【第11話】領主様にビビり散らした結果、なぜか実家の村へUターンすることになった件
案内された領主邸の奥深く。重厚な扉の向こうは、床にはフカフカの赤い絨毯が敷かれ、壁には金ピカの装飾品が飾られた、目が眩むほど豪華な部屋だった。
今、俺の目の前の立派なソファにゆったりと座っているのは、この広大なガバレリア領を治める『領主様(エドヴィン・フォン・ガバレリア侯爵)』だ。
立派な口髭を蓄えた、恰幅の良い初老の男性。その全身から滲み出る「圧倒的な権力者」のオーラに、俺は息をするのすら忘れそうだった。
昔、村で父さんから「いいかカール、お貴族様には絶対に近づくな。もし会ったら、絶対に這いつくばって頭を上げるなよ。文字通り首が飛ぶぞ」と酸っぱく言われていたのを思い出す。俺は絨毯の上に正座し、ガチガチに硬直していた。
(あれっ!? ちょっと待って!? エルウィンさん、この大貴族様と同格みたいにタメ口交じりで喋ってるじゃん! 魔法使いのトップってそんなに偉いの!? 俺、今までエルウィンさんにめっちゃ生意気な態度取ってたけど……後で不敬罪でまとめて首飛ぶのでは!?)
滝のように嫌な汗をダラダラと流す俺を見て、エドヴィン様はふっと表情を緩め、苦笑した。
「そう畏まらなくてよい。ただの平民の子供に、厳格な貴族の礼儀など求めてはおらん。力を抜いて、そこの椅子に座りなさい」
その寛大な言葉に甘えようとしたが、事情がわかっているエルウィンさんが隣でニヤニヤと意地悪く笑っているのを見て、俺は(くそっ、性格悪い!)と内心で毒づきながら、椅子の端っこにちょこんと腰掛けた。
「さて、エドヴィン。私の方から先日の調査の報告と、このカールの説明をさせてもらおう」
エルウィンさんが、俺の属性やレベル、スライムを食って10年寝ていた異常性などを領主様へ報告し始めた。
(光属性? 無属性? レベル30? 俺も今初めて聞く内容ばっかりでちんぷんかんぷんなんだけど……)と心の中でツッコミつつ、とりあえず神妙な顔をして何度も頷いておいた。
報告を聞き終えたエドヴィン様は、立ち上がってバンッ! と机を叩き、「これは僥倖かもしれんぞ!」と大興奮で身を乗り出した。
「エルウィン! もしその『光るスライム』とやらを持ち帰り、我が領地で養殖できれば……ガバレリアの軍事力は国を凌駕する! すぐにテルト村の近くにあるというその洞穴を探しに行くぞ! 至急、大規模な調査隊の準備を進めてくれ!」
「はっ。すでに出立の手配は進めております」
エルウィンさんが恭しく一礼する。そして当然のように、俺は『正確な場所を知る唯一の道案内』として連れて行かれることになった。
……ん? ちょっと待てよ?
ガバレリアから俺の故郷のテルト村(の隣にあるゾル街)までは、馬車で急いでも10日ほどかかる。
(あれ? もしかして俺、野盗に攫われてから半月もかけて、やっとの思いでこの大都市まで来たのに……結局また元いた村へ、10日かけてUターンすることになったの!? 往復で20日!? 俺の今までの苦労は何だったんだよ!!)
俺は、このあまりにも理不尽な行ったり来たりのおつかいクエスト的運命に、内心全力でツッコミを入れた。
3日後。俺たちは魔法師団の精鋭や護衛の重装兵士など、総勢50名の大所帯でガバレリアを出立した。
道中の揺れる馬車の中、さすがにモヤモヤとストレスが限界に達していた俺は、向かいに座って優雅に本を読んでいるエルウィンさんに、ド直球で聞いてみた。
「あのさ、エルウィンさん。なんでこんな大人数でわざわざ行くんですか? それと、何で俺が魔法を使えることやスライムのことは、他の兵士たちには絶対に秘密なんですか?」
エルウィンさんは本から目を離し、「ふむ」と綺麗な顎を撫でた。
「……そうだな。さすがの君にも、自分がどれだけ危険な状況にいるのか、世界の理を伝えておいてあげようか」




