【第32話】強かな美少女がわざと予選落ちした件と、因縁の天才との激突
リンギア魔法大学、3年生の学期末。
学校名物である『勝ち抜きトーナメント』の開催日がついにやってきた。
学年全員、約50人以上の見習い魔法使いが参加する大会だが、実は全員が血眼になって優勝を狙っているわけではない。怪我を恐れたり、自分の実力に見切りをつけて早々に「棄権」や「手加減」を選ぶ生徒も多いのだ。
本気で優勝を狙う『ガチな参加者』は、毎年5名程度。彼らは皆、フェルト領やカルバン領といった大領地のプライドを背負ったエリート中のエリートたちである。
「今年は俺たち3人を加えると、8名くらいのガチ勢がいる計算になるな」
闘技場の控室で、俺は腕を組んで分析していた。
トーナメントの本戦に出場できるのは、予選を勝ち抜いた上位16名(棄権者は除く)のみ。
予選のルールはシンプルで、各生徒が学校側で用意された『モンスター3匹』と同時に戦い、その戦況や魔法のコントロール、撃破スピードを見て、審査員の先生たちが得点をつけるというものだ。
俺とクレムは、スライム産の中級魔法使い並みの威圧感(とレベルの暴力)でモンスターを大人しくさせつつ、適度な魔法でサクッと撃破して高得点を叩き出した。
よーし、これで俺たち3人揃って本戦進出だ! と思っていたのだが……。
「……ううっ、ごめんなさいカール、クレム。私、檻から出てきたモンスターがキャンキャン鳴いてて……なんだか可哀想で、攻撃魔法なんて撃てなかったわ」
控室に戻ってくるなり、目を潤ませてしゅんとするエルザを見て、俺とクレムは盛大にズッコケた。
「おいおいおい!! これから『究極の大量破壊魔法』を作ろうとしてる奴が、モンスターが可哀想って何言ってんだよ!!」
俺が小声で猛ツッコミを入れると、エルザは「だってぇ……」とさらに可憐な令嬢のように身を縮めてみせた。
――だが、俺には知る由もなかったが。
この時、エルザは心の中でペロッと舌を出し、密かに悪魔のような笑みを浮かべていたのだ。
(……というのは、もちろん建前よ。わざと手を抜いて予選落ちしただけ)
彼女の内心は、どこまでも冷徹で計算高かった。
(私が本気を出して目立ったら困るもの。この2年半で私の闇属性のレベルは『15』にまで上がっているわ。ここで派手に戦って、学校側に実力を怪しまれるリスクを冒す必要はないでしょう? どうせカールかクレムのどちらかが確実に優勝するのだから、私は実力を隠したまま、高みの見物をさせてもらうのが一番賢い選択だわ)
自分は安全圏に身を置き、危険な戦いや目立つ行為はすべて俺たちにやらせて、ちゃっかり一番の果実(禁書庫の許可)だけを共有しようという魂胆。
そんな彼女の『腹黒い本音』などつゆ知らず、俺は完全に騙されていた。
「ま、まぁ怒っても仕方ないよな。俺かクレムのどちらかが優勝して、禁書庫の許可をもらえばいいんだし」
俺がため息混じりに慰めると、エルザはパァッと顔を輝かせた。
「ええ、頼んだわよ? 私の優秀な騎士たち!」
エルザの可憐なウィンクに、俺は「へいへい」と呆れ半分で頷くしかなかった。
◇ ◇ ◇
そして、ついに上位16名によるトーナメント本戦が始まった。
本戦に出場するメンバーの中で、俺が一番警戒している相手。
それは、入学前の宿屋で絡んできたあの因縁の相手――魔法師団トップのフェルディナント家の『ヴェルナー』だ。
闘技場の舞台で戦う彼の姿を観客席から見て、俺は改めて舌を巻いた。
「あいつ……性格はクソ生意気だけど、実力は本物だな」
ヴェルナーは光と闇という希少属性こそ持っていないが、それ以外の火・水・土・風の基本属性を、まるで自分の手足のように極めて器用に使いこなしていた。炎で敵の視界を奪い、風で機動力を上げ、水と土で防御を固める。
魔法レベルは『14』程度らしいが、複数の属性を滑らかに連携させるその技術は、さすが「10年に一人の天才」と呼ばれるだけのことはある。
(ちなみに、クレムはガバレリアでの地獄の猛特訓とこの2年半の基礎練の成果で、すでにレベル『20』の大台に達している。マジでヤバい成長速度だ)
他にも、大領地の代表格で2〜3名ほど強そうな奴が勝ち上がってきている。
正直言って、「純粋な魔法の魔力や出力だけの勝負」であれば、レベル30を軽く超えている俺が負ける要素は1ミリも、いや1ミクロンもない。適当に無属性で殴れば一撃だ。
――だが、これはただの魔力測定ではなく『戦闘(試合)』なのだ。
この魔法学校に通う貴族の子供たちは、幼い頃から貴族の教養として、一流の家庭教師から「剣術」や「対人戦の戦い方」をみっちりと学んできている。相手の魔法の出鼻を挫くフェイント、視線を外すステップ、防御魔法を展開するタイミング。それらが完全に体に染みついているのだ。
対する俺やクレムは、ただの村の子供だ。
俺の戦闘経験といえば、10年間洞穴で動かない光るスライムを石で叩き潰していたことと、野盗を自暴自棄に殴って吹っ飛ばしたことくらい。クレムに至っては、実戦経験は逃げ回ったことくらいしかない。
つまり、俺たちには「対人戦の駆け引き」という経験値が決定的に欠けているのだ。
(いくらレベルが上でも、一瞬の隙を突かれて急所を魔法で撃たれたり、場外に押し出されたりすれば、あっという間に負けるだろうな……)
俺は気を引き締め直し、絶対に油断しないと心に誓った。
◇ ◇ ◇
大会は白熱し、俺とクレムは「圧倒的な魔力のゴリ押し」でなんとか試合を勝ち上がっていった。相手の小賢しいフェイントごと、強力な光魔法の波動や無属性の身体強化で対処するという、非常に大味な戦法だ。
そして、激戦の末――ついに『ベスト4』が出揃った。
勝ち残ったのは、俺、クレム、ヴェルナー、そしてもう一人の他領の強者。
「次は準決勝、第1試合! カール・アークライト 対 ヴェルナー・フェルディナント!!」
審判の先生の声が闘技場に響き渡る。
地鳴りのような歓声が沸き上がる中、俺はゆっくりと舞台の中央へと歩み出た。
反対側からは、ヴェルナーが自信に満ちた不敵な笑みを浮かべて登壇してくる。
「ふん。奴隷の子上がりにしては、よくここまで勝ち上がってきたな」
ヴェルナーは上等な杖を構え、俺を嘲笑うように見下ろしてきた。
「だが、お前らの力任せの魔法もここまでだ。俺が本物の貴族の戦い方というものを、その体に刻み込んでやるよ」
「……言うねぇ、天才坊っちゃん」
俺も静かに腰を落とし、無属性の魔力を全身に巡らせて身体強化を発動させた。
宿屋での「中級魔法やらかし事件」から2年半。
あの時は逃げるしかなかったが、今は違う。銀のヴォルクの正体を突き止めるため、この『因縁の対決』はどうしても勝たなければならない。
「さぁ、こいよ!」
俺とヴェルナーの視線が、闘技場の中央で激しく火花を散らした。




