【第10話】道中でモルモットにされ、到着早々に領主様との面会が決まった件
ゾル街を出発してからの馬車の道中。俺はフカフカの座席で優雅な貴族の旅を満喫……できるはずもなく、向かいの席に座るエルウィンさんに、連日様々な「実験」という名の身体検査をさせられていた。
「なるほど……光と無属性の波長が極めて強く出ている……」
「この反応……レベルはやはり30と言ったところか……。基礎訓練もなしにあり得ない……」
「肉体に不可解な異常性が見られる……。細胞の活動が……」
俺の体に、見たこともない複雑な文様が刻まれた魔道具のようなものをかざしながら、エルウィンさんはブツブツと物騒な独り言を繰り返している。こちらへの分かりやすい説明は一切なし。完全に新種の珍獣を見る目だ。俺は完全に彼の『極上のモルモット』として扱われていた。
(ぐぬぬ……! 未来の伝説の男を捕まえて、なんだその目は! ていうか、無属性ってなんだよ! レベル30って強いのか!? 説明しろー!)
心の中で全力で抗議するが、口に出せば「不敬罪」で首が飛ぶかもしれないので、俺はひたすらおとなしく魔道具の光を浴び続けていた。
そんな窮屈な旅を続けること約1週間。
馬車の窓から外を覗いていた俺は、思わず声を上げた。
「うおおおおっ……! なんだあのバカでかい建物と壁!」
そこは、俺の故郷の村が発展した姿や、この前までいたゾル街すらも遥かに凌駕する、領主様のお膝元である大都市『ガバレリア』だった。
見上げるほど高い白亜の外壁。空を突くような美しい尖塔の数々。行き交う人々の服も、乗っている馬車も、すべてが洗練されていて豪華だ。
田舎者丸出しで窓にへばりついて大声を出している俺を放ったらかし、魔法師団の巨大な施設に到着するなり、エルウィンさんは「すぐに領主へ報告してくる。逃げるんじゃないぞ」と言い残し、さっさと奥の豪奢な扉の向こうへ行ってしまった。
残された俺のお世話(という名の監視)をしてくれたのは、エルウィンさんの直属の弟子だという『ベルモン・ゼクス』さんだった。
銀色の短い髪に、鋭い三白眼。無口で表情一つ変えず、必要最低限しか喋らない。最初は(怖い人だ……!)とビビっていたのだが、すぐに誤解だとわかった。
「……喉が渇いただろう。これを飲め」
ベルモンさんは、わざわざ氷の魔法でキンキンに冷やした甘い果実水をグラスに注いで持ってきてくれたのだ。めちゃくちゃ気を利かせてくれる、めちゃくちゃ良い人だった!
しかも、施設内を案内してもらっている道中、すれ違う年上の部隊長クラスの厳つい兵士たちが、こぞって彼に道を譲り、バシッと敬礼をしていくではないか。
(ベルモンさん……ただの無口な弟子かと思ったら、実はむちゃくちゃ偉くて強い人なのか……?)
さらに魔法師団の施設を歩き回って、俺はふとある違和感に気がついた。ここにいる魔法使いたち、みんなやけに『若い』のだ。
(後日エルウィンさんから知らされることになるのだが、強大な魔力を持つ魔法使いは『実年齢と見た目年齢が合わない(細胞の老化が極端に遅くなる)』らしい。なるほど、俺が洞穴で10年経っても10歳の見た目のままだったのも、光るスライムの膨大な魔力を取り込んでいたせいだったのか……と、後になって深く納得した)
ベルモンさんは他の魔法師たちに、俺の異常な強さやスライムの詳しい事情は完全に伏せて、「エルウィン様からしばらく預かるよう仰せつかった子供だ」とだけ紹介してくれた。余計な詮索を避ける配慮がありがたい。
そして翌日。施設でのんびりできると思っていた俺の元へ、ベルモンさんが信じられない知らせを持ってきた。
「カール。明日の昼、領主様とエルウィン様、そしてお前を交えた『会談』が用意された。粗相のないよう、体を清めておけ」
「……え?」
いくら10歳の世間知らずな俺でも、このガバレリアという巨大な領地と何万もの領民を束ねる大貴族のトップに、得体の知れない子供が到着翌日に直接会えるなんてことが、どれだけ異常事態かはわかる。
(これ、俺の伝説の始まりか……? それとも、国家の秘密を知りすぎたことによる処刑の始まりか……!?)
俺は冷水を浴びせられたようにガタガタと震え上がり、心臓をバクバク鳴らしながら、その運命の面会日を迎えるのだった。




