【第19話】勇者認定されて新魔法をゲットした直後、ダンジョン崩壊で大パニックな件
『試練の祠を攻略した勇者よ。あなたには、調律のための魔法が授けられます』
巨大スライムから直接脳内に発せられたその言葉に、俺の脳みそは完全にフリーズし、処理落ちを起こしていた。
(し、しれんのほこら……? ゆうしゃ……? ちょうりつのまほう……?)
ツッコミどころが多すぎて、どこから手をつけていいかわからない。俺が10年間(体感1年)暗闇でスライムを食い続けていたあの過酷なサバイバル洞穴は、『試練の祠』という何やら神聖で立派な名前がついていたらしい。しかも俺、どうやら『勇者』に認定されてしまったようだ。伝説の男になる野心はあったが、こんなゼリーの化け物に唐突に任命されるとは思っていなかった。
『さぁ、2つの世界を救うのです』
「えっ、ちょ、ちょっと待って……! 世界を救うってどういうこと!? 俺、まだ10歳の子供なんだけど!」
俺がパニックになって両手を振り回していると、パァァーッ! と俺の全身が眩い純白の光に包まれた。
途端に、体の中の奥底、魂の根源のような場所からドクンと熱いものが湧き上がり、今まで使っていた『無属性』や『光属性』とは全く違う、何かとてつもなく不思議で強大な力が宿った感覚があった。
それと同時に、俺の頭の中にスッと、本に文字が刻まれるように一つの単語が浮かび上がってきたのだ。
――『テンパメント』。
(テンパメント……? これが、巨大スライムの言っていた『調律の魔法』ってやつか?)
使い方も効果すらも全くわからないが、俺の魂にその魔法の名前が深く刻み込まれたのを感じた。
だが、新しい力を得て感動に浸る暇など、1秒たりとも与えられなかった。
『ジジ……ッ……ジジジジッ……!』
「うわっ、なんだ!?」
突然、女神のように発光していた巨大スライムの輪郭が、ノイズの走る映像のように激しくブレ始め、耳障りで不快な機械音が部屋中に響き渡ったのだ。
『……時間がありません』
先ほどまでの優しげな声とは打って変わり、感情を一切排したような、ひどく機械的で厳しい声音が脳内に直接叩き込まれた。
『この干渉は失敗しました。第3の世界の干渉により時空の歪みが発生し、接続先に大きなズレが生じました』
「だ、だいさんのせかい? じくうのゆがみ!? 何言ってんのか全然わかんないってば!」
『本来であれば、今から300年後のエルティアに繋がるはずでした』
もう何が何やらさっぱりわからない。
3つの世界? 300年後の未来? エルティアってどこの国だ!?
『――銀のヴォルクに会いなさい。残された道は、他にありません』
その言葉を最後に。
巨大スライムの巨体は、まるで熱湯をかけられた氷山のように、ドロドロと一瞬にして溶け落ちてしまったのだ。青白い光は失われ、ただの透明な水たまりへと変わっていく。
「あっ! 母さん!」
スライムの体内に囚われて宙に浮いていた母さんが、拘束から解放されて真っ逆さまに落下してくる。俺は弾かれたように駆け出し、間一髪でその体を受け止めた。
「母さん! しっかりして! 目を開けて!」
肩を揺さぶり声をかけるが、母さんは気を失ったまま目を覚まさない。だが、胸に耳を当てると呼吸はしっかりとしており、温かい体温もある。生きている! 俺はホッと胸を撫で下ろした。
ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ……ッ!!!
安堵したのも束の間、今度は凄まじい地鳴りのような轟音と共に、洞穴全体が激しく揺れ始めた。
天井からパラパラと土砂が落ち、頑丈なはずの石造りの壁に次々と巨大な亀裂が走っていく。
(バカな!? どう考えてもこのダンジョン、スライムが消えたせいで崩壊し始めてるじゃん!!)
「くそっ! 急げ俺!!」
俺は気を失った母さんをしっかりと抱え上げ、出口へ向けて猛ダッシュした。
大人一人の体重だが、レベル30の無属性魔法で身体強化された俺には、羽のように軽く感じられた。
ガラガラと頭上から容赦なく落ちてくる巨大な岩や瓦礫。
俺は母さんを片手でしっかりと抱えたまま、もう片方の右拳に魔力を極限まで集中させ、頭上から落ちてくる岩を次々と空中でぶん殴って粉砕していった。
「おらぁぁっ!! 砕けろ!!」
ウサギを爆散させたあの理不尽なパンチ力が、今ここで最高に役に立っている。
「はぁっ、はぁっ……! 出口だ!」
差し込むわずかな光に向かって飛び出し、俺たちはギリギリのところでダンジョンからの脱出に成功した。
ズドォォォォンッ!!
俺たちが外の森へ転がり出た直後、背後で巨大な陥没音が響き、あの大穴は完全に崩落して大量の土砂に埋もれてしまった。もう入り口の影も形もない。
「はぁ……はぁ……っ、助かった……」
俺は膝から崩れ落ち、母さんをそっと草の上に寝かせた。無事に母さんを救い出せたのだ。
……と、そこで俺は、ある重大な事実に気がついた。
「…………あ」
「あ、あれ……? ジャック兄さんとクレムが……いない!?」
一緒にダンジョンに入り、分断されたはずの二人の姿は、どこにも見当たらなかった。
(まさか、あの崩落に巻き込まれて、土砂の下に……!?)
俺の全身から、滝のような冷や汗がドッと噴き出したのだった。




