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第38話~従者ティーブの本気~

「ティーブ。どれくらい抑えられる?」

「長くはもちません。半刻の半分が限界かと」


 門の外に群がるゴブリンは、街道を埋め尽くすほどの数百体はいるだろう数。とはいえ決して強い魔物ではなく、ティーブ1人でも十分に抑えられる。ガーダンという種族はそれほどまでに強い。


「ゼンデ。これから瓦礫を使って防護柵を作って」

「えぇ。私はファニー様の護衛をしましょう」

「ん?いや、大丈夫ですよ」


 1人でゴブリンに立ち向かっていくティーブの背中を見ながら、いつでも弓で支援できるようにファニーは準備する。

(なるべく早く作って欲しいんだよなぁ)

 ガーダンの戦いについていける人間はいない。下手に共闘しようとしても、かえって邪魔になるだけだ。なのでゼンデと部下達には防護柵作りに専念してもらいたかった。


 そしてファニー自身は、ティーブほどではないがゴブリン相手に後れを取ることはない。ロバートを救出したときのように足手まといがいるわけでもなく、1人で問題ないと考えていた。


「ファニー様はご自身が弓兵であることを自覚してください。それに、これはティーブ様のためでもあります」

「ティーブの?」

「ガーダンという者は常に主人の安全を最優先する種族なのですよ。主人であるファニー様に護衛がいるかいないかというのは大きい」

「そ、そう。わかった」


 ゼンデはファニーの警護をすることを大声で伝えた。一目確認した直後から、ティーブの動きが見るからに向上する。


 縦横無尽にゴブリンの間を駆け巡り切り裂く姿は、ガーダン本来の実力。想像以上の光景にファニーの手が一瞬止まる。

(見とれてる場合じゃない)

 握り直した弓から射かけた矢はゴブリンへ真っすぐ飛んでいく。頭蓋骨であろうと関係なしに貫通する。


「さてさて。ではこちらはお任せを」

「うん、お願い」


 数体のゴブリンがすり抜けて来る。剣を抜き払ったゼンデが、盾も構えながら応戦した。叩きつけられた棍棒を盾でしっかり受け止め、剣で1体ずつ確実に無力化していく。地味ではあるが安定感のある地に足ついた剣筋。


 対してティーブは盾を持たず、両手で持った剣を振るい続ける。たった一振りで数十体のゴブリンが血しぶきを上げた。決して荒々しくはなく、洗練された綺麗な剣筋。


 ファニーは命令を出している個体に狙いを絞った。統率されているゴブリンは初めて見るが、逆に言えば統率者が弱点となる。わめくように周囲のゴブリンに指示している個体を見抜き、弓で確実に仕留めていった。


 弓を引き絞る間、ファニーは襲われる心配を全くしていない。護衛に徹しているゼンデによって、倒した数こそ少ないものの、1体として通されることもなかった。


 しかし2人が余裕を持って戦えているのは、ティーブの活躍によるものと断言できた。縦横無尽に駆け抜けながら剣で切り裂いていく。その勢いは止まることがなく、血しぶきは噴水のようだ。統率者が矢で射抜かれたことによる混乱を見逃さず、瞬く間に切っ先がゴブリンに達する。


 数百体いたはずのゴブリンは見る間に減っていった。気付けば半数以上が地面に倒れ、恐れをなしたのか後ずさり、襲い掛かることもなくなる。


 そして防護柵を作っていたゼンデの部下の声が聞こえた。完成を知らせる声に、ファニーは一瞬振り返って確認した。


「ティーブ、戻って」


 いつでも矢を放てるようにしながら、ファニーは急造された防護柵へと後退する。ゼンデが応戦していたゴブリンを、ティーブが一瞬で倒してしまう。


「いやはや、すさまじいですな」

「でも助かりましたよ」

「それはなにより」


 中に入れるように防護柵の一部はまだ塞がれていない。ファニー達が全員通ると、すぐに瓦礫が積み上げられていく。


「中は?」

「くくく。衛兵どもはちゃんと働いたようで、まぁ当たり前といえば当たり前ですが」


 再び塞いだ門。すでに侵入されてしまったゴブリンは、衛兵がしっかりと対応してくれたようだった。


「ではお2人はお休みください。私はもろもろの指示をしますので」

「ゼンデも無理しないでね」

「承知しておりますとも」


 ファニーは手頃な場所に座り一息つく。まだまだ弓を射ることは可能だが、休めるときに休んでおきたかった。

(すごい返り血)

 隣に座らせたティーブは真っ赤になっていた。頭からつま先までゴブリンの血を浴びていて、動きづらくないか心配になるほどだ。


「疲れてない?」

「はい。問題ありません」

「着替えは?」

「それは、では準備してまいります」


 ティーブはゼンデの所まで歩き、着替えを要求していた。


 ゼンデの指示のもと、門を守る体制が整えられていく。衛兵は引き続き侵入したゴブリンが残っていないか捜索し、元々門を守っていた警備兵は防護柵の前に集合していた。多くの警備兵は弓矢を持ち、いつでも迎撃できるようになっている。

(しばらく大丈夫かな)

 半分以上を倒したためか、防護柵がすぐに襲われるようなことはなかった。にらみ合いの状態が続く。


 ティーブの着替えも終わり、ファニーはゼンデと今後の相談をし始めたころ、異変の知らせがあった。


 黒いゴブリンが、防具に身を包んだゴブリンに囲まれ、神輿に担がれて悠々と現れたという報告だった。


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