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スライム食ったら世界を救うことになった  作者: エリト


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【第1話】野心家な10歳児、うっかり穴に落ちてスライム食ってたら10年経ってた件

「俺は将来、絶対にでっかいことを成し遂げる男になるんだ! 歴史に名を残す伝説の冒険者か、誰もがひれ伏すような大金持ちか! とにかく、こんな辺境の村で一生を終えるつもりはないぜ!」


それが、王都から遠く離れた辺境の小さな村『テルト村』に生まれた俺、カール(10歳)の口癖だった。

粗末な木の柵で囲まれただけの、見渡す限り畑と森しかないド田舎。娯楽といえば木登りか川遊びくらいしかないこの村で、俺は常に外の世界への憧れを抱いていた。


10歳にしてはそこそこ賢く、大人たちの手伝いもそつなくこなす俺は、同年代の中ではしっかり者だと自負していた。父さんからも「カールは頭の回転が速いな」と褒められることが多かった。だが同時に、俺の心には溢れんばかりの冒険心と、子供特有の無鉄砲なやんちゃさが同居していたのだ。


ある日の午後。村の大人たちが畑仕事に精を出している隙を突き、俺は村の掟である『北の森への立ち入り禁止』をアッサリと破っていた。

「大人たちは『森には恐ろしい魔物がいる』なんて言って脅すけど、どうせ子供を遠出させないための嘘だろ? 俺のビッグな伝説は、こういう未知の領域に踏み出すことから始まるんだ!」

腰に手作りの短い木の剣を下げ、俺は未知なる大冒険へと一人で意気揚々と足を踏み入れていた。


「なんだこれ……? すげえ……」

鬱蒼と茂る木々をかき分け、道なき道を小一時間ほど進んだ森の奥深く。そこには、村の大人たちから一度も聞いたことがない、ポッカリと口を開けた巨大な洞窟があった。

大人が10人並んで歩けそうなほどの巨大な入り口からは、真夏だというのにヒンヤリとした冷たい風が不気味に吹き出している。ゴクリと生唾を飲み込んだが、俺の足は止まらなかった。


(ここで何かすごいお宝や、誰も知らない古代の秘密でも見つければ……王都の偉い人に認められて、俺のビッグな伝説の第一歩になるぜ……!)

野心と好奇心に胸を限界まで膨らませ、俺は意気揚々と薄暗い洞窟の中へと足を踏み入れた。


――それが、俺の人生を狂わせるすべての間違いだった。


「うわぁぁぁぁっ!?」

暗がりの中、足元の感覚が突然スッと消えた。地面にぽっかりと空いていた巨大な大穴に全く気づかず、俺は真っ逆さまに落ちていったのだ。

「助けっ――!」

叫び声は、耳元で凄まじい轟音を立てる風切り音にかき消された。下を見ても墨汁を流し込んだように真っ暗で、底が全く見えない。数十メートル、いや、数百メートルは落ちただろうか。胃袋が口から飛び出しそうなほどの浮遊感と恐怖が全身を支配する。


(あ、これ俺の伝説、第0巻のプロローグで打ち切りだわ。ごめん父さん、母さん……掟を破った俺がバカだったよ……)

落ちていく暗闇の中で家族の顔が走馬灯のように浮かび、俺の意識は恐怖のあまりフツリと途切れた。


◇ ◇ ◇


「……っ、いてて……。あれ? 俺、生きてる?」

次に目を覚ますと、背中にゴツゴツとした硬い感触があった。のそりと身を起こすと、そこは見渡す限り岩だらけの広大な地下空間だった。天井は遥か高く、どこからか微かに青白い光が差し込んでいる。


全身をペタペタと触ってみるが、不思議なことに骨一つ折れていない。それどころか、かすり傷すら見当たらないのだ。

(数百メートルは落ちたはずなのに、なんで無傷なんだ? まさか地面が巨大なスライムのクッションみたいに俺を優しくキャッチしてくれたとでも言うのか?……いやいや、んなアホな)

理由はさっぱりわからないが、とにかく悪運だけは強かったらしい。「未来の偉人は天運も味方するのだ」と都合よく解釈して立ち上がった。


しかし、最大のモンダイはすぐそこにあった。『食料』と『水』である。

周囲を歩き回って幸いにも澄んだ地下水の水溜まりは見つけたが、食べ物になりそうな草や木の実が何もない。腹の虫が限界を訴え始め、胃液が込み上げてくるような飢餓感に襲われた頃。岩肌にぼんやりと青く光る苔が生えており、その辺りをぽよぽよと這い回る謎のモンスター――『光るスライム』を発見した。


人間の頭ほどの大きさで、半透明の青いゼリーのような体がうごめいている。

「……背に腹は代えられないっ! 伝説の男は、泥水をすすってでも生き延びるもんだ! スライムくらい食ってやる!」

俺は手近な尖った石を両手で握りしめ、のんびり這い回っていたスライムめがけて力いっぱい叩き潰した。グチャッという音と共にスライムは動きを止め、ただの光る液体の塊になった。


俺は震える手でその青白く光る残骸をすくい上げ、意を決して口に運んだ。

「……うっ。……あれ?」

泥のような味がするかと思いきや、予想外の感覚が口に広がった。

「……冷たいゼリーみたいで、ほんのり甘くて……意外といける?」

むしろ、乾き切った喉にひんやりとした水分と甘味が染み渡り、極上のスイーツのようにすら感じられた。


それからの毎日は、ただひたすらに過酷で孤独なサバイバルだった。

光るスライムを見つけては石で叩き潰して食べ、あてもなく出口を探して歩き回り、疲れたら苔の生えた岩の上で寝る。話し相手はおろか、太陽の光すら拝めない生活は、10歳の子供には発狂しそうなほどのストレスだった。


ただ、一つだけおかしなことがあった。

スライムを食べて眠りにつくと、起きるたびにものすごく体がスッキリしており、「まるで1週間くらいぶっ通しで泥のように爆睡したような」謎の爽快感があったのだ。筋肉痛も空腹感も完全にリセットされている。


そんな代わり映えのしない、狂いそうなサバイバル生活を繰り返し、寝た回数をざっくり300回くらい数えた頃(俺の計算では大体1年弱経った頃)。

俺は岩壁のかなり高い位置に、上へと続く不自然な人工的な横穴を発見した。指から血を流しながら必死によじ登り、ついに迷宮ダンジョンらしき石造りの通路へと出たのだ。


「終わった……」

そこには、村の大人たちが昔話で語っていたような、凶悪な顔をして武器を持ったゴブリンや、巨大な牙を剥き出しにしたオークのようなモンスターがうようよと歩き回っていた。

丸腰の俺は、見つかったら一瞬で殺されると絶望し、足の震えが止まらなかった。だが直後、奇妙なことが起きたのだ。


モンスターたちが俺の姿を見るなり、まるで恐ろしい上位の天敵に出会ったかのように「ヒィッ!」と悲鳴を上げ、武器を取り落としてブルブルと震え上がりながら、壁際にへばりついて道をあけていくのだ。


(……え? なにこれ? もしかして俺、長期間お風呂に入ってないから、モンスターも逃げ出すくらい激烈に臭いのか!? そういえば自分の臭いってもう麻痺してわかんないし!)

理由はさっぱりわからないし、あまり名誉なことではない気がするが、道が開けたなら好都合だ。俺は震えるモンスターたちの間を悠々と抜け、ついに太陽の光が差し込む地上へと生還したのだ!


「やった! やっと、やっと帰ってきたぞ!」

目が潰れそうなほど眩しい久しぶりの太陽と、空の青さに感動の涙を流しながら、俺は村へ向けて全力で走り出した。……しかし。


「あれ? 森の様子がだいぶ違うぞ? あんな所に巨大な木なんてあったか……?」

道なき道を苦戦しながらも、なんとか懐かしの『テルト村』があった場所へたどり着いた俺は、絶句して立ち尽くした。

そこは、俺が知っている簡単な木の柵で囲まれたのどかな小さな集落ではなく、立派なレンガ造りの建物が立ち並び、石畳の道が敷かれ、多くの商人や旅人が行き交う『見知らぬ賑やかな街』へと変貌していたのだ。


後から知ったことだが、俺が地下で過ごした期間は、自分の感覚である「1年程度」ではなかったらしい。

スライムを食べて眠るたびに、俺の体は数日から十日近くも深い仮死状態のような眠りに落ちていたのだ。

なんと地上では、俺が消えてから『10年』もの月日が流れていたのだった――。


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