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第38話~逃走の果てに~

 剣は振り下ろされ肩を切り裂き、赤い血しぶきと共に苦悶の声が響く。ティーブを引き剥がすように現れた灰の賢者と、それでも鳴りやまないエルフの詠唱。


「何故だ?」


 肩の出血を押さえながら、懐からまた何かを取り出そうとしていた。ティーブがおかしくなってしまった原因のアミュレットだとファニーはすぐに思い至る。


「ダメ!!」


 駆け出すファニー。しかし戻ってきたルイスが邪魔するように真正面を走っていた。3枚の鏡の盾が、ティーブへ向かう道筋を止めていた。


「えっ、ちょっ」

「逃げるぞファニー」


 抱え上げられたファニーはそのまま遠ざけられていく。目一杯に伸ばした腕がティーブに届くことはない。


「ま、待って」

「今は諦めてくれ。アスチルベ!」

「ア~ちゃん、ダメ!!」


 魔法を放とうとする光が強くなっていく。暴れるティーブの目の前に再びアミュレットが掲げられ、大人しくなってしまっていた。


「アスチルベ!ガーダンのことを知らないわけじゃないだろ」

「ん~。ごめんねファニーちゃん」

「ちょっと!!」


 光に包まれていく。以前にも感じたことのある転移魔法の光。それと詠唱を終えたエルフ達が魔法を放つのは同じタイミングだった。


「カルミア!!」

「御意」


 剣の花が咲き乱れた。エルフの魔法によってあっという間に吹き飛ばされ散っていく。その中心で、カルミアは仁王立ちしていた。


「行くぞ」


 視界がかすみ、どこかに運ばれていく感覚。全てを置いて、ファニーは転移した。黒の賢者ルイスに担がれながら、妖精アスチルベに運ばれていく。



「こ、ここは?」


 転移が終わり、立っていたのは岩肌が目立つ荒野。北の大地と異なり、ところどころに緑が溢れ、何より暖かかった。


「ファニーちゃん。ごめんね」

「う、うん。それよりここは?」


 生き物の姿もたくさん見ることができたが、どれも見たことのない生き物ばかり。どこかとげとげしい異様な姿だった。


「西か?」

「そうだよ。それより黒の賢者はファニーちゃんにちゃんと話せ」

「ガーダンのことか?」

「じゃなくて。青の賢者のこととか、灰の賢者のこととか、色々あるでしょ」


 ルイスの視線は太陽の昇る方角に向けられていた。旅の目的地である世界のふもとがある方。転移魔法のせいで疲れてしまったのか、アスチルベはファニーのポケットの中で横になる。


「疑わしいのは自覚してる」

「なら」

「だけどファニーの旅のことはしっかり考えてるさ。だからこうなってる」


 太陽が落ち、夕焼けが大地を染め始めた。岩肌が赤い光を淡く反射する。その時ファニーは、頬を撫でる風が冷たくなっていくことしか感じられなかった。


「なんで置いていったの?」

「灰の賢者に見つかった。もう巻き込むわけにはいかなかった」

「黙って行っちゃうなんて」

「すまない。時間がなかった、なんて言い訳にしかならないな」


 あっという間に日が落ちていった。西の大地は日が落ちると共に活気を失っていった。生き物たちはどこかに消えてしまい、乾燥した木くずが風に運ばれていく。


「メグとは仲良くなれると思ったのに」

「みたいだな」

「ルイスとリズさんがいきなり襲い掛かってくるからこうなっちゃったんじゃん」

「なんていうか。俺達が知っている赤の賢者とは全然違うんだよなぁ」


 ルイスはたいまつを取り出し、夜闇に明かりを灯した。メグの作る明かりとは比べ物にならないくらい小さな炎。


「とりあえず移動しよう。このままじゃ凍える」

「ここがどこだかわかるの?」

「なんとなくな。アスチルベは最後までファニーのことを気遣ったらしい」


 足早に行ってしまうルイスの後ろを歩いていく。何もかも失い身軽になった体を運ぶ足はとても重たい。


「なぁファニー。色々聞きたいのはわかる」

「教えてくれないんだ」

「知らない方が良いこともある。知ってしまったら危ないからね」


 世界のふもとから月が昇り始めた。いつもより一際大きく見える月。その方向に向かって真っ直ぐ歩いて行った。


「黙って行ったのは悪かった。もうしない」

「本当に?」

「あぁ。今度はちゃんと説明するよ。それより今は、しなきゃいけないことがあるだろ?」


 ファニーは立ち止まった。先を行っていたルイスは振り返り、たいまつの明かりを高く掲げた。


「しなきゃいけないことって何?世界のふもとへ行くこと?私は、もう、よくわかんないよ」

「そうじゃない。もっと大事なことだ」


 足が動かないファニーの近くにまでルイスが近づいてきた。月とたいまつで照らされた顔がよく見える。


「大事なこと?」

「ティーブを取り戻す」


 ルイスの目は真っ直ぐにファニーのことを見つめていた。しばらく正面から見ることが無かった瞳。


「それって、エルフから?」

「あぁ。西の大地は、ガーダンの土地でもある。行こう」


 たいまつを奪い取るように手にし、ファニーは跳ねるように歩きだした。月に照らされた大地が、一本道のように続いていく。


「早く。どこにいけばいいの?」


 他に誰もいない西の荒野に、ファニーの声が大きく反響していた。


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