【第13話】実家に帰ったらダンジョンが消滅してて、領主様をガチギレさせる5秒前な件
約1ヶ月ぶり、2度目の帰還。
俺の故郷であり、俺がいない間にすっかり見知らぬ立派な街へと発展してしまった『テルト村』に、俺たち総勢50名の大調査隊は足を踏み入れた。
当然のことながら、辺境ののどかな村に、大貴族である領主様が自ら率いる魔法師団と重装甲の近衛兵がドカドカと押し寄せてきたのだ。村の人たちは「お、お貴族様だぁぁ! 頭を下げろ! 目を合わせるな!」と大いに驚きふためき、土下座の波が広がるちょっとしたパニック状態になっていた。
そんなものものしい騒ぎの中、俺の顔に見覚えのある村の知人や、この前お世話になった「隣のおじさん」が、兵士たちの目を盗んでひっそりと近づいてきた。
「おい、カール……! お前、なんであんな凄いお方たちと一緒に戻ってきたんだ!? しかも、なんでお貴族様の馬車から降りてきたんだよ!」
「えっと、まあ、色々と伝説の第一歩というか……国のえらい人にちょっと才能を見込まれてさ……あはは」
スライムの国家機密は絶対に言えないため、俺が引き攣った顔で適当に誤魔化していると、おじさんがふと思い出したように聞いてきた。
「そういえばお前、隣村に行ったはずだが……お袋さんとは無事に会えたのかい?」
「…………あっ」
俺の背筋に、氷を当てられたような冷たい汗がツーッと流れた。
エルウィンさんはガバレリアで、確かにこう言っていた。「母親には手紙を出し、領主様の街まで来てもらうように手配する」と。
そして今、俺はガバレリアから10日かけて、このテルト村にいる。
(あ、これ……お母さん、俺がガバレリアにいるっていう手紙を読んで、俺に会うためにウキウキでガバレリアに向かっちゃったかも……!? しかも入れ違いで!!)
俺は、自分に会うために長い旅路に出たであろう母さんを思い、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。(ごめん母さん! 俺、今真逆にいるよ!)
◇ ◇ ◇
そして翌日。俺たちは本格的な調査のため、俺が10年前に落ちたという「禁足地の北の森」へと向かった。
領主様も馬から降り、エルウィンさんたち魔法師が周囲を警戒する中、俺は「道案内」として自信満々に先頭を歩いた。
「この辺りです! この不自然に曲がった巨木の奥の草むらを抜けた先に、大人が10人は入れるくらいのデカい穴がポッカリ開いてて……!」
俺は「さぁ、ご覧あれ!」とばかりに、背丈ほどある草むらを勢いよくかき分けた。
「……あれ?」
そこにあったのは、見慣れた普通の木々と、平らな土の地面だけだった。
ポッカリと口を開けていたはずの巨大な洞窟はおろか、俺が脱出する時に使ったダンジョンへ繋がる横穴の出口すら、影も形もない。落ち葉がふかふかと積もっているだけで、穴が開いていた痕跡すら1ミリも存在しなかったのだ。
森に詳しい村のベテラン猟師も、領主様に呼ばれて首を傾げていた。
「いや、お貴族様。俺も何十年とこの森に入って隅々まで知ってますが、こんな場所に洞穴やダンジョンなんて昔から一つもねえですよ? カールの坊主の勘違いじゃねえですかね」
その後、数日間にわたって部隊を散開させ、森中をくまなく探しまわってみたが、ダンジョンの入り口は一切見つからなかった。
(ヤ、ヤバい……!! これマジでヤバい!!)
俺の全身から再び滝のような冷や汗が噴き出した。
「スライムで魔法使いが無限に量産できる」という世界を揺るがす情報をエサに、大貴族である領主様をはるばる10日もかけて辺境まで連れ出しておいて、「テヘペロ、やっぱりありませんでした! 勘違いでした!」で済むはずがない。
(『大貴族に大嘘をついた大罪人』として、ここで首を刎ねられるのでは……!? いや、それどころか拷問されるかも!?)
俺は領主様の怒りの視線を想像して、ガチガチと歯を鳴らして怯えた。だが――幸いにも、厳しく罰せられるようなことにはならなかった。
「……領主様。カールは決して嘘をついてはおりません」
地面に這いつくばり、魔道具を使って土の成分を細かく調べていたエルウィンさんが、スッと立ち上がって言った。
「どうやらこの平らな地面の下には、極めて『強力な魔力の残滓』が残っています。ただの森にはあり得ない濃度の魔力です。何らかの強大な力が働き……一時的にこの場所にダンジョンを出現させ、そして、用が済んだのか幻のように姿を消した……そう考えるのが自然でしょう」
自分が落ちて、そこで10年さまよったのは紛れもない事実だ。だが、ダンジョンそのものが幻のように消えてしまったとなれば、一体あの広大な地下空間とスライムたちは何だったんだ?
(正直、全然釈然としないぞ……)
俺の体に宿った規格外な魔法の力、地上の10年という時間のズレ、そして消えた巨大な洞穴。謎は解けるどころか、さらに深まるばかりだった。




