第34話~青と赤。姉妹の賢者~
「お姉ちゃん?」
遺跡に反響するメグの声。ところどころ焼き焦げたガーゴイルが水の中から救出される。ファニーが釘付けになってしまったのは、しゃがみこんでその魔物の体に触れるルイスの姿。
「姉さん。どうして?」
「それはこっちのセリフよ。メグ、こんなところでなにしてるの?」
「な、なにって。だって姉さんが突然いなくなっちゃうから。ってそれより、アレは魔物だよ?」
よく見ればガーゴイルの体にはカルミアの剣の花が突き刺さっている。元々黒かったであろう体。その色はみるみる白くなり、やがて砂のようになって崩れていく。最後に残った何かを、ルイスはその身に取り込んだ。
残ったのは一輪の剣の花と、その下に積もった砂。
「なに今の?ルイス、姉さん、一体なにしてるの!?」
響いているのは、メグの声だけ。まるで悲鳴のように甲高い声に、誰も答えず、ファニーも言葉が出てこない。答えを返したのは、腕組みしながら首を傾けているリズ。
「メグが知る必要はないわ。それを知ってどうするつもり?」
「どうって、じゃぁもういい。その代わり、もう帰ろう。またみんなで暮らそうよ」
「それは無理よ」
姉であるリズに近づこうとし、水の壁に阻まれる妹のメグ。ファニーと一緒に固まってしまっているアスチルベ。ゆっくりとリズの側まで寄っていくカルミア。ファニーの後ろに剣を持ったまま立つティーブ。
「なんで?姉さん、どうしてそこまで。だってルイスとは、あんなに仲が悪かったじゃない」
「うるさい!!」
突然叫んだリズに、メグの足が止まる。立ちあがったルイスは無表情のまま。ファニーは思わずメグの手を握ろうと駆け寄るが、途中でカルミアに腕を掴まれ引き止められてしまう。そのまま引っ張られ、逆にメグから遠ざけられていく。
「ルイス、どういうこと」
「後で話すから」
まだ遠くにいるルイスに呼びかける。そのやり取りをメグは一瞥していた。
(後でって、なにこの空気)
少しずつ激しくなっていくメグとリザの言い争い。ルイスは鏡の盾を作り出していた。
「待って。リズさん、メグの話も聞いてあげて。ルイスもそんなの消してよ」
一瞬だけルイスが動きを止める。ファニーがほっと胸をなでおろしたのも束の間、現れたのは3枚の鏡の盾。
(なんで?それに鏡の魔法って、3つも作れたっけ?)
そして次の瞬間、メグの悲痛の叫びと、リズの生み出した水の轟音が鳴り響いた。
「姉さんとは戦いたくない!戦いに来たんじゃない。ちょっとは話を聞いてよ」
「メグ。あなたは敵よ」
「だから、なんで!!」
隠れているアスチルベの震えが激しくなっていく。そして足元が冷たくなり、靴の中が水で満ちていく。バランスを崩しそうになったところで、カルミアにしっかりと支えられた。そして水の上を走り駆け寄るルイスとティーブ。
「話は後だ」
「で、でもメグが!」
「ティーブ。これから賢者同士の戦いが始まる。巻き込まれたら助からないぞ!」
久しぶりに間近で聞いたルイスの声に返事しようとする前に、体が宙に浮かぶ。ティーブがファニーの体をしっかりと抱きかかえ、一目散に出口の方へ向かっていく。
「ま、待って。メグ!!」
「ファニー、また後で。このわからず屋を黙らせるから」
「戦っちゃダメ!何かおかしいよ」
ティーブの力からは逃れられない。その肩の上に覆いかぶさるようにしながら、メグに大声で呼びかけた。
(どうして?2人が戦う理由がわからない)
短い間であれ、一緒にいてすごく楽しかったファニー。世界のふもとを巡る敵だとリズは言っていたけれど、ただの誤解と思ってしまうほどに姉との再会を望んでいるだけだった。
水かさが増す中、ティーブは人を運んでいるとは思えない程の速さで出口を目指す。
(また、会えるよね)
遠ざかってしまい、メグの姿が小さくなった頃、1本の炎柱が立ち昇る。
「もういい。自分で走るから」
「赤の賢者。姫を案じ全力を出せぬ者。青の賢者。構わず全力を出す者」
「わかったから。戻ったりしないって」
ティーブの息が荒くなっていた。ヒザ下まで水かさが増している中をファニーを担いだまま進んでいるが、少しずつ遅くなっていた。
(姉妹なんだから、本当に殺し合ったりしない。よね?)
炎柱は水を蒸発させ、周囲を白く染め上げている。その熱は遠くまで逃げたはずのファニーも感じるほどで、しかもどんどん上がっていく。
炎柱は天井まで届き、遺跡を赤く溶かす。炎と水と遺跡。3つが合わさり、元居た場所は灼熱の溶岩に満ちつつあった。
「ねぇルイス。メグは大丈夫だよ」
「どういう意味?」
「敵じゃないってこと」
「今は自分の身の安全を考えた方がいい。まだ戦いは始まってすらいない」
ファニーは振り返る。遺跡は溶け落ちていき、真っ赤な溶岩と、冷え固められた火成岩に変えられていく。
「ルイス」
「ファニー、すまん。本当に時間がないんだ。賢者同士の戦いを甘く見ない方がいい。あんな魔物との戦いとは比べ物にならない」
「わ、わかった」
感じる熱自体は下がっていた。その代わりに水柱が炎を呑み込み、天井を穿っていく。この世のものとは思えない光景。
「ねぇ。あんなの、地下都市は大丈夫なの?」
「心配ない。けど、間に合わないな。ティーブ、地上に出よう」
ルイスが先頭になり、地下都市とは別の方向に上へ上へと全力で走る。ずっとずっと、長く暗い洞窟の中を走り、ようやく辿り着いた地上の明るさに目がくらむ。
地上は夜だった。それでも真昼のように明るいのは、地下から吹きだした溶岩によって火山が誕生していたから。




