おまけ
幼い頃のファニーとティーブの出会いのエピソードになります。
「初めまして。よろしくお願いします」
「うん。よろしくね!」
みすぼらしい服を着て、帽子を深々と被っている男の子。久しぶりに父の部屋に呼ばれたファニーに、従者として紹介された。
(どういう子なんだろう?)
姿勢を正したままの男の子は、表情を全く変えない。少し話した後、父に来客があり、ファニーは従者と一緒に部屋を出る。
「ねぇ。お名前は?」
「はっ。ティーブと申します」
ファニーより少し背の高いティーブは、後ろをピッタリと歩いてきた。立ち止まれば立ち止まり、少し急げば早足になる。
(どうすればいいんだろう?)
父からはいないものとして扱って問題ないと言われていたが、ファニーはその手を握って城の端っこへと走り出した。
「一緒にあそぼ!」
誰にも知られていない抜け道を通り、城下町を駆け抜け、近くの森の中を進んでいく。その先にあるのは、子供がちょうど入れる穴が開いている大きな木の切り株。
「ちょっと待っててね。よいしょっと」
城の中で着ていなければならない重い服を脱ぎ捨てると、中には動きやすい服を着こんでいた。穴から動物の皮でできた防具を取り出して装着する。
「じゃ~ん。似合う?」
「はい。お似合いです」
「本当!?」
軽い足取りで森の深くまで入ろうとしたファニーは、ティーブの服を改めてよく見た。ただの布切れに近く、街の住人の方がよほど仕立ての良いものを着ていた。
「その服は、お父さんにもらったの?」
「はい」
「ふ~ん。じゃぁ後で私が買ってあげる」
「はい」
左右に揺れ動きながらティーブの表情を伺った。微動だにしない姿に、ファニーは頬を膨らませる。
(なんかつまんない)
それからなにを言っても、はいという返事しかしない。少し無茶なことをお願いしても、反対もせずに本当にやり始めてしまったので慌てて止めることになった。
「ねぇ。ティーブが遊びたいことを教えてよ」
「はい。私はファニー様の身の安全を守りたいです」
「ん~。そうじゃなくって~」
地面を何度も踏みつけながら、ファニーはよく遊んでいる手製のパチンコを取り出し、近くに吊るしてあった的に球を当てる。
「どう?面白そう」
「はい」
「本当にそう思ってる?」
「はい」
「絶対ウソだ~」
パチンコを元に戻し、ファニーは詰め寄った。腕組みしながらティーブのことをジッと見つめるが、特に反応はない。
「それでいいの?」
「と、言いますと」
「やりたいこととかないの?」
「私はファニー様に遣えるように申しつかっております」
切り株に腰を降ろしながら、ファニーはティーブのことを正面から見据える。帽子を目深に被った表情はよく見えない。
「その帽子もお父さんにもらったの?」
「はい」
ティーブは帽子を脱いでファニーに手渡す。黄緑色の髪の毛に混じって現れたのは、2本の角。
「あれ?」
「いかがしましたか?」
「それって本物?」
「はい」
角を何度かたたき、頭から生えていることを示すティーブ。ファニーは立ち上がり、その角を静かに触る。
「本当だ。どうしたの?これ」
「えっと」
「私には生えてないよ?」
「はい。私はガーダンであり、人間ではありませんので」
「へ~」
ファニーは前日に何か説明をされていたことを思い出した。遊び疲れて頭に入ってこなかったが、紹介される人について何か言われていた気もしている。
「なんでここに?」
「ファニー様に遣えるように、」
「そうじゃなくって。人間じゃないんでしょ?自分の国に戻りたくないの?」
「いえ、そのようなことは」
ファニーは穴から1枚の紙を取り出した。ボロボロになってしまったそれは、子供向けの世界地図。
「行ってみようよ」
「どこへでしょう?」
「ティーブの国。どこにあるの?」
世界のふもとが中央に描かれた地図に、ガーダンの文字は1つもない。ティーブの目は、上下左右に揺れ続けた。
「申し訳ありません。存じ上げません」
「困ったなぁ。あのね、私はね、ここに行ってみたいの」
ファニーは地図の真ん中を指差した。うっすらと覚えている母に教えてもらった夢のような場所。
「お連れすればよろしいのですか?」
「そうじゃなくて、一緒に行こうってこと」
「はぁ」
ティーブの口がポカンと開いたままで、ファニーは思わず笑顔になった。ずっと姿勢正しかった背中が、少しだけ前に曲がっている。
(面白い子だなぁ)
背伸びしたファニーは、角のある頭を何度も撫でる。嫌がられもしなかったが、すぐにピンとされて届かなくなってしまった。
そして、毎日のようにティーブを城の外に連れ出し、森の中を駆け回った。ファニー自身が楽しいことを全て、一緒に遊びまわる。
父にお願いして買ってもらったティーブの服は、ファニーが遊ぶ用と同じような動きやすさしか考えられていない、それでいて質素ではないもの。
「ねぇ」
「なんでしょう?」
「そろそろやりたいこととか、欲しいものとか思いついた?」
2人で遊びまわる日々がしばらく続き、ファニーは問いかけた。ティーブは即答はせず、目を閉じたまま時間が過ぎていく。
「では、剣を」
その日のファニーは、人生で一番ではないかと思うほど全力で走り、父に懇願した。城の衛兵ですら持っていないような立派な剣が届いたのは、それから数か月後のことだった。




