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第5話~ドワーフの工房~

 ファニー達はドワーフの工房を目指して店員に教えてもらった道を進む。路地をずっと進むがなかなか見えてこない。家もまばらになり、塀がすぐそこに見えて来た頃に、一棟だけ建っている家がやっと見えて来た。


「あの家かな?」


 家には鍛冶屋特有の大きな煙突があった。本来であれば立ち昇っているはずの煙が全く見えないが、閉店しているのであれば不思議なことではない。


「客か?ワリぃが店はやってねぇよ」


 ドワーフは家の前の椅子に座っていた。煙管を手にしており、やや疲れた表情を浮かべている。

(ヒゲのせいだと思うんだけど、ドワーフってみんな同じに見えるんだよね)

 ファニーは昔ドワーフと話したことがあり、その時の顔と見分けがつかないでいた。顔の下半分が髭に覆われているのだから、見分けがつかないのも無理からぬことだ。


「すみません。閉店しているっていうのは知っていたんです。でも、どうしても武器が見つからなくて」

「むぅ?ほう、そういうことかい。ここじゃなんだ、入んな」


 ティーブの角を見た瞬間にドワーフの表情が変わった。ガーダン用の武器を扱える店は街でここだけなので、理由について察してくれたのだろうとファニーは感じた。


 閉店した店の中には、ほとんど残っていない武器が雑多に転がっている。

(これこれ。武器屋っていうのはこうじゃなくっちゃ)

 ファニーは所狭しと武器が山積みにされている様子を想像していた。イメージ通りの店内に心躍っている。


「まぁ座んな」

「突然すみません」

「いいっていいって、大体察しはつくしよ。ガーダンの武器が欲しいんだろ?」

「ええ、そうなんです」


 閉店した店内に残っていた椅子に座ると、ドワーフは値踏みするようにティーブの体をずっと見ている。

(私の武器を作って欲しいって言ったら、どんな顔をするんだろう)

 ファニーは最初に訪れた店の店員の反応を脳裏に浮かべていた。単に自分の弓が欲しいと言えば、人間用の弓になってしまうだろうと感じている。


「あの、作っていただけたりしますか?」

「そうなるわな。嫌ってわけじゃねぇんだけどよ。今は出来ねぇんだ」

「それは、えっと」

「工房に妖精が居つきやがって、仕事どころじゃねぇ。まっ、そろそろ故郷に帰ってもいい頃だったから、気にしちゃいねぇんだがよ」




 妖精。ファニーの脳裏に弓を壊してしまった妖精の顔が浮かぶ。とにかくイタズラ好きで、小さく素早いため捕まえることも難しい。実際に会ってみて、悪気がないのだと感じたが、皆が厄介に思う気持ちも理解できていた。


「どうして妖精が?」

「知らねぇよ。こっちが聞きてぇくれぇだ。とにかく妖精をどうにかせんことにはな。あんたらで追い出してくれたら武器を作ってやってもいい。ガーダン用なんて滅多に作れねぇしな」

「いいんですか!?」


 身を乗り出しながら聞き返すファニー。武器を作ってもらえるということはファニーにとって喜ばしいことだ。問題ははたして妖精を捕まえられるのかということ。

(一回捕まえたけど、あれは追いかけっこしてたからだからなぁ)

 同じように追いかけっこしてもらえれば捕まえられるかもしれないが、そう都合よく同じ状況が訪れるとは期待できない。ファニーの眼差しはこういうときに一番頼りになるルイスへと注がれた。


「ルイス、どう思う?」

「まぁ、捕まえることはできるだろうけど」

「はぁ?あんちゃん、そりゃ本当か?」


 ドワーフの眉間のシワが深い。まるで妖精を捕まえるというのは、絶対に不可能だと思っているかのようだ。

 一度捕まえたことのあるファニーにとって大したことではなく、ルイスが黒の賢者であり魔法を使えると知っているのでなおさらだ。一方でそんなことを知る由もないドワーフが眉間に皺を寄せるのは無理からぬことだ。


「捕まえることが出来たとして、一時的にだね。ずっとは無理だ。それじゃ解決にならないでしょ?」

「んあ?まぁそうだが。あんちゃん本当に捕まえられんのか?」

「ま、まぁそれはいいじゃないですか。じゃぁルイス、どうすればいいと思う?」

「どうって言われても。まぁ妖精を連れていくとか、そうでもしないとなぁ」


 ドワーフは開いた口が塞がらない。

(連れて行くのかぁ。あの子だったら良いかもしれないけど)

 結果的に弓を壊されはしたが、原因になった妖精をどうしても悪く思えないファニー。だがドワーフにとってはs利絵内話のようだった。


「なぁ、あんちゃん。妖精を連れていくって、正気か?」

「というより、他に手段がないというか」

「おいおい。悪いこたぁ言わねぇから止めとけって。武器なんて他でも手に入るだろうよ。人間用で我慢しとけって」

「そ、そうですね」


 世界の旅はまだ始まったばかり。ガーダン用の武器はこの街でしか手に入らないわけではない。武器は必要であるが、街道沿いを進めば危険は少ない。それまで人間用の武器でも大きな問題はなかった。それよりもイタズラ好きの妖精と今後ずっと旅をすることの方が大変なことだとファニーは考えていた。


「そうしろそうしろ。おっと、俺はヴィンダー。なんかあったらまた来いよ。まっ、ドワーフの国に来ることがあればだがな」

「あっファニーです。ルイスとティーブ。今日はありがとうございます」


 別れの挨拶を終え、3人は椅子から立つ。まだなにかを考えていたルイスは最後に椅子から立ち上がった。


「んじゃ達者でな。俺は世話になった奴らに挨拶が残ってるからよ」

「わかりました。では、このへんで。帰ろっか、イタッ」


 ファニーの後頭部が突然叩かれていた。あわてて振り返っているが誰もいない。近くにはルイスとティーブがいたが、そんなイタズラをするような2人ではない。


「あはははは。もう帰っちゃうのぉ?お話しよぅよぅ」


 声の主は羽で飛んでいる小さな影。弓が壊れてしまった原因と、再会した。



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