第12話 石橋を渡って恋が咲く
イベントが終わって、片付けをしながら、田村が言った。
「小林、お前の告白、伝説になるぞ」
「やめてくれ……」
「いや、マジで。SNSでもう拡散されてる」と佐藤がスマホを見せてきた。
画面には、僕の告白シーンの動画が再生回数を伸ばしていた。
「恥ずかしすぎる……」
「でも、成功したんだからいいだろ」と斎藤が笑う。
「そうだな」
僕は、少し離れたところで友達と話している長谷川さんを見た。
彼女は、こちらに気づいて、手を振った。
僕も、手を振り返した。
「よかったな、小林」と吉田が肩を叩いた。
「ああ。お前らのおかげだ」
「俺たちは何もしてない。お前が自分で渡ったんだ」
長谷川さんが歩いてきて、僕の隣に並んだ。
「帰ろうか」
「うん」
僕たちは並んで歩き出した。
後ろから、田村たちの声が聞こえた。
「お疲れ様!」
「また明日な!」
「幸せにしろよ!」
僕は振り返って、手を振った。
彼らも、手を振り返した。
長谷川さんが、僕の手を握った。
「小林くん」
「うん?」
「さっきの告白、私が傷ついたって言ってたけど」
「……ああ」
「傷つかなかったよ」
彼女は、僕を見上げた。
「だって、あれは小林くんを動かすための嘘だったから。小林くんが動いてくれた時点で、成功だったから」
「でも……」
「ううん。むしろ嬉しかった。あんなに焦ってくれて、ちゃんと反応してくれて」
長谷川さんは少し笑った。
「私も、石橋叩いてたのかもしれない。あなたが動くまで、待ってた。自分からは言えなくて」
「お互い、臆病だったんだね」
「うん」と彼女が頷いた。「でも、もう大丈夫だよね」
「……うん」
僕たちは、学園祭で賑わうキャンパスを歩いた。屋台の声、音楽、笑い声——すべてが祝福のように聞こえた。
「ねえ、小林くん」
「何?」
「橋なんていらないって言ってたけど、本当に渡りきれる?」
長谷川さんが、少しだけいたずらっぽく笑った。
「渡りきる。絶対に」
「流れが速くても?」
「うん」
「深くても?」
「うん」
「じゃあ、一緒に渡ろう」
長谷川さんが、僕の手を握り直した。
「一緒に?」
「うん。一人で渡るより、二人の方が安全だよ」
彼女は真っ直ぐ僕を見た。
「私も、小林くんと一緒なら、どこまでも行ける気がする」
夕日が沈みかけていた。空が、オレンジに染まっている。初めて会った日と、同じ色だった。
「綺麗だね」と長谷川さんが言った。
「うん。今度海に行こっか」
「海?」
「川渡ったし、川の先の海も見てみたくなった」
「なにそれ」
長谷川さんは小さく幸せそうに笑ってくれた。
「海見に行こ」
「うん。この夕日よりももっと綺麗だと思うよ」
「今日の夕日を超える夕日なんてあるかな」
長谷川さんは遠い目をしながら、呟いた。
「きっとあるよ。僕たちは今日から歩き出したんだから」
僕は、彼女の手を握り返した。
「長谷川さん」
「何?」
「ありがとう。動かしてくれて」
「ううん」と彼女は首を振った。「小林くんが自分で動いたんだよ。私は、ちょっと背中を押しただけ」
「でも、その背中押しがなかったら、僕はまだ橋を叩いてたと思う」
長谷川さんは、少し考えてから言った。
「じゃあ、これからは私が叩かせないようにする」
「え?」
「小林くんが石橋叩き始めたら、止める。手を取って一緒に渡るから」
彼女は笑った。その笑顔が、夕日に照らされて、眩しかった。
「それ、頼りにしていい?」
「うん。任せて。あ、でも、最初から頼るのはなしね」
長谷川さんは、いたずらっぽく笑った。
僕たちは並んで歩き続けた。もう、石橋は叩かない。もう、橋の手前で立ち止まらない。
二人で、一緒に、渡っていく。




