【第20話】俺が勇者のはずなのに、幼馴染が完全に主人公ムーブをかましていた件
「ジャック兄さん! クレムゥゥゥッ!!」
完全に土砂に埋もれてしまったダンジョンの入り口跡地を前に、俺は半狂乱になって叫んだ。
(ウソだろ!? 俺が先走ったせいで、二人が生き埋めに……!?)
冷や汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、血が滲むのも構わず素手で巨大な瓦礫の山を掘り返そうとした、その時だった。
「……おいおいカール、お前また泣いてるのか? 鼻水出てるぞ」
「カール君! 僕たちこっちだよ!」
「……え?」
背後から聞こえた聞き慣れた声に振り返ると、少し離れた森の茂みをかき分けて、泥だらけになったジャック兄さんとクレムが歩いてくるではないか!
どうやら、俺が飛び出した崩落口とは少し違う、別の脇道からギリギリで外へ逃れられたらしい。
「うおおおおん! よかったぁぁぁ!」
俺は涙と鼻水まみれの顔で、二人に勢いよく飛びついた。
気絶したままスヤスヤと眠っている母さんを含め、全員が無事に生還できたことに、俺たち3人は手を取り合って再会を大いに喜んだ。
「でも、二人とも無事で本当によかった……。中で何があったんだよ?」
落ち着きを取り戻した俺が尋ねると、二人は息をつきながら、分断された後の怒涛の展開を語り始めた。
あの時、ダンジョンの壁がぐにゃりと歪んで俺と分断された後、二人はなんとか俺と合流しようと、入り組んだ脇道を探して奥へ進んだらしい。
「そこで、カールが言っていたあの『光るスライム』を一匹見つけたんだ。だから急いで手提げ袋に捕獲したんだよ」とクレムが言った。
(おおっ、でかした! それさえあれば、エルウィンさんの研究の役に立つかもしれない!)と俺は内心ガッツポーズをしたのだが……二人の試練はそこからだった。
スライムを捕獲した直後、二人は凶悪なオークやゴブリンの集団に運悪く囲まれてしまったのだという。
俺の『レベル30』の威圧感がなくなったことで、モンスターたちが本来の凶暴性を取り戻して一斉に襲いかかってきたのだ。
ジャック兄さんは、兵士になって5年以上。小さな戦いやモンスター退治の修羅場をいくつも経験している紛れもない「強者」だ。大人一人のモンスター相手なら、そう簡単には負けない。
だが、クレムは11歳になりたての、兵士の訓練所に雑用として入ったばかりの未熟な見習いにすぎない。
クレムを背後で必死に庇いながら、四方八方から押し寄せるモンスターの群れと戦うのは、いくら屈強なジャック兄さんでも相当な苦戦を強いられた。その結果、ジャック兄さんは全身傷だらけになり、血を流して膝をつきかけたという。
『くっ……俺だけならともかく、クレムを守りきれない……。このままではマズイ!』
ジャック兄さんが絶望しかけた、その絶体絶命の瞬間だった。
突如、二人の頭の中に、透き通るような声が響いたのだという。
『――勇者の仲間よ。あなた方にも、力を授けます』
その直後、二人の体がパァァーッと眩い光に包み込まれた。
なんと、ジャック兄さんには俺と同じ『無属性』の圧倒的な身体強化魔法が、そしてクレムには、怪我を瞬時に治す『光属性』の回復魔法が宿ったのだ!
「クレムがすぐに俺に光の回復魔法をかけてくれてな。傷が全快した俺は、体から溢れ出す力に任せて、群がっていたモンスターどもを一瞬で薙ぎ払ってやったんだ!」
ジャック兄さんは興奮気味に腕の筋肉を誇らしげにアピールした。
その後、ダンジョンの激しい崩壊が始まったため、二人は俺の安否を気遣いながらも、崩れゆく脇道を必死に走って脱出したのだという。
(ちなみに、手提げ袋に捕まえていたスライムは、ダンジョンの崩壊と同時に袋の中でドロドロに溶けて蒸発してしまったらしい。残念だが、命があっただけでも丸儲けだ)
「……あ、そういえばジャックさん。逃げる途中で拾ったアレ、見せてあげたら?」
クレムの言葉に、ジャック兄さんは「おお、そうだった」と、腰に差していた『それ』を抜き放った。
「脱出の最中に、岩に突き刺さってるのを見つけてな。邪魔な瓦礫をこれで斬り飛ばしたら……なんとまあ、分厚い岩がまるで柔らかいゼリーみたいにスパスパ切れちまったんだよ!」
ジャック兄さんの手の中で、淡く青い光を放つ一振りの美しい剣が輝いていた。
あきらかに、ただの武器ではない。国宝級の、いや、伝説級の魔剣や聖剣の類だ。
「すげえだろ、カール!」と無邪気に笑う22歳のムキムキな幼馴染を見つめながら、俺の10歳の脳みそは冷静に状況を分析していた。
(……えーと、ちょっと待って?)
未熟な少年を庇ってボロボロになるベテラン兵士。
絶体絶命のピンチで『謎の声』に導かれて魔法の力に覚醒。
さらには、岩をゼリーのように斬り裂く『青く光る伝説の剣』を偶然ゲットして生還。
(…………いや、それどう考えてもジャック兄さんが『勇者(主人公)』の展開じゃないか!?)
俺、スライムに「あなたが勇者です」って言われて、よくわからない単語を羅列された挙句に土砂から逃げてきただけなんだけど!? ジャック兄さんのエピソードの方が、圧倒的に劇的でヒロイックでカッコイイぞ!
「……どうしたカール? 剣に見惚れちまったか?」
「いや……なんでもない。二人とも、本当にすごいよ」
俺の「伝説のビッグな男になる」という野心に、身近なところからとんでもない強力なライバルが現れた気分だった。
とはいえ、お互いに助かったのだからこれ以上の喜びはない。俺たちはいろいろと情報を交換し合いながら、まだ目を覚まさないものの無事に息をしている母さんを囲んで、3人で生還の喜びに深く浸るのだった。




