【第18話】巨大スライムに復讐されると思ったら、急に謎の使命を託されて困惑した件
「母さん……っ!!」
突き当たりのボス部屋に飛び込んだ俺は、その常軌を逸した光景に息を呑み、足が地面に縫い付けられたように止まった。
部屋の中央。そこには、俺が今まで洞穴で狩ってきた『光るスライム』とは完全にスケールが違う、見上げるようなバケモノが鎮座していたのだ。
今まで俺が主食にしていたのは、個体差はあれどせいぜい人間の頭くらいのサイズだった。しかし、目の前にいるそいつは……ゆうに10メートルを超える、まるで青白く発光する小山のような超巨大スライムだった。
ドクン、ドクンと脈打つ半透明のゼリー状の巨体。そして、その不気味な体内の中心部に、愛する母さんがすっぽりと取り込まれ、宙に浮くようにして意識を失い眠っていたのだ。
「っ……! お前、母さんを離せ!!」
叫び声を上げたものの、俺の足はガクガクと小刻みに震え、その場から一歩も前に進めなくなってしまった。
(……ま、まさか)
俺の頭の中で、最悪の推測が猛スピードで組み立てられていく。
こいつ、もしかして……俺が10年間(体感は1年だけど)、薄暗い洞穴の中で毎日毎日、仲間のスライムたちを容赦なく石で叩き潰して食い続けたことに対する『復讐』をしに来たのか!?
俺がスライムを食いすぎて中級魔法使い並みのデタラメな強さを持っていると察知して、まともに戦えば勝ち目がないから、わざわざ俺の母さんを攫って『絶対的な人質』にとるというえげつない作戦に出たのかもしれない。
(どんだけ知能高いんだよ……! 殺意高すぎだろスライムのくせに!)
母さんを助けたい。今すぐにでも駆け寄って、あの巨大なゼリーの塊から引きずり出したい。しかし、こちらに底知れぬ強い恨み(※カールの完全な被害妄想です)を持っているであろう巨大スライムの圧倒的なプレッシャーを前に、実戦経験ゼロの10歳の俺の体は完全にすくんでしまった。
……いやいやいや! 待て待て!
ここで踏ん張らなくてどうする、俺!
「将来絶対にでっかいことを成し遂げて、歴史に名を残す伝説の男になる」のが俺の夢じゃないか。こんなゼリーのお化け一匹にビビってて、何が伝説だ! 何が親孝行だ!
「うおおおおおっ! やってやる!! 俺のウサギ爆散パンチを食らええええ!!」
俺は両頬をバチン! と両手で叩いて自分を強引に鼓舞し、無属性の魔力を全身に巡らせて身体強化を発動させた。そして、巨大スライムの懐へと決死の覚悟で挑みかかろうと、力強く地面を蹴った。
――その時だった。
『……あなたを、待っていました』
「……ふえ?」
俺は思わず、マヌケな声ともつかない音を漏らして急ブレーキをかけた。ズザーッと靴底が石の床を滑り、前のめりに転びそうになる。
突然、俺の脳内に直接語りかけてくるような、ひどく優しげで、女神のように透き通る声が響いたのだ。
さあこれから命がけのボス戦だ! 復讐の化身と戦うぞ! と思い切り殺気立っていた俺は、そのあまりにも穏やかで慈愛に満ちた声のトーンに完全に毒気を抜かれ、大混乱に陥ってしまった。
(えっ!? あいつら喋れたのかよ!? ていうか、スライムのどこに口があるんだよ!? 腹話術か!? それともテレパシー的なやつ!?)
極限状態の緊張がプツンと切れ、俺の脳内にはどうでもよいツッコミばかりが次々と湧いてくる。
そんな俺の激しい戸惑いなどお構いなしに、巨大スライムは再び優しげな声で、俺の脳内へ直接語りかけてきた。
『あなたは、“調律者”に選ばれました』
「……は?」
『ガンズ・テラと、セーズ・テラ……2つの世界を救うのです』
「…………はあ?」
ちょうりつしゃ? がんず・てら? せーず・てら?
俺はぽかんと口を開けたまま、完全に思考が停止した。
怒涛の展開の中で、復讐されると思っていたら、全く意味のわからないファンタジー全開の謎単語をいきなりぶつけられ……俺の10歳の脳みそは完全にキャパオーバーを起こし、その場にピシッと石像のように固まってしまうのだった。




