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第27話~さよなら婚約者。妖精の暴走~

「どうした?食べないのか?」


 ファニーの食事の手が完全に止まる中、ロバートの食べ物を口に入れる手は止まらない。

(こ、この雰囲気でなんで食べられるの?)

 空腹なはずなのに、どうしてか食べ物に手が伸びない。


 婚約者が食事を続ける姿を、アスチルベは腕を組んで睨んでいる。


「ん?本当にどうしたんだ?」

「えっと例えばですけど、狩りをしに森に行きたいって言ったらどう思いますか?」

「な、なんだと!?」


 持っていたパンを落としてしまうほど驚くロバート。握りしめた拳に力を込めてしまうファニー。

(その反応はなに?)

 世界のふもとへ行けないまでも、ファニーは森での狩りを続けたかった。残り3年の人生。人々を守るために魔物と戦うのも悪くないと考えていた。私はゴブリンと戦おうと思っている。それだけじゃない。


 たとえ城に縛り付けられたとしても、生き方まで縛られたくない。


 世界を旅することが叶わなかったファニーの、せめてもの願い。


 それだけルイスとティーブと3人で共に戦ったことはファニーの自信につながっていた。普通の人には扱えないガーダン用の弓を引き、ゼンデの街の警備隊員からも一目置かれるほどに活躍していた。


 婚約者の態度を見ながら、アスチルベは拳を強く握りしめていた。


「君はもう戦わなくてもいいんだよ。そういうのは男の仕事って言っただろ?狩りなんて言わないでさ。ファニーには綺麗なドレスの方が似合っているよ。あっそうだ。今度アクセサリーを買いにデートしないか?」

「もう結構です!」


 ファニーは思わず立ち上がってしまった。ロバートも考えがよくわかったから。

(結局私のことなんか、何も考えていないじゃない)

 まるで人形のように。ファニーの今までを、幼い頃からどんなことに悩んできたのか、知ろうともしない。


「申し訳ありませんが、これで失礼させて下さい」

「はぁ?おいおい、ちょっと落ち着けって」


 もし婚約を断ったりすれば、国王はルイスの旅を妨害するかもしれない。そしてまた地下に封印してしまうかもしれない。

(ごめんルイス。この人は無理)

 たとえルイスが苦しめられることになったとしても、たった3年の結婚生活だったとしても、むしろ残り3年しかないからこそ、ロバートと一緒に暮らすことをファニーは想像できなかった。


「おいおい。なぁ、ファニーはなんで怒っているんだ?」

「いえ、申し訳ありませんが私にはわかりません」


 この婚約者だったロバートは本当にわかっていないようで、ずっと立っていたゼンデに問いかける。わかっているのに誤魔化す答え方が白々しい。

(なんだかゼンデの気持ちがわかった気がする)

 王侯貴族が嫌いというゼンデの気持ちに共感していた。


 ゼンデが良い人かと問われれば、ファニーは悪い人と答える。国を乗っ取るために、王侯貴族が何人死のうが構わないという危険な思想を持っている。だが少なくとも他人の想いを汲み取ることはできる。目の前の婚約者だった人は、想像できないどころか初めからするつもりもない。ただ自分の考えを押し付けてるだけ。


「う~ん。まぁ座りなよ。ずっと賢者とガーダンと、ついでに妖精と一緒にいたみたいだからね。落ち着いて考えれば、自分の幸せがなんなのかわかるはずだよ」

「ルイスとティーブは関係ないじゃないですか。それにア~ちゃんのことついでとか言わないで下さい」

「ルイス?呼び捨てか。ずいぶんと親しげじゃないか」

「ぇえ?」


 続く言葉をファニーは押し殺した。言いたいことは山ほどあったが、どれも直接言ってしまうと角が立つものばかり。唇を噛んでいるファニーの様子を見たファニーが口を開いた。


「ねぇねぇ、ファニーちゃん。こいつが婚約者なの?」

「えっ?ア~ちゃん?いきなり」

「その通り」


 どうしてそんなに誇らしげなのかファニーにはわからない。後ろからゼンデが笑いをこらえる声がかすかに聞こえる。

(ゼンデとは後でゆっくり話さなきゃ)

 こんな人と一緒になってしまったら、どんな生活になってしまうのかわかったものではない。なんとかならないか相談できるのは、ゼンデだけ。楽しむかのように笑っているのは気になるが、王侯貴族嫌いとして良い考えを持っているはずだった。


「ファニーは混乱しているようだね。落ち着いて考えた方がいい。とりあえず座りなって」


 婚約者の返事を聞き、アスチルベはゆっくりと飛び上がった。


 ファニーは少し、頭に血が上りすぎていた。だから、妖精を止めることを忘れてしまっていた。

(きっと、この人にはなにを言っても無駄なんだろうな)

 幸せというものは、ファニー自身が決めることであり、他人が決めつけるものではない。婚約者だった人は根本的なことを理解していない。


 イタズラ好きな妖精。自由から逃れられない妖精。

 ずっと行動を共にし、ファニーのために行動してくれたアスチルベ。だからこそ忘れてしまっていた。


 妖精は本来、予測不可能な存在であることを。


「え?」


 アスチルベの小さな体は、天井近くに浮かんでいた。空に浮かぶ光が、煌めく星のようになって初めて、魔法が放たれる前触れに気づく。

(なにをするつもりなの?と、止めないと)

 ファニーは手を伸ばす、が届かない。時が止まったかのように、その手が空をきる。


「あなたはふさわしくない。消えちゃえ!!」

「ダッ、ダメ!」


 部屋が光に満たされてなにも見えなくなった。やっと光が収まり目を開けると、そこに婚約者だった人の姿はない。


 本当に突然の出来事で、なにも出来なかった。ファニーの頭の中は真っ白になってしまい、しばらく呆然と立ち尽くしてしまった。


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