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第37話~ガーダンの主人は?~

 エルフの中から、わずかに色合いが異なる服を着た1人が前に出て灰の賢者の横に立った。そして何やら小声で話している。

(何を話しているの?)

 声は聞き取れるが、言葉を知らない。詠唱の時と同じ単語が何度か聞こえるものの、それで意味が通じるわけでもない。


「ファニーちゃん。魔法で逃げる?」

「ちょっと待って」


 話し終えたエルフはさらに前に出る。ルイスの真正面に立ち、男女どちらのかわからない出で立ちと声だ。


「黒の賢者。子のために無茶をする」

「何のことだ?」

「まぁいい。一応尋ねるが、まだ世界のふもとへ行くつもりなのか?」


 火山の音が小さくなっていく。全員抜刀したまま動かない。ルイスの3枚の鏡の盾だけがクルクルと回り続けていた。


「3枚か。この短期間でよく集めたものだ。そこの娘のおかげか?」

「そうだな」

「惨いことをするものだ」


 ずっと続いていた地響きが鳴りやんだ。灰の賢者が咳ばらいをし、それだけで全員の切っ先が一斉に動く。

(3枚?私のおかげ?惨い?)

 ルイスの鏡の盾から目を離せないファニー。出会ってからしばらく1枚しか使っていなかった鏡の盾。


「エルフの言葉には思えないな」

「ふむ。くだらん話はここまでにしよう。答えを聞かせてもらおうか」


 回っていた鏡の盾が止まった。生暖かい風が吹き、呼吸の音すら聞こえないほどだ。


「あぁ。必ず世界のふもとに行く。譲るつもりはない」


 4人のエルフの剣が一斉に動き、剣の花が全て防ぐ。火山から地響きが鳴り、5人が再び詠唱を始めた。


「ファニー様。お下がりください」


 弓を失ったファニーの前に立ち、後ろに下がるように促しながらティーブは剣を構える。それを一目見て、さっきまでルイスと話していたエルフが近づく。


「ガーダンか」


 詠唱することもなく、剣を構えることもなく、そのエルフはただ歩いていた。ゆっくりと片手を挙げると、ティーブに指差す。


「こちらを手伝ってもらおうか」


 ただ一言。それだけでティーブはピクリとも動かなくなってしまう。


「ティーブ?」


 肩は震え、剣も小刻みに揺れる。苦悶の声を出し始めたティーブの正面で、エルフは怪訝そうな表情だった。


「ふむ?妙だな」

「何をしたの!?」

「君がこのガーダンの持ち主か。なるほど、そういうことか。難儀なものだ」


 エルフはおもむろにアミュレットを取り出した。いくつかの宝石が散りばめられた優美なもの。それをティーブの目の前に掲げる。


「やめて!」

「やめる?何故だ。貸したものを返してもらうだけだ」


 剣を落とし、頭を抱えながら苦しむティーブ。その背中に手を当てながら、ファニーはエルフに叫んだ。

(貸すって。なんでみんな物みたいに言うの)

 手を降ろそうとしないエルフに、ファニーは地面の剣を拾う。ガーダン用の剣は、持ち上げるだけでも一苦労だった。


「ウ、ウグ。ガーーーー」


 他の戦いの音を全てかき消すほどの絶叫。徐々に大きくなっていく地響きに揺られながら、ティーブは地面に倒れ込んでしまった。


「ティーブ!」


 扱えない剣を置きながら駆け寄る。アミュレットをしまったエルフは、ルイスを指差していた。


「あれを取り押さえろ。殺してもかまわん」

「な、なにを」

「ガーダンは我々エルフの管理下にあるのだよ。保護していると言ってもいい。人間に貸してはいるが、好き放題に使っていいわけではない」


 ティーブは静かに立ち上がり、そして剣を握った。虚ろな目で、エルフが指差す先だけをずっと見ていた。


「だ、大丈夫?」


 反応しないティーブ。返事もせずに、ルイスへと駆け出していく。そして、鏡の盾と剣がぶつかり合う激しい音。


「どうして?」

「本当に何も知らんのだな。世界のふもとへ行くことが何を意味するのか。黒の賢者が何者なのか。知らずに手を貸しているのか?」

「だ、だって私は、私は」


 ティーブが敵として参戦した上に、エルフの詠唱魔法の準備も終わりそうだった。火山が激しく噴火し、ファニーはただ立ち尽くしてしまう。


「ファニーちゃん」

「ま、待って」


 魔法の光を放ち始めたアスチルベを止める。ルイスに向けて剣を振るっているティーブのところへ走り割って入る。


「ティーブ!目を覚まして!!」


 両肩を掴み、剣を制止する。ティーブの動きを止めることは出来たが、その虚ろな眼差しは後ろにいるルイスにずっと向けられ続けていた。


「無駄なことを。その愚かな娘ごと斬ってしまえ」


 剣に込められる力が大きくなっていく。ガーダンの力には抗えないはずが、なんとか耐え切れている。ティーブが激しく歯ぎしりする音が聞こえ、その口元から血が滴り落ちていた。


「ティーブ?」

「うわぁぁぁぁ!!」


 絶叫し振り返りながらティーブは大きく剣を振りかぶる。その切っ先にアミュレットを持っていたエルフ。背後でどっしりと構えていた灰の賢者も、静かに詠唱をしていたエルフたちも、その視線の全てが振り下ろされる剣に注がれた。

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