【第36話】合法的な(?)真っ黒い勝利と、学長室への招待状
時間を少し遡る。
エルザが持ちかけてきた『良い案』とはこうだった。
「実は彼女、大の虫嫌いなのよ」
「えっ」
以前からシャルロッテと面識があったエルザは、彼女が異常なほどの虫嫌いであるという弱点を、裏の調査でバッチリ把握していたらしい。
(そんなことまで知ってるんだ。お貴族様怖い……)
「だから、私が彼女のもっとも嫌いな『黒い虫』の死骸を、使役できるパペット(操り人形)にしておくわ。試合中、あなたはそれを操作しなさい」
「え? 待ってくれ。俺、闇魔法なんて使えないよ? それに、それって君の魔法の持ち込みにならないか!?」
俺がルール違反を危惧して慌てると、エルザは扇子で口元を隠しながら「ふふふ」と妖しく笑った。
「闇魔法使いが少ないからあまり知られてないけど、実は闇魔法でパペットにした死骸は、無属性の魔力で使役可能なのよ。あなたの得意な身体操作と要領は一緒よ」
「マジで……?」
「ええ。それにトーナメント戦のルールを隅々まで調べてみたらね、『パペット1体の持ち込みはOK』だったのよ」
「……」
「昔、力を持った貴族の闇魔法使いの子供がいてね。その子が自分の得意戦術を活かすために、パペットの持ち込みOKのルールを学校側に追加させたそうよ。ふふふ」
(それたぶん、あんたたちのカルバン領の先祖だろうが!)
喉まで出かかった猛ツッコミを、俺はなんとか飲み込んだ。
……ということで、俺は「ルールに則った合法的な手段」で、見事に優勝をもぎ取ったのである。
とはいえ、あの氷の令嬢のパニック顔を思い出すと、なんだか後で色々な人に恨まれないか激しく心配だ。
◇ ◇ ◇
「今年の優勝は、カール・アークライト!!」
大会の最後、勝者を称えるために用意された表彰の場で、審判をしていた先生が高らかに宣言した。
わぁーーーっ! と、闘技場を揺らすような大きな歓声があがる。
そこへ、一人の老人が颯爽と現れた。
「グスタフ・ヴァイゼル」
この、リンギア魔法大学の学長である。
「カール君、優勝おめでとう! 素晴らしい戦いだった。今年の大会も非常に見ごたえがあったよ」
グスタフ学長は、人の良さそうな笑顔で俺にトロフィーを渡し、一通りのお褒めの言葉と、生徒たちへの激励の言葉を伝えた。
そして、去り際。
俺にだけ聞こえるような小さな声で、彼はこう囁いたのだ。
「……後ほど、報酬の件を伝えに学長室にきなさい。君には『聞きたいこと』もあるしね」
(うわぁぁーっ。なんだか嫌な予感しかしない!)
背筋に冷たい汗が流れる。一人で行きたくない(汗)。
でも、ここで不用意にクレムやエルザを連れて行ったら、学長に余計なことまで色々と詮索されそうだ。
ここは腹をくくって、俺一人で乗り込むしかないな。
表彰式が終わるやいなや、周りからは「おめでとう~!」「実はお前、強かったんじゃん!」「小癪な奴め……」等々、様々な声(と怨嗟)がかけられたが、俺は急いで逃げるように闘技場を退場した。
その後、控室の裏で合流したクレムとエルザに、学長室へ行くことを伝え、『お願いすること』の内容を改めて確認した。
「3人で学校の最深部にあるという禁書庫へ入らせてもらう」
これが俺たちの目的だ。
優勝者への報酬であるお願いは「1つ」と聞いているが、そこは「俺の願いは、この3人で入室することだ」と強引に押し通すつもりである。
◇ ◇ ◇
「こんこん」
重厚な学長室の扉をノックする。
「どうぞ」
中から、落ち着いた老人の声が響いた。
さぁ、学長との対面である。
正直、今の俺はガチガチに緊張していた。
なぜなら――「エルザめ、来る直前に余計なことを……!」
俺が学長室に向かう直前、エルザがポロリとこぼした情報。
グスタフ・ヴァイゼル学長は、あの変態マッドサイエンティストこと「エルウィン」の『師匠』にあたる人物らしいのだ。
元12魔術師にして、エルウィンの師匠。ということは、俺から見たら大師匠(あるいは大ボス)にあたるようなとんでもない権力者ではないか。
そんなバケモノみたいな人に、禁書庫へのお願いなんていう無茶な要求を通せるのか?
そもそも、「聞きたいこと」ってなんだ? スライムのことか? バグのことか? どんな恐ろしい追及が来るのか……。
(いや、ここでビビッても仕方ない。俺は将来でっかい男になるんだからな!)
俺は腹の底にグッと力を入れ、勇気を出して学長室の扉をあけるのであった。




