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第9話~新しい弓~

 夜が明け、朝日が窓に差し込んでいた。結局ほとんど眠れなかったファニーは眠気を振り払いながら起き上がる。大丈夫なのかと不安に思っていたが、武器を作ってもらうことになっているので寝坊はできない。


「おはようファニー。どうかした?調子悪そうだけど」

「な、なんでもない。それより早くヴィンダーさんのところに行きましょ」

「え〜。あのハゲドワーフのところに行くの〜」


 全員準備を整えて、宿の出口の前に集合する。まだ朝が早く、道行く人はまばらだ。

(あっ、また頭の上に)

 アスチルベは当たり前のようにファニーの頭の上に乗っている。色々あったヴィンダーのところまで連れて行くことに、ファニーは不安を覚えていた。


「ア~ちゃん、ヴィンダーさんのことハゲとか言っちゃダメだからね。あと今日は私とティーブの武器を作ってもらうんだから、邪魔しないでね」

「は〜い」


 頭上から聞こえてくるアスチルベの元気な返事。

(本当に大丈夫かなぁ?)

 ただ連れて行くだけでヴィンダーは不機嫌になってしまうかもしれない。ファニーはそんな不安を抱いていた。武器に用がないルイスに留守番をしてもらうということも頭をよぎったが、昨晩の恋話を勝手に言ってしまいそうで避けていた。


「ティーブ、また道案内してくれる?この街の道って迷路みたいで」

「かしこまりました。こちらです」


 入り組んだ道を昨日と同じように進み、ドワーフの工房を目指す。前を歩くルイスの背中を見てファニーは心躍っていた。武器が楽しみなだけだと、誰に言うでもない言い訳をしながら軽い足取りで歩んでいた。



「おう来たか。げっ」

「おはようございます。す、すみません」

「良いって良いって。ソイツが大人しく留守番するわけねぇからよ」


 こころよく出迎えてくれたヴィンダーだったが、アスチルベへの嫌悪感を隠しきれていない。なるべく見ないようにしながら工房に手招きしている。

(やっぱり嫌がられるよね)

 アスチルベのことを見たヴィンダーは、ファニーが心配していたようにものすごく嫌そうな顔になってしまった。一体何をしでかしていたのか、怖くて聞くことも出来なかった。


「んでだ。武器って何を作りゃぁ良いんだ?大体のものはすぐ作れるがよ。あんまりデカいのだと時間がかかっちまう」

「なによ、ケチね」

「ちょっとア~ちゃんはおとなしくしててね。ご、ごめんなさい」

「嬢ちゃんが謝るこたぁねぇよ」


 昨日と同じように閉店した店内で全員座っていた。やはりアスチルベは話を理解してくれていないようだ。ごく自然にファニーの手の中に収まっていたのだが、ファニーは罰として完全に包みこんでしまう。


「ファ、ファニーちゃん。これじゃ何も見えないよぉ」

「ダメです。大人しくしてって言ったのに」

「おいおい、仲良いんだな」

「そ、そうですか?」


 腕組みしているヴィンダーは口を歪ませている。感心している、というより納得いかないようだった。

(本当に何があったんだろう。気になるなぁ)


「ヴィンダーさんの時って、どんな感じだったんですか?」

「どんなって、そりゃもう。手当たり次第に置いてるものを壊すしよ。それだけならまだマシ、いやそれだけでも迷惑だってのに、無くなるんだよ」

「な、無くなる?」

「わけわかんねぇだろ?壊されるだけなら直すなりなんなりできるけどよ、きれいさっぱり無くなっちまうんだぜ?どうにもできねえだろ?」


 手の中でもがいている妖精のどこにそんな力があるのだろうか。そんな疑問を抱くとともに、ファニーはヴィンダーの態度に納得していた。武器を壊されて自分たちも迷惑していたが、比較にならないレベルでアスチルベに苦しめられたようだった。


「ふふ~ん。すごいでしょ~。転移魔法よ」

「んなもん使ってたんか!」

「へへ~ん」


 この世界アキシギルには、賢者以外にも魔法を使える種族が存在する。妖精はその1つだ。人間は魔法を使えない種族だが、妖精は当たり前のように魔法を使える。


「まぁ嬢ちゃんも気ぃ付けろよ。今んところ上手くいってるみてぇだがよ」

「べ~っだ」


 手の隙間から顔を出したアスチルベが思い切り下を出している。あまり表に出さないようにしているのかもしれないが、ヴィンだーはイラ立ちを隠しきれずにいた。それを感じ取ったファニーは、本題を切り出すことで雰囲気を変えようと思っていた。


「あの、それで武器なんですけど」

「おお、そうだったそうだった。何が欲しいんだ?」

「えっと、それなんですけど、私の弓を作って欲しくて。あっ、ガーダン用でお願いします」

「んあ?」


 ヴィンダーは首を横に傾けたままだ。やはりガーダンであるティーブ用の武器を考えていたようで、人間であるファニーまでガーダン用の武器を欲しがるというのは理解できないらしい。


「どういうこった?」

「それが、私ってガーダン用の弓じゃないと満足できないみたいで」

「んあ?」


 椅子に座ったまま固まってしまっている。実際に使う姿を見せられれば良いのだが、それが出来ないのがファニーにとってもどかしいところだった。


「えっと、詳しくはティーブに聞いてください。前使っていた弓の性能とか知っているんで。お願いできるよね?」

「はい。お任せください」

「おっ、おう。正直信じられねぇが、言われた性能にすれば良いってことだな」

「よろしくお願いします」


 まだ半信半疑の様子だった。といっても以前と同じ性能の弓が出来上がりそうで、ファニーは楽しみにしていた。工房の奥にヴィンダーとティーブが入り、武器を作りはじめる。ファニーとルイスは残ってアスチルベがイタズラしないように見張っている。ヴィンダーは神経質になっているようで、何もしなかったとしても気が散るようなので絶対に近寄らないようにしなければならなかった。


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