猿方銀二郎と刀の悪魔
パアン、パアンと竹刀を打ち鳴らす音と、男たちの雄叫びが混じって聞こえる昼下がりの道場。
「はあっ!」
「うわぁっ!」
一方が振り下ろした竹刀がもう一方の鼻先をかす
めると、後者が腰を抜かして倒れた。
すかさず前者が、相手の眉間に切先を突きつけると、「ま、参った!」とされた方は降伏した。
「大丈夫か、立てるか?」
「あ、ああ……」
勝者が相手に手を差し伸べ、受ける側もはにかみながら手を取る。
それを見た、道場内の集団の一人が、呟く。
「銀二郎はやっぱり強いなあ」
「だよなあ、あの氷雨と並んで『龍虎』って呼ばれるくらいだからなあ」
「そういえば……そろそろ『あれ』が気にならないか?」
「『秘剣継承』のことか?それは俺もだ」
「誰が継ぐんだろうなぁ、俺はやっぱり銀二郎だと思う!」
「俺もだ」
「俺も俺も!」
「強い上に性格もいいからなー」
「それでいて努力家ってのも外せねえ魅力だもんなあ!」
「あれで藩内の中級の家柄なのが勿体無いよ。神様って意地悪
「何だお前たち、そんなにあの軟弱者がいいのか」
突然の声にビクッと体を震わせて振り向くと、目つきの鋭い青年が集団の後ろに立っていた。
『ひ……氷雨⁉︎』
「言っておくが、俺はあいつほど甘くはない。秘剣を継ぐのは俺だ。お前たちや銀二郎などに、俺は負けん」
そう言うと氷雨は、壁に掛けられた竹刀を手に取り、声高らかに叫んだ。
「この中に、俺と戦う意志あるものはいるか?いるなら何人でもいい、一遍にかかってこい!」
その言葉を聞いた道場の生徒たちは、ひそひそと周りの者と話し合った。
「どうする?あいつ、高慢だけど強いからなあ……」
「でも、一遍にって言ってたぞ……流石のあいつもこの数相手に勝てるか?」
「てことは、勝てるかもしれないって⁉︎」
「やってみようぜ、日頃のお返しに!」
「よおし、やるか!」
「銀二郎、下がってな!お前を巻き込みたくはないんだ!」
「待て!寄ってたかって一人を襲うなんて……」
「止めるな!これしか勝つ方法はない!」
生徒たちの決意は速く、銀二郎の静止も聞かずに、皆我先に竹刀を手にすると、一斉に『やあああああ!』と突進した。
しかし氷雨は、静かに竹刀を構えると、円を描くように横に薙ぎ払った。
その風圧で、銀二郎以外の全員が吹っ飛んだ。
『うわあああああ!』
皆、壁に叩きつけられたり、床に体を打ちつけたりして、死屍累々の有様だ。
「ふん、こんなものか」
「氷雨!」
急いで駆け寄る銀二郎。
「氷雨、大丈夫か?どこか怪我を……」
「触るな」
氷雨は腕を大きく振って銀二郎を追い払う。
「お前に心配される覚えはない」
言うや否や、氷雨は道場を後にした。
「くそお……何であいつ強いんだ……あんなに嫌な奴なのに……」
「おまけに上級藩士の息子ときた……下手に逆らったら打首ものだぞ……」
生徒たちが悔しそうに呟く。
「みんな大丈夫か?手当てが必要なものは?」
「あ、ああ……ありがとう。お前だけだよ、あいつくらい強くて、おまけに優しいのは」
銀二郎が生徒の一人に肩を貸すと、彼はありがたそうに答えた。
そして日が沈み、皆、それぞれの家に帰った。無論、銀二郎と氷雨もだ。
「おかわり!」
「はいただいま」
「銀二郎はよく食べるなぁ」
「そういうお前ももっと食べて良いのだぞ、金太郎」
「そうですよ金太郎様、私も作ったのですから」
家族で楽しい食卓を囲む銀二郎は現在、両親と兄夫婦の5人暮らしだ。名前の通り次男のため、養子先を探しているが、家族仲はとてもいい。
一方、氷雨の親は、氷雨を養子に出さずに分家させることを考えているほどの家柄である。
そして、次の日。
ついに『秘剣継承』が決まる日になった。
生徒が皆、道場に集まり、正座で待機していた。
皆の前方には、座布団が一枚敷かれている。
そのとき、道場の扉がぱあん!と大きな音を立てて開けられた。並大抵の人物なら悲鳴を上げるほどだが、生徒たちは皆、眉一つ動かさない。
扉から入ってきたのは、白猫を抱いた1人の老人だった。
老人は前方の座布団にあぐらをかいて咳払いを一つ。
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。養子を決め、その者にこの道場と、この儂、剣持抜刀斎』の代まで受け継がれてきた『秘剣』を継がせるためじゃ。その者とは、猿方銀二郎、おぬしじゃ」
「ありがとうございます!」
呼ばれた銀二郎は明るい表情で元気よく答えた。周りも『一人を除いて』祝福した。
「おめでとう!」
「よかったな!」
「俺も信じていたぞ!」
そう、『一人を除いて』。
「お待ちください、師範!」
「どうした、犬井氷雨」
誰もが驚きの顔で、立ち上がり声を上げた氷雨に一斉に向き直る。
「何故自分ではないのです!自分は、入門以来努力して強くなりました。あの銀二郎にも勝ったことがあります。おまけに自分は上級藩士の出。それが何故剣が上手いだけで考えの甘い中級の家柄の銀二郎に……」
「それじゃ、痴れ者め!」
師範が雷を落とす。
「『それ』とは……?」
「おぬしの心には驕りがある。それ故に他を傷つけ突き放し、さらにおぬしはそれを『強さ』と勘違いしておる。言うなれば『抜き身の刀』じゃ。その上、自分の力だけで強くなった気になっておる。そんな愚か者には秘剣も道場も任せられん」
「なっ、そんな……」
がっくりと膝をつき、うなだれる氷雨。それを皆呆然と見ていた。
「わしからは以上じゃ。それじゃ、儂は隠居でもするかの」
師範は去っていった。
次の日、銀二郎がいつも通り修行に打ち込んでいると、門下生の1人が血相を変えて道場に飛び込んできた。
「銀二郎!」
その手に、手紙を持ちながら。
「どうした、田中?」
「それが俺にもわからないんだ。今日、ここへ行く途中で氷雨にあったら、突然これを渡されて……」
銀二郎は田中から手紙を貰うと、ばっと広げた。
『銀二郎
俺はさらなる剣の修行のため旅に出る。そしてお前を超えてみせる。次に会う時は、お前が俺に負ける時だ。
氷雨』
「氷雨……」
銀二郎は、そのまま立ち尽くしていた。
それから、2年後。
あれから、銀二郎は師範の下で秘剣に磨きをかけ、以前にも増して強くなっていった。
もはや、今の銀二郎と互角に渡り合えるものは、全力を出した師範の他にいなくなった。
さらに、師範は歳を召されているため、常時全力を出せるわけではない。
そのため、実質銀二郎は無敵だ。
ある日、いつものように銀二郎が自主練に打ち込んでいると、門下生の1人がどたどたと駆け込んできた。
「銀二郎!」
「どうした?」
真剣な表情から柔和な笑みに変わった銀二郎だが、門下生の顔は青ざめている。
「た……田中が……」
「田中がどうかしたのか?」
「こ……殺された……」
その言葉を聞いた瞬間、銀二郎の顔が自分でもわかるほど変わった。
現場に着くと、銀二郎は田中の遺体を見つけた。
「田中!」
銀二郎が駆け寄る。
しかし、当然田中が答えるはずもない。
田中の亡骸は、右腕が切り落とされ、腹部にいくつもの刺し傷があった。
「こりゃひでえや……」
「なんてむごい……」
見物人も顔をしかめる
しかし、不可解な点もあった。というのも、刺し傷の1つに透明で小さな氷の結晶が付いていた。
(なんだ、これは……この時期に氷?)
「すまないが、彼はいつこうなっていた?」
「最初に見つけたのは、そこのお侍様だよ。そいつが来た時にはもう、こうなってたみたいだよ」
「しかし、なぜ傷口が凍っているんだ?」
「さあわからねえ。大方、物の怪の仕業じゃないかい」
「銀二郎!早くしないと、もう練習始まってるぞ!」
「あっ、いけない!それでは俺たちはこれで!」
2人は現場を後にした。
その日の夜、1人の門下生が自宅へ戻る途中、見覚えのある人影を見つけた。
(あれは……誰だっけ?)
「見つけたぞ」
人影がこちらにゆっくり近づくと、月明かりに顔が映し出された。
「お前は……氷雨⁉︎」
「久しいな、2年ぶりか?」
そう言いながら、氷雨は刀を抜いた。
途端に、辺りが冷え込んできた。春頃にも関わらず、門下生の吐く息が白くなる。
刀を抜かれた恐怖なのか、寒気からか。門下生はがたがたと震え出した。
いや、どちらかと言えば後者だろう。その証拠に氷雨が歩を進める度に地面が凍っていく。
「お、おい。なんの真似だよ!」
門下生も狼狽えながら刀を抜く。だが震えと手のかじかみで今にも刀を落としてしまいそうだ。
と、次の瞬間、右腕が落ちた。よく見ると、氷雨は刀を振り下ろしていた。
「えっ」
気づいたときには、右腕の肘から下は地面に転がっていた。
遅れて激しい痛みがやってくるが、血は1滴も流れなかった。
それもそのはず、斬られた面から凍っていたのだから。
しかし氷雨は手を緩めず、今度は刃を門下生の腹部に突き立てた。
血を吐く門下生。だが悪夢はまだ続いた。体の内側から凍らされていくのが分かった。そして最期は胸部から氷柱が突き出して終わった。
翌朝、その遺体が通行人によって見つかった。辺りはいっぺんに怖いもの見たさの人々で溢れかえった。
「また辻斬りだとよ」
「怖いわねえ……」
「それも同じやつの犯行らしいぞ、傷口が凍ってたからな」
そして、その噂は銀二郎の耳にも届いた。
銀二郎は居ても立っても居られなくなり、自分の刀を手に取り、道場を出ようとすると、師範に鉢合わせた。
「どこへ行く」
「辻斬りを見つけ、止めに行きます」
そう言って通り過ぎようとした銀二郎だが、師範に襟を掴まれ止められた。
「やめておけ」
「何故です!これ以上仲間を殺される様を見過ごせというのですか⁉︎」
「そうではない。だが、今の段階ではまだ、今の奴には勝てないと言っているのじゃ。お前は全力の儂と互角に渡り合えるが、それは『現在の』儂だからじゃ。おぬしには少なくとも、今の儂を倒し、出来れば全盛期の儂を超えることを目標にしてもらう。今日からこの道場の離れにある儂の家で生活してもらうぞ」
「ええっ⁉︎そんな、急にですか⁉︎」
「おぬしは儂の養子で、娘のお澄の許嫁じゃから、こうなるのは当然じゃ。幸いお澄もおぬしを好いておるから、仲は気にせんでよい。それじゃ、儂はタマの世話でもするかの」
師範は道場を後にした。
そしてその日から、銀二郎の新しい生活が始まった。最初こそ、緊張していてぎこちなかった銀二郎だが、世話焼きで心優しいお澄と、厳しくも真摯に向き合ってくれる師範の支えもあり、充実した毎日だった。
しかし、だからと言って辻斬りのことを忘れたことは一度もなかった。仲間の仇を討つため、今まで以上に稽古に打ち込んだ。
そしてある日、銀二郎は師範に呼び出された。
「なんでしょう、師範」
「父上で構わんぞ」
「父上、要件は?」
「おぬし、氷雨を討てるか?」
「えっ⁉︎」
驚きを隠せない銀二郎。
「何故、その質問を?」
「儂が思うに、あの辻斬りの正体は、氷雨だと思うのじゃ」
「どうして、そう思うのですか?」
「根拠はない。だが、そんな気がしてならない。だから、この質問をしたのじゃ」
「……俺はそうは思えません」
「何故じゃ」
「氷雨は、確かにとっつきにくいところがありますが、理由もなく他人を斬る男ではありません。俺にはわかります」
「じゃが、もし氷雨が辻斬りだったとき、おぬしは刀を抜いて奴を切らなくてはならない。辻斬りを討つには、覚悟を決めるのじゃ」
この話の後、銀二郎はより一層修行に打ち込んだが、師範が言っていた「氷雨が辻斬り」という台詞が頭にこびりついて離れなかった。
そんなある日、今度は師範に庭に呼び出された銀二郎。そして何故か、師範の傍らにはお澄がいた。
「師範、それにお澄……今日は何でしょう?」
と、師範が銀二郎の刀を本人に投げ与えた。
そして、自らも刀を抜き、突然斬りかかってきた。
驚きながらも刀を抜いて攻撃を防ぐ銀二郎。
しかし師範は一切手を緩めない。それどころか、どんどん勢いが増している気がする。
「どうした銀二郎、そのままではお前がやられるぞ!」
「師範!これは一体何の真似ですか⁉︎」
だが師範は何も言わない。そして峰で銀二郎の足を打ち、体制を崩す。
倒れた銀二郎。だが師範はくるりと背を向ける。
それから真っ直ぐお澄に向かって歩みを進める。そして、お澄の前に立つと、刀を振り上げた。
「お澄!」
咄嗟に駆け出し、お澄と師範の間に割って入る銀二郎。そして自らの刀で、師範の一太刀を受け止める寸前で、師範は刀を収めた。
「合格じゃ、銀二郎」
師範がにかっと笑った。
「へ……合格?」
状況が飲めず困惑する銀二郎。
「父上は銀二郎様を試したのです」
さらっと解説するお澄。
「試した……?」
「はい。これも全て、銀二郎様の『覚悟』を見るためのものでした」
「うむ。大切なものを守るため、師にも立ち向かうおぬしの『覚悟』を見て、確信した。辻斬りを討つことを許可する」
「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」
「うむ、健闘を祈る」
そして次の日、道場の門前に立っていると、向こうから侍がやってきた。それは、銀二郎には見覚えのある人物だった。
「氷雨……」
「……銀二郎」
「久しぶりだな、3年ぶりか?今までどこに行ってたんだ?」
「俺は江戸から西へ西へと旅に出て、肥前から海を渡り、阿蘭陀に行った。そこで『ふるーれてぃ』という名の者と出会い、そいつから力を得た。全ては……お前を倒し、超えるため!」
言うや否や刀を抜いた氷雨。それと同時に、辺りが冷気に包まれる。
しかし、銀二郎は既に覚悟を決めていたため、刀も抜かず、じっと氷雨を見据えている。
先に斬り掛かってきたのは氷雨だ。振り下ろされた刀を銀二郎は難なく避ける。
さらに、無茶苦茶に振り回される氷雨の刀を、銀二郎は汗一つ垂らさずに全て躱わす。
「この野郎!男らしく闘え!」
疲れが見え始めた氷雨が、息を切らしながら怒鳴る。
「なら聞く、どうしてうちの門下生を殺した」
途端に、攻撃がぴたりと止んだ。
「くくくく……ふふふふ……あっはっはっは!銀二郎、お前はいいよなぁ。道場も、師範のお墨付きも、お澄の愛も、仲間の信頼も、そして秘剣も!一切合切手に入れてさぞかしいい気分だろうなぁ!」
「質問に答えろ!」
「それに引き換え俺は何も得られなかった……全部お前に奪われた!だから、目障りな奴らを1人残さず皆殺しにする事にした!今日はお前だ、銀二郎おおおおお!」
叫びながら刀を大きく振りかぶって突進してきた氷雨に、銀二郎も刀の柄に手をかけ、前傾姿勢で懐に飛び込み、居合斬りを放った。
「ぐはあっ!」
銀二郎の斬撃は確かに氷雨の腹部を斬り裂き、その証拠に氷雨は血を吐いた。
どさりと倒れる氷雨。それを見て、銀二郎は氷雨に、殺された弟子たちと同じ苦しみを与えようとしたが、止めた。
苦しんでいる氷雨を目の当たりにして、氷雨との思い出が頭に流れ込んできたからだ。
(せめて、最後は一思いに……)
銀二郎は自分の刀を、氷雨の心の臓目掛けて突き刺した。
これでよし。そう思って刃の血を払って刀を鞘に仕舞おうとした銀二郎に、嫌な予感が走った。
振り返ると、死んだはずの氷雨が、傷はそのままに起き上がっているではないか。
「な……どういうことだ……!」
「くくく……ふふふ……ははははは!遂に!遂に俺様がこの身体の主導権を握ったぞ!」
「お前、氷雨じゃないな!」
「如何にも。俺様はフルーレティ、こいつと契約した悪魔だ。いやはやこの身体の元の持ち主は愚かだったよ!俺様が人間に化けてこいつの前で力を使って見せ、「俺と契約すればこの力が手に入るぞ」と言っただけで二つ返事で受け入れおった!後で魂を奪われるとも知らずに!」
「お前が氷雨を唆したのか……」
「唆したとは人聞きが悪い。俺様はあくまで力を見せただけで、勝手に食いついたのはこいつだ」
「言うな!」
刀を構え直し、距離を取りながら叫ぶ銀二郎。
「それじゃあ、俺様も『本来の姿』になろうか」
言うや否や、大きな氷塊が氷雨の体に沢山張り付いた。
それらは徐々に人の形を成し、30秒もしない内に氷の巨人が出来上がった。
『ふはははは!この姿を見たからには貴様も生かしてはおけん!この馬鹿共々地獄に送ってやる!』
そう言ってフルーレティは、右腕を銀二郎に向かって振り下ろした。
咄嗟に、銀二郎は刀を頭上に構え、それを受け止めた。ガキィィィン!と激しい音が走り、空気が震えた。
「ぐっ……!」
耐えながらも、重さに押し潰されそうな銀二郎の脳裏に、師範の言葉が蘇る。
『銀二郎、おぬしには剣の才がある。じゃが、その才に溺れてはならん。大事なのは心じゃ。邪念のない、揺るぎない心こそ、儂が剣を通して教えたい唯一のものじゃ」
(師範……俺、やります)
「はあああああっ!」
銀二郎は渾身の力で巨大な腕を払いのける。
『ぬっ⁉︎』
驚きを隠せないフルーレティ。
「今度はこっちの番だ!『秘剣・木』!」
銀二郎は間合いを詰め、真一文字に両脚を切った。
『ぬうっ⁉︎』
バランスを崩すフルーレティ。しかし今度は手を頭上に掲げ、それに呼応するように銀二郎の上には黒雲が重なる。
『雹よ、降れ!』
その声と同時に、無数の雹が銀二郎目掛けて降ってきた。
しかし銀二郎は焦りもしない。
(『秘剣・火』)
それどころか、心の中で唱えると、自分に当たるはずの雹を全て斬り刻んだ。
『馬鹿な!人間如きにこんな真似が……』
狼狽えるフルーレティ。そしてその隙を逃す銀二郎ではない。
『秘剣・水』
銀二郎は氷の巨人を縦に割った。
悪魔の断末魔が辺りに響き渡った。
翌朝、近所の人々が道場の門前で幹竹割りになった氷雨の遺体を囲んでいた。
「おいおい、また辻斬りかい?」
「しかし辻斬りが幹竹割りなんて真似するかね?」
「どっちにしろ、恐ろしいったらありゃしないよ。これじゃおちおち子供を外で遊ばせもできないよ」
その日の晩、銀二郎はお澄とこんな話をした。
「『秘剣』を封印する⁉︎」
「ああ」
「どうして……」
「俺は友を殺した」
「それは……銀二郎様は正しいことをして……」
「刀は、どれだけ上達しようと、所詮人を斬る道具でしかない。俺は友を救えなかった。今回の出来事でそれが嫌と言うほど分かった」
以来、銀二郎は真剣での勝負を拒むようになり、止むを得ずとしても、峰打ちで済ますことを生涯貫いたという。
銀二郎:先生、そろそろ長編を書いたらどうだ?
太:書き方が分からないよ。
銀二郎:まだまだひよっこだなぁ。
太:うるさいよ!
PS.誰か長編を書くコツを教えて下さいm(__)m




