わうことになるとは。俺のこの数年間の苦労と罪悪感は一体なんだったのか。
「さて、そろそろ話してもらえるかな?」
俺が一人で勝手に落ち込んでいると、見かねたグスタフ学長が助け舟(?)を出してくれた。
その声に、エルザとクレムも笑うのをやめ、真剣な顔つきになって俺の方を向いた。
俺は咳払いを一つして、あの洞穴ダンジョンで巨大スライムから聞いた不思議な話を、包み隠さずすべて話した。
ガンズ・テラとセーズ・テラという2つの世界(介入してきた世界を含めれば3つ?)のこと。
俺が強制任命された『調律者』の役割と、その制限。
授かった特殊な調律魔法『テンパメント』。
本来なら300年後の『エルディア』という国に現れるはずだったという時空のバグ。
そして最後に託された、謎の言葉――『銀のヴォルク』。
話し終えると、学長室は水を打ったようにシーンと静まり返った。
無理もない。魔法学校のトーナメント優勝ではしゃいでいた直後に聞かされるには、あまりにも話のスケールがバグりすぎている。さすがのグスタフ学長も、すぐには言葉が出ないようだ。
「……なるほど。世界の危機は、すぐの話ではなく『300年後の話』ということか……」
長めの沈黙の後、学長が顎髭を撫でながら重々しく呟いた。
「そうです。なので、まずはそれぞれの単語を色々と図書室などで調べてみたんですが、何ひとつ手掛かりがありませんでした」
俺が肩を落として答えると、クレムが期待を込めた眼差しで学長を見た。
「学長先生は、何かご存知ありませんか?」
この国で最も知識があるだろう、魔法大学のトップであり元12魔術師。この大師匠なら、きっと何か知っているはずだ!
「いや。私にもまるでわからない」
(ええええええええっ!?)
俺は心の中で盛大にズッコケた。
いやいやいや、絶望的じゃないか! この国でトップクラスの知識人が「まるでわからない」って、じゃあ俺ごときの頭で分かるはずがないだろう!
おい、巨大スライム! 丸投げするなら、もうちょっと詳しく話してから消えろよ!!
俺が脳内でスライムをタコ殴りにしていると、グスタフ学長がハッとしたように顔を上げた。
「だが……ひとつだけ、気になることがある」
「本当ですか!?」
「ああ。君たちの探し物である『ヴォルク』。これを仮に人名だとしよう。そうすると、名前に『銀の』とつくケースは、歴史上2つしか考えられない」
学長は指を2本立てて説明を始めた。
「一つは、『優秀な土魔法の使い手』への異名だ」
(なるほど。銀などの希少な鉱物を生み出せる魔法使いってことね。それならイメージしやすい)
「そしてもう一つは――『銀の時代』の偉人だろう」
「……銀の、時代?」
俺がオウム返しに呟くと、エルザとクレムも不思議そうに顔を見合わせた。
「そうだ」
グスタフ学長は、どこか遠くを見るような、静かな瞳で語り始めた。




