【第31話】実は嘘がバレバレだった件と、2年半後の『学園トーナメント』開幕
時を少し遡る。
カールたちが巨大スライムのダンジョンから母さんを救出し、ガバレリアへ帰還してからしばらく経った頃のこと。
領主邸の奥深くにある魔法師団の秘密の一室に、エルウィン、ベルモン、そしてジャックの3人が集まっていた。
「……さて。カールは何を隠しているのやら」
長机で腕を組んだエルウィンは、ふふっと面白そうに、しかし底知れぬ鋭い眼差しで笑った。
彼の頭の中には、いくつもの不可解なピースが並べられていた。
カールの馬鹿げた腕力と異常な魔力。ジャックとクレムが聞いたという『勇者とその仲間』という謎の言葉。なぜかカールだけを都合よく奥へ誘導したダンジョンの構造。ジャックが手に入れた岩をゼリーのように斬る謎の魔剣。
――そして何より、事の顛末を報告してきた時の、カールのあからさまに目を泳がせた「誤魔化しの顔」。
「フフッ。あのやんちゃ坊主、私に気付かれていないとでも思っているのだろうか? 10歳の子供の嘘など、透けて見えるというのに」
「……ならばエルウィン様。なぜ、拷問してでも全てを吐かせなかったのですか?」
いつも無口なベルモンが、静かに疑問を呈した。国家機密に関わる重大事だ。自白剤の魔法でも使えば、容易に聞き出せたはずである。
「それはね、私の『直感』が告げたのだよ。『今、強引に話を聞き出すべきではない』とね」
エルウィンは楽しげに肩をすくめた。
ダンジョンには明確な意志があった。そしてその意志は、カールというイレギュラーな存在を明らかに特別扱いし、何かを託したのだ。下手に大人が介入してその歯車を狂わせるより、泳がせて観察した方がより極上の研究成果(結果)が得られるはずだ。
「それに、カールは所詮まだ子供だ。母親という絶対的な人質もこのガバレリアにいる。いざとなれば、どうとでもなるさ」
冷徹な大人の計算を口にした後、エルウィンはジャックの方を向いた。
「ジャック。その青く光る魔剣は、君に預けておく。一通りのデータ(実験)は取らせてもらったが、それは『必要だから』ダンジョンから君に渡されたのだろう。君が持っていなさい」
「は、はいっ! ありがとうございます!」
身に余る光栄に、ジャックは深く頭を下げた。
その後、エルウィンは半年間かけて、それとなくカールやカリンに探りを入れたり、王都の禁書庫から各種文献を取り寄せて『勇者』について調べたりしてみたが、特にこれといった進展はなかった。
そんなこんなで、カールは首都リンギアの魔法学校へと出発していったのだ。
「あいつなら、大人しくしているはずがない。リンギアで絶対に何か『問題』を起こすだろう」
見送りの馬車を眺めながら、エルウィンは確信に満ちた笑みを浮かべていたのだった。
◇ ◇ ◇
さて、時は戻って現在。
首都リンギアでの波乱含みの入学式から、何事もなく(?)あっという間に『2年半』という月日が流れていた。
俺とクレムは、魔法学校の3年生の後半に差し掛かっていた。
洞穴から出たばかりの頃は10歳の見た目のままだった俺だが、この2年半の間にしっかりと背が伸び、顔つきも少しだけ大人びてきた。どうやら、スライムの不老効果はあの洞穴の中(もしくはあの10年間)だけのものだったらしい。同年代のクレムやエルザと並んで歩いても、全く違和感のない立派な学生の姿に成長していた。
「カール君、今日の魔力コントロールの授業、完璧だったね!」
「おう。まあな!」
この2年半。退屈だと思っていた基礎的な授業や反復練習も、真面目にこなしたことで俺の実力は桁違いに上がっていた。
以前は無意識に中級魔法を暴発させてしまうような荒削りな状態だったが、今では緻密な出力調整が可能になり、魔力の扱いにおいてはまさに「完璧」の領域に達しつつあった。さすがは国の最高学府である。
だが――俺たちの『裏の目的』については、完全に暗礁に乗り上げていた。
この2年半、俺たちは隙間時間を見つけては3人で図書館や資料室にこもり、様々な文献を調べ尽くした。
表向きは、エルザが完成を目指す『究極魔法』の手がかりを探すため。
……しかし実は、俺にはもう一つの重大な目的があった。巨大スライムから託された『銀のヴォルク』という謎の言葉だ。
(『世界の調律』だの『ガンズ・テラ』だの、いくらなんでも話のスケールがヤバすぎる。こんな爆弾情報、クレムはもちろん、エルザにも絶対に秘密にしておかなきゃな……)
俺は二人に内緒で、究極魔法の資料を探すフリをしながら、こっそりと『銀のヴォルク』についての記述も探し続けていたのだ。
しかし、進捗は全くのゼロだった。この魔法学校の「正規のルート」で手に入る情報や歴史書には、究極魔法はおろか、銀のヴォルクに関する記述も一切存在しなかったのである。
「手詰まりかぁ……。やっぱり、高学年になってフィールドワークに出るまでお預けかな」
俺が図書室の机に突っ伏してため息をついた、その日の放課後のことだった。
バンッ!!
「カール! クレム! チャンスが来たわよ!!」
突然、血相を変えたエルザがものすごい勢いで教室に飛び込んできたのだ。
「「えっ!?」」
いつも優雅な金髪美少女の珍しい取り乱しっぷりに、俺たちは目を丸くした。
「3年生の学期末に、学校名物の『勝ち抜きトーナメント』が行われるのは知ってるわよね!?」
「あ、ああ。高学年になる前の総決算の武闘大会みたいなやつだろ?」
それは、生徒たちが実力を示し、学校や国からの評価を得るためのガチの魔法バトル大会だ。怪我を恐れて早々に辞退する者も多いが、優勝すれば魔法使いとしての最高の名誉となるため、血気盛んな貴族のガチ勢が大勢参加する一大イベントである。
「それがどうしたのさ。俺たちは目立たないように、適当なところで負けて辞退する予定だったじゃん」
俺が言うと、エルザは机にバンッと手をつき、ギラギラした青い瞳で俺たちを見据えた。
「今年の優勝者にはね、『学長に1つ、なんでもお願いする権利』が与えられることが発表されたのよ!」
「……なんでもお願いする権利?」
「そう! 私が話したチャンスはまさにこれよ! この学校の最深部には、特別な許可がないと絶対に入れない『秘密図書室(禁書庫)』があるの。そこに絶対、私たちの探している究極魔法の情報が眠っているはずだわ!」
俺とクレムは顔を見合わせた。
(なるほど……! その「お願いする権利」を使って、禁書庫への入室許可を勝ち取るってわけか!)
そして俺の心臓は、別の理由で大きく跳ねていた。
(学校の禁書庫……! そこなら『銀のヴォルク』の手がかりもあるかもしれない!!)
「もちろん、手伝ってくれるわよね? カール、クレム」
エルザの問いかけに、俺たちはニヤリと笑って力強く頷いた。
「当然だ。エルザの目的のためなら、学校のトーナメントくらい、俺がぶっちぎりで優勝してやるよ!」
(……そして、銀のヴォルクの正体を突き止めてやる!)
かくして俺たち3人は、身分や裏の目的を隠したまま、学園最強を決めるトーナメントでの『絶対優勝』を固く誓い合うのだった。




