おまけ
※おまけエピソードです。
第14話~第17話にかけて魔物討伐中の話になります。
魔物討伐の2日目が終わり、今日も誰一人欠けなかった。
街に帰る余裕はなく、野宿で一夜を過ごすことになってしまう。警備隊員が用意してくれたのは。ひと際大きなテント。1人で使うにはもったいないほど余裕のある空間。
「こんな辺境の街にも、お国の奴が来ることがあってな。その時に使ってるやつだよ。何故だか代表が許可したから、遠慮なく使ってくれ」
「あっ、はい。でも大きすぎない?」
「そうかぁ?こんなもんだろ」
警備隊員のリーダーはそれだけ言うと忙しそうに他のテントの設営や食事の準備など、休むことなく指示を出している。ルイスとティーブは休憩中だ。
「そうだ。近くに水浴び場があるぞ。人払いしとくから、したいなら先に行ってくれ」
「えっ、本当ですか?」
「あとがつっかえるから、早めにな」
ずっとゴブリンと戦い続け、血と汗で汚れ切った服。水浴びをして汗を流せるのは素直に嬉しいことだった。
(でも着替えなんて持って来てたっけ?)
装備を外しながら、汚れた服をまた着なければならないのかと憂鬱になっていた。まさか野営することになるとは思ってもおらず、準備などしていない。
「どした?」
「あぁ、着替えがないなって」
「んなことか。そうだなぁ。男物で大きいから動きにくいかもしれないが、1着なら貸せるぞ。後で持って行かせよう」
「そうですか?じゃぁお言葉に甘えちゃおうかな」
ファニーの頭の中は、汚れを洗い流してくれる水で一杯になっていた。
(もう汗びっしょり。早く洗いたい)
代表に教えてもらった場所は、近くにある小川。澄み切った水面に月の光が反射する。貸してもらった桶で何回も体に水をかけ、汚れた服も洗う。
「たのしそ~」
「へっ?きゃっ、ちょっと」
バッシャーン。
やってきたアスチルベが勢いよく小川の中に飛び込む。水しぶきがファニーにかかる。それだけでやめるわけもなく。何度も繰り返し水を浴びせ続けている。
「やったな」
「うわぁ」
「どうよ」
「ふ~んっだ。こんなことも出来るもんね~」
水遊びはずっと続く。ファニーの方がずっと優勢だったが、頬を膨らませたアスチルベが魔法を発動した。
(えっ?それはズルくない?)
転移魔法によって小川の水がごっそりファニーの頭上に移動する。大量の水が落下した。
「わ~いわ~い」
「や、やりすぎだよ。降参降参」
白旗を揚げたファニーは小川から脱出した。もう長いこと遊んでしまっており、そろそろ戻らないととも感じていた。
「ファニー様。お召し物をお持ちしました」
「う、うん。ありがとう。ん?えっ、えぇ。えぇぇぇぇ」
ティーブが川辺に立っていた。無表情で用意された着替えやタオルをファニーに差し出す。
(な、なな、なんでティーブが入ってきてるの!?)
平然としているティーブと赤面しながら体を隠すファニー。着替えを持ってきたということはわかるが、問題はそこではない。
「ちょ、ちょっと見ないで」
「はい。かしこまりました」
言われた通りに、すぐに目を閉じるティーブ。その手から着替えを受け取り抱える。
(そ、そうじゃなくて。目を閉じれば良いってことじゃなくて)
目を閉じたまま、その場から離れようとしなかった。いくら目を閉じて何も見ていなかったとしても、着替えずらい状況。
「えっと、ちょっと見えないところで待っててくれない?」
「はい。失礼します」
ティーブの姿が見えなくなったところで、ファニーは急いで着替えを終わらせる。そして追いかけると木下で立ったまま待っていた。
「お、おまたせ」
「はい」
「ところで、なんでティーブが?」
「皆さまからお召し物を届けるように言われました」
あまりに真顔のままで答えられ、ファニーは目をパチクリしながら頬を膨らませてしまった。
(ちょっと素直すぎない?それに、なんか納得できないんだけど)
ファニーにとって腹立たしいのは、本当になんとも思ってない様子ということ。ファニーの姿を見ても何とも思っていなさそうなところ。
「ねぇ、ファニーちゃん。顔赤いよ?」
「そ、そんなことないって」
顔の火照りを感じながら、ティーブを連れて野営地に戻る。テントの準備はほとんど終わっていて、いくつもある鍋で夕食が作られているようだった。
「おお、やっと戻ったか」
ファニーの姿を見たリーダーは、休憩中の隊員に体を洗いに行くように指示する。みんな同じくらい血で汚れていて、次々に小川へ向かう。
「やっ、大丈夫だった?」
料理の手伝いをしていたルイスが抜け出してきていた。包丁を持ったまま苦笑いしている。
「だ、大丈夫じゃないって。どうしてティーブに着替えを持ってこさせたの?」
「いや~。でも男しかいないからね。アスチルベに持たせようとしたんだけど、いないし。それにガーダンが身の回りの世話をするのは一般的だからね」
「え~?でもティーブは男だよ?」
「そうだけど。まぁガーダンは人間じゃないからね」
ガーダンはそんなもんだとルイスに言われてしまう。
リーダーが用意した大きめのテントも、ファニーとティーブが共同で使うことを考えていたとのことだ。
(ティーブと2人で使うのは、ちょっとな)
それだけガーダンに対する認識は一般とファニーの間で差がある。最終的に大きめのテントはルイスとティーブに使ってもらうことにし、ファニーは普通の大きさのテントに荷物を入れる。
一日中ゴブリンと戦い、最後の最後までトラブルがあった一日。肉こそ入っていなかったが、夕食を美味しくいただいていた。
(明日で最後かぁ)
警備隊員との魔物討伐も明日で最終日だ。誰一人欠けることの無いように。そんなことを祈りながら、アスチルベと一緒に眠りに落ちる。
楽しい旅行が終わってしまうかのような、冷たい風の吹く夜だった。
お読みいただきありがとうございます。
ここまでで1章前編は終了となります。
この作品は、「古き良きファンタジーを書きたい!」という気持ちから生まれた物語です。
ファニーの冒険は、まだ始まったばかり。いえ、まだ旅のスタート地点にすら立てていないです。
長い物語になる予定ですが、少しずつでも楽しんでいただけたらとおもいます。
ブックマークや評価(☆☆☆☆☆)をいただけると、とても嬉しいです。
励みにして、これからも執筆をがんばっていきます。
今後とも、よろしくお願いします。