表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/94

第35話~灰の賢者オリバー~

「行こうか」


 火山は見る間に高くなり、地下都市への入口があった山脈に連なろうとしている。ファニー達は地下から出て、そんな火山の目の前に立つ。

(どうしちゃったの?)

 ルイスは西へと歩き始めた。その両手と、そして背中には全部で3枚の鏡の盾。火山から噴き出す溶岩を映し出しながら遠ざかっていく。


「待って」


 火山の音に負けないように大きな声で呼び止める。振り返ったその表情を確かめる前に、轟音と共に間欠泉がいくつも上がった。


「ファニー様。ここは危険です」


 隣に立つティーブに促され、再び進み始めたルイスの後ろを追いかける。北の山脈の末端の山すそ。植物が一切なく、岩が露出する緩やかな下り坂を、逃げるように走っていった。


「ねぇ。そろそろ良いでしょ?」


 遠くで噴火の轟音が聞こえた。世界のふもとから太陽が昇るまで走り続け、空が明るくなる時間。


「そうだな。少し休憩しよう」


 周囲を見渡しながら座るルイスは、3枚の鏡の盾を消そうとしない。その正面に立ちながら、ファニーは岩ばかりの土地に吹く生暖かい風を感じていた。


「どうして?メグはリズさんに会いたかっただけなのに」

「時間が無いんだ」

「なんの?戻ろうよ。2人を止めないと」


 爆発音と共に地面が揺れる。絶叫するような炎柱が空まで届く。

(戻れるのかな)

 さらに高さを増していく火山。熱風に襲われたファニーは手を頭の上にかざす。


「赤の賢者をリズが止めている間に逃げないと」

「そんな敵みたいに。メグは私達を止めたりしないよ」

「今はそうかも知れない。でも必ず立ちはだかる」


 ルイスは立ち上がり、3枚の鏡の盾を火山に向けた。真っ赤な溶岩の塊が飛来し、そして弾き返される。


「どうして、そんなことがわかるの!?」


 溶岩が飛び散り、地面を焼く激しい音。ルイスへ届くように、ファニーは大きな声で叫ぶ。


「ファニーちゃん、今は危ないよ」

「う、うん。でも」


 ずっとふところに隠れていたアスチルベが顔を出す。腕をなんども軽く叩きながら、火山の方向とファニーを何度も見比べていた。


「わかってる。けどさ」


 溶岩の塊が飛来したのは一度だけ。地響きはなおも続くが、噴火の音は鳴り止んでいる。代わりに聞こえるのは、間欠泉から噴き出したであろう滝のような音。


「本当に危ないよ。あれは賢者の本気じゃない」

「えぇ?地下は大丈夫なの?」

「心配いらないよ。あそこは無駄に頑丈だから」


 飛び立ちながら火山と逆の方向に引っ張り始めるアスチルベ。その場を動こうとしないが、ティーブも一緒になって背を押し始める。


「ちょ、ちょっと」

「話は後でも出来ますので」

「ティーブ?」


 先に行ってしまったルイスとカルミアの後ろを、運ばれるように歩くことになり、何度も火山を振り返る。

(こんなの、おかしいよ)

 ファニーは前に駆け出した。いくつも準備されている剣の花の間をすり抜け、まだ残ったままの3枚の盾をかいくぐる。


「待ってって」

「危ないのは火山だけじゃないんだ。灰の賢者が近くに来ている」

「灰の?それで?」


 無邪気に笑うメグの顔を思い出した。やりたくもない姉との戦いで、火山まで生み出すことになってしまった赤の賢者。

(灰の賢者が敵って、本当なの?)

 会ったこともないはずの灰の賢者は、とても優しい表情をしていた。逃げるように足を速めるルイスの横をファニーも走る。


「会えばわかる」

「メグは敵じゃないよ。ルイスとリズさんが話を聞いてあげないだけじゃないの?」

「次に赤の賢者に会うことがあればわかるよ」


 それから何度同じ質問をしても、同じ答えしか返さないルイス。噴火とともに溶岩の塊が次々と飛来する中を走っていると、ふところからアスチルベが顔を出す。


「ファニーちゃん、来てるよ」

「えっ?来てるって?」

「別の賢者。あっち」


 次の瞬間にルイスの走る速さが一段と早くなった。岩肌を飛ぶように駆けていく。

(速っ)

 あやうく置いていかれそうになりながら、ファニーは必死に追いかけた。3枚の鏡の盾でしっかりと身を守りながら走る姿は、天敵から逃げる小動物のようだった。


 ガンッ。ガンガンガンガン


「な!?」


 逃げているその先の岩が、突然天高くそびえ立った。行く手を阻まれたルイスの足が止まり、周囲を見渡しながら大声を上げる。


「オリバー!どこだ?どこで見ている!?」

「ここじゃよ」


 そびえ立った岩の一角から顔を出したのは、灰色の衣をまとった初老の男。とても大きな杖を片手に持ち、ゆっくりと歩いてきた。


「そんなに逃げんでもいいじゃろうて。薄情じゃのう」

「人を封印した張本人が、よく言う」

「しかたなかろう。お前を世界のふもとに近づかせるわけにはいかんからのう」


 のんびりと近くの岩に座る灰の賢者オリバー。カルミアが剣の花の切っ先を向けるが、見向きもしない。


「ルイス。我が友よ。こんなことはやめにせんか?」

「やめる?それは無理だ」


 ファニー達全員を取り囲むように岩がさらにそびえ立った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ