【第25話】首都への道中で大貴族に絡まれた件。エルウィンさんのフラグ回収早すぎない!?
いよいよ、首都『リンギア』にある魔法学校へ向けての旅が始まった。
今回のガバレリア領からの新入生(見習い魔法使い)は、俺とクレムの他に、ガバレリアの生粋の貴族の子供たちが3名いる。今年は合計5名と、例年に比べてかなり数が多いらしい。
街道が綺麗に整備されているとはいえ、辺境のガバレリアから国の中心である首都リンギアまでは、馬車で約10日ほどの距離がある。
その道中、俺たちと他の3名の貴族の子供たちとの間に、会話はほとんどなかった。
というのも、出発前にエルウィンさんが彼らに「あの二人(俺とクレム)とは極力絡むな。距離を置け」とキツく言い含めていたからだ。平民出身であることを隠すための配慮なのだろうが、おかげで揺れる馬車の中は、常にお通夜のような気まずい空気が流れていた。
そして、あと数日でついにリンギアへ到着するというタイミング。
最後に立ち寄った大きな宿場町で、俺たちはとんでもなく豪華な装飾が施された、いくつかの巨大な馬車の集団と鉢合わせてしまった。
「あれは……『フェルト領』の魔法使い見習い一行ですね」
一緒にいたガバレリアの貴族の子供の一人が、窓の外を見て緊張した面持ちでそう呟いた。
フェルト領。
それは首都リンギアからも近く、このリディア国において最大規模を誇る超大物の領地だ。今年はなんと10名もの見習い魔法使いを学校へ送り込んできているらしく、宿屋の周りには彼らの世話をする付き添いの従者や護衛たちが、ゾロゾロと群がっていた。
対するこちらは、最低限の護衛と従者が数名いるだけ。
もちろん、「没落気味の田舎貴族」という設定の俺とクレムには、専属の従者なんて一人もついていない。なんなら、着ている服の質や挙動のせいで、俺たち二人が従者以下の存在に見えるレベルだ。
俺とクレムは、極力彼らに関わらないように宿のロビーの隅っこで息を潜めていた。
いくらこの半年間で地獄の貴族マナー特訓を受けたとはいえ、所詮は付け焼き刃だ。本物の大貴族様たちを前にしてボロを出せば、化けの皮なんて一瞬で剥がれてしまう。
しかし、そんな俺たちのささやかな願いは、無残にも打ち砕かれた。
「おい。今年のガバレリアは、ずいぶんと人数が多いらしいな」
宿のロビーで、フェルト領の見習いの一人が、ガバレリアの3人に向かってぞんざいな口の利き方で声をかけてきたのだ。
上等なシルクの服を着こなし、いかにも「俺様は生まれながらに偉いぞ」と全身からオーラを放っている、金髪で生意気そうな少年だ。
あんな態度を取られて腹は立たないのかと思ったが、ガバレリアの3人は愛想笑いを浮かべてへこへこと返答している。
……まあ、それも仕方ない。
実は、ガバレリア領はフェルト領の「子供」のような立ち位置なのだ。
はるか昔、フェルト領は他の3つの領地(ガバレリアを含む)を内包する巨大な1つの領地だった。しかし、あまりにも大きすぎて管理しきれないということで、4つに分割統治されることになったという歴史がある。
だからフェルト領の人間からすれば、ガバレリアなんて「元々は自分たちの従属領地(下っ端)」としか見えていないのだろう。
(ふふふ、どうよ! これも半年間の地獄の猛勉強で得た、由緒正しい歴史知識だぜ!)
俺は物陰からこっそり様子を窺いながら、自分の知識量に内心でドヤ顔をしていた。
「まあ、どうせ大した魔力も持ってない田舎者の集まりだろうがな。我々フェルトの足元にも及ばん」
鼻で笑うフェルトの少年たち。
俺とクレムは「頼むからこっちを見るなよ……」と心の中で祈りながら、気配を完全に殺していた。せっかくエルウィンさんの言いつけを守って、目立たずにひっそりとやり過ごそうとしているのだ。
しかし。
「――おい。そこに隠れてるお前らだろ?」
ビクッ! と、俺とクレムの肩が大きく跳ねた。
フェルト領の生意気な少年が、真っ直ぐにこちらを指差していた。どう見ても大領地の中でもカースト上位にいる、面倒くささ100%のヤツだ。
「今年のガバレリアには、珍しい『光属性』持ちが2人も出たと聞いたぞ。……おい田舎貴族、俺に見せてみろよ」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、少年とその取り巻きたちが俺たちの方へとズカズカ近づいてくる。
(ええええぇぇぇっ!? 嘘だろ!? なんでそんなピンポイントでバレてんの!?)
俺は引き攣った笑いを浮かべながら、心の中で全力で天を仰いだ。
(これ絶対、断っても見せても面倒事になるパターンのやつじゃん!! エルウィンさぁぁん! あなたが立てた『目立たず普通に過ごせば大丈夫』っていうフラグ、リンギアに着く前にさっそく大回収しちゃいそうなんですが!? とほほ……)
俺の平穏な学校生活は、入学する前から早くも暗雲が立ち込めるのだった。




