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第50話~夢のような日々になると信じて~

 ファニー達の旅は続き、北へ北へと進んでいった。真っすぐ世界のふもとへ行くことは出来ないらしく、少し遠回りになってしまうらしい。

(そういえば、道順を聞いていないな)

 旅の道のりは、ルイスに任せきりだった。その代わりに長旅に必要なものや路銀のやりくりは全てファニーが行っていたが、次の目的地くらいは気になる頃合いだった。


「ねぇルイス。世界のふもとってさ、どうやっていくの?」

「ん?あぁそうだね。まっすぐ行くと危険が多いから、一度来たのドワーフの地下都市を通ろうと思ってる」

「え〜〜〜。やだ〜〜」


 舗装された街道を、荷運び中の馬車の荷台に乗せてもらっているファニー達。他に誰もおらず、話をするにはちょうど良い時間。

 ドワーフの地下都市へ向かうと聞いた途端、アスチルベはあからさまに嫌そうにしていた。

(私はなんとも思わないんだけど)

 むしろドワーフの国がどんなところなのか楽しみなファニー。一方でアスチルベは心の底から嫌がっているようだ。妖精とドワーフの仲の悪さはよく知っていて、ドワーフも同じような反応をするのが頭に浮かぶ。


「まぁまぁ、我慢してくれって」

「や〜〜。ファニーちゃん、黒の賢者にいじめられる〜」

「うんうん」


 アスチルベにどんなに嫌がられても、行先を変えるのは難しく許してもらうしかない。機嫌を直してもらおうと次の街に着いたら2人で遊ぼうと話す。

(ドワーフの地下都市かぁ)

 他種族の国に行ったことのないファニーにとって、とても楽しみな場所だった。ドワーフとは何度か交流があるということも、知っている種族の国という意味で安心感がある。アスチルベは悪い子ではないと思っていて、なんとかなりそうと感じていた。


「それで、まぁヴィンダーに道案内してもらうことになってるんだ」

「あっ、そうなんだ」


 ファニーの弓を作ってもらうのに世話になったヴィンダー。再会を喜ぶとともに、アスチルベとの不仲が心配にもなる。


 心配している間にも馬車は進んでいく。次の街でヴィンダーと合流し、地下都市へと一緒に行くことになっていた。



「よう嬢ちゃん、久しぶりだな」


 最後に会ってからそれほど時間は経っていないはずが、ファニーは本当に久しぶりに再会した気分だった。ヴィンダーはたくさんの荷物を抱えていて、ただの里帰りではなく完全に引っ越す様子だ。


「話は聞いたぜ。嬢ちゃんも大変だったなぁ」

「あはは」

「べ〜〜っだ」

「ちょっとア〜ちゃん。あっ、すみません。一緒に旅することになって」


 なんでこんなにもドワーフを嫌うのか。ヴィンダーも嫌そうな顔を隠しきれていない。本当に一緒に旅をして大丈夫なのか心配になるほどだった。


「いいっていいって。だが気ぃつけろや。これからドワーフだらけの場所に行くんだからよ」

「うげ〜〜〜」

「だからダメだって。た、多分大丈夫だと思います」


 と言いながら、不安をぬぐい切れないファニー。どうするのかちゃんとルイスと相談した方が良さそうだと考えていた。


「なんだかなぁ。妖精を連れてくことになるたぁな」

「よ、よろしくお願いします」

「おう、任せろや。そんで、いつ出発するんだ?早ぇ方がいいんか?」

「えっと」


 今日はもう遅くなってしまっていた。だが全員いつでも旅立てる状態で、相談し明日の朝に出発することになった。

(これで最後かぁ)

 人間の街でゆっくりと一晩寝られるのは最後になるかもしれない。もうやり残したことはないはずが、いざ最後を迎えると今までの全てのことを思い出す。


 夜もふけり、みんな寝静まった頃。ファニーは星空を見上げながら、王都に残っている人達も同じ星々を見上げているのだろうかと想いを馳せる。


「ファニー、ちょっと良いか?」

「う、うん。いいけど」


 部屋をノックされ、そこにいたのはルイスだった。こんな夜中にどうしたんだろうかと思いながら、軽く支度してからついていこうとする。


「あっ、そうだ。ラウレリンの鱗も持ってきてくれ」


 ドラゴンの鱗は荷物の一番奥の方にしまっていた。荷物をひっくり返して取り出した鱗は、まだ黄金色に輝いていた。受け取った当時となにも変わってないほどに。


 暗い夜道の中、余計に輝いて見える鱗を手の中にしまいながら、ルイスの後ろをついていった。ルイスと2人きりになるのも久しぶりなことだった。


「ねぇ。どこに行くの?」

「屋上まで」


 宿の屋上は開放されていて、出た瞬間に綺麗な夜空が広がっていた。今日は満月。月明かりの下でルイスの顔がはっきり見える。


「え、えっと」


 なんの話なのか知らないファニーが立ちすくんでいると、ルイスは微笑みながら一言。


「ファニー、誕生日おめでとう」


 夜空の星々が祝福するように煌めく。

(あぁそうか。すっかり忘れてた)

 今日は17歳の誕生日。20歳までしか生きられないファニーにとって、今日から本当の意味で余命3年の日々が始まる。


「あ、ありがとう」


 普通なら喜ぶこと。しかしファニーにとって素直に喜べることではない。ファニーの誕生日は、18と19と20。あと3回しか残されていないということだから。


「嬉しくないの?」

「う、うん」

「心配するな。これから楽しいことがたくさんあるよ。長く生きれば良いってわけじゃないんだ」


 永遠の命を生きる黒の賢者ルイス。ずっと城の地下に封印されることになってしまった彼にとっては、寿命に対する見方が違うのかもしれない。

(そう、なのかな。そう、だといいな。そう、だって信じたい)

 残り3年の日々の始まりは、生まれて初めて人間以外の住む土地へ行くことから始まる。その先に待っている景色は、何も見えないからこそ何でも想像できる。


「これ、誕生日プレゼント」


 そしてルイスに手渡されたのは、綺麗なネックレス。装飾は少ない簡素な作りだったが、ファニーの好みでもある。


「これ、どうしたの?」

「ん?昔のものなんだけどね。気に入った?」


 地下に封印される前から持っていたもののようで、ルイスと一緒に封印されてからずっとそのままだったらしい。そんなに昔の時代のものだと思うと、とても大切なものな気がする。


「結構実用的なんだよ。鱗を貸して」


 黄金の鱗を手渡すと、ネックレスの先にはめ込まれる。実用品というけれど、黄金に光り輝く綺麗なアクセサリーになっていた。


「これは大事なものだからね。手放さない方が良いよ」

「わ、わかった」


 ネックレスを首にかけると、まだほんのり暖かい鱗が当たり違和感がある。


「改めてになるけど、ファニーこれからよろしく。きっと大変な旅になると思うけど」

「そうだね。よろしく」


 あと3年の命。だけどきっと、最高の3年になる。そんな気がした。ルイスと屋上でしばらく笑い合い、明日に備えてゆっくりと眠った。次の日の朝にはヴィンダーとドワーフの国へと出発する。


 北へ北へ。高くそびえる山脈へと歩いていく。どんなところなんだろう。その先にはなにがあるんだろう。世界樹の下に辿り着けるのかな。たくさんの期待を胸に抱きながら歩く。


 子供の頃に母から聞いた場所。行ってみたいなと心のどこかで感じていた場所。一度は行くことを諦めてしまった場所。


 同じ場所へ行きたがってるルイスと、一緒にいてくれるティーブと、いつでも隣で楽しそうにしてくれるアスチルベと。


 残り3年の日々が、夢のような日々になることを信じて。


 行こう。もう一度、


 あの日夢見た世界のふもとへ。

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