【第28話】金髪美少女からの甘い誘惑かと思いきや、究極魔法(ヤバいやつ)の共犯者にされた件
「……えっ!? なに!? 突然、謎の金髪美少女に声をかけられたんだけど!?」
俺の10歳の脳内テンションが急上昇し、勝手にラブコメ・恋愛ルート突入の予感に胸をドクンと高鳴らせていた、その直後。
「初めまして。私はカルバン領の『エルザ・ローゼンベルク』と言います。よろしくね」
フワリと高級な甘い香水の香りを漂わせながら、金髪美少女――エルザは優雅に微笑んだ。周囲の男子たちが羨望の眼差しを向ける中、彼女はスッと俺とクレムの耳元に顔を近づけ、周囲の生徒たちに絶対に聞こえないよう、声を極端に潜めてこう囁いたのだ。
「……あなたたち、『訳あり』の光属性なんでしょ? 先日の宿場町での、あの中級魔法のオールヒールを無詠唱でぶっ放したっていうド派手な噂、私の耳にもばっちり届いているわよ」
ピシッ。
俺の脳内で、甘い恋愛フラグが木っ端微塵に砕け散り、現実の冷酷な音がした。
(う、嘘だろ……!? あんなに「気のせいです! シャンデリアの反射です!」ってゴリ押しして逃げたのに、完全に裏で噂が回ってんじゃねーか!!)
俺は心の中で血の涙を流した。大貴族の情報網、マジで恐るべしである。
顔面蒼白になり、ガタガタと震え始めた俺たちを見て、エルザは満足そうにフッと口角を上げた。その笑顔は、完全に獲物を捕らえた小悪魔のそれだった。
「安心して、言いふらしたりはしないわ。……実は私も、あなたたちと同じ『訳あり』なのよ。口の固い優秀な光属性をずっと探していたの。あなたたちならピッタリだわ」
「訳ありって……どういうことですか?」
警戒しながら尋ねる俺に、彼女はとんでもない爆弾を落とした。
「私、『闇属性』なの。しかもレベルは、入学時には『12』と測定されたわ。もちろん、学校には適当にレベル8って誤魔化して申告しているけれどね。仲良くしておいて損はないわよ?」
「や、闇属性のレベル12!?」
俺は思わず裏返った大きな声を出しそうになり、慌てて両手で自分の口を塞いだ。
入学式で「10年に一人の天才だ!」とドヤ顔をしていたあのヴェルナーがレベル10だ。つまり、目の前のこの可憐な美少女も、学校側に平然と『嘘の申告』をして実力を隠している、相当ヤバいチート野郎だということだ。
俺の脳裏に、以前エルウィンさんが語っていた魔法の授業の記憶が蘇る。
『いいかいカール。闇属性は、光属性よりもさらに希少だ。強力な闇魔法師は、敵の精神を破壊したり、アンデッド(死者)を使役したりできる、極めて危険で強大な力を持っているんだよ』
(な、なにそれ。死者を操るとか、怖すぎだろ!!)
俺はガチガチと歯の根を鳴らした。魔法師団の大人たちには頼めないから、口の固い学生の光属性を探していたらしいが……もしここで「嫌です、他を当たってください」なんて断ったら、俺とクレムは翌日には行方不明になり、自我のないアンデッドとして彼女のパシリにされてしまうのではないか!?(※カールの甚だしい被害妄想です)
「く、詳しいことは話せないって言うけど……俺たちに一体何を手伝わせるつもりなの?」
隣で同じくビビって涙目になっていたクレムが、恐る恐る尋ねた。
するとエルザは、宝石のような青い瞳をギラリと怪しく輝かせて言った。
「……数十年後に、私の領地で必ず必要になる『とある魔法』を、学生のうちに再現して完成させたいの」
「とある魔法?」
「ええ。文献にわずかに残るだけの――『究極魔法』よ」
キュウキョクマホウ。
その五文字の響きが耳に飛び込んできた瞬間。
「「きゅ、究極魔法……っ!!」」
俺とクレムの背筋に、アンデッドにされる恐怖とは全く別の、電撃のようなシビれる衝撃が走った。
究極。魔法。
それは、男子(しかも歴史に名を残す伝説の男を目指す野心家)にとって、絶対に抗うことのできないロマンの塊である。さっきまで恐怖で震えていたはずなのに、俺たちのテンションは一瞬にしてバチクソに跳ね上がってしまった。
「究極魔法って、なになに!? 山が吹き飛ぶの!? それとも世界がヤバくなるやつ!?」
「すっごい! 僕たちの光属性で、そんなすごいことができるの!?」
目をキラキラ(ギラギラ?)させて思い切り食いついてきた俺たちの単純な反応を見て、エルザは完全に「計画通り」といった顔でニヤリと笑った。
「ふふっ。もちろん、手伝ってくれるわよね?」
有無を言わさぬその極上の笑顔に、もはや俺たちに「NO」という選択肢は残されていなかった。完全に彼女の中で決定事項になっている。
(エルウィンさぁぁん……! 目立たず普通に過ごせって言ってたのに、入学初日から超特大のフラグ回収しまくってますよ……!)
金髪美少女との甘い学園生活ではなく、闇の天才少女との『究極魔法開発』という恐ろしすぎる共犯関係。
俺たちの波乱に満ちた魔法学校生活は、こうして盛大に幕を開けたのだった。とほほ。




