表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/54

第21話~旅の終わり~

「ファニー、大丈夫か?」

「う、う~ん」


 揺り起こされるファニー。薄く目を開けると、雲に覆われた空と顔を覗き込むルイス。起き上がろうとして、体が上手く動かないことに気付く。


「あぁ、じっとしていて」

「えっ?痛ッ」


 ファニーは右肩に強い痛みを感じた。上手く動かせないのは、布を巻かれて固定されているから。


「まだ応急処置しかできていないから」

「う、うん」


 右肩はエントの枝のムチで激しく打ちつけられた箇所。血を流した所までは覚えているが、必死だったからかここまで酷い傷だとは気付いていなかった。

(こんなに怪我していたんだ)

 大人しく横になりながら、ファニーは無事な左手を眺める。大きな怪我こそ無いものの、あちこちの切り傷やすり傷で血が止まらない場所がいくつもある。


「ごめん。もう治療するものが無くて」

「ありがと。大丈夫」

「それは、良かった。さっきアスチルベが呼びに行ったから、すぐにティーブが来てくれるよ」


 少しずつ晴れていく意識の中で、直前のことをファニーは思い出していた。エントの猛攻撃から鏡の盾に守ってもらい、そのままルイスに掴まって脱出したこと。その時にアスチルベも一緒だったこと。


「ア~ちゃんは?大丈夫なの」

「まぁな。エントの森は妖精にとって楽園みたいなもんだからね。ピンピンしてたよ」

「そっかぁ」


 エント。ファニーの脳裏に浮かぶのは怒りで荒れ狂う姿。世界のふもとを目指すことが、そんなにも罪深いことなのかと思ってしまうほどだ。


「ねぇルイス。エントに言われたんだけど、世界のふもとって行っちゃダメな場所なの?」

「ん?」


 空を覆う雲が、みるみる黒くなっていく。薄暗くなってしまい、ルイスの表情はよく見えない。


「そんなことを言っていたのか。予想外ではあるけど、なんとかするさ」

「なら良いけど」


 暗くなっていく天気の中で、ルイスの影がただ一つ。なんとかするという言葉の裏に、ファニーは別の意味を感じ取っていた。

(まるで独りで解決しようとしているみたい)

 ルイスがどんな表情をしているのか。見ようとしても暗がりでよく見えない。


「ねぇ、ルイス」

「まっ、詳しい話は後でな。それよりティーブが大変だったんだよ。消えたファニーを追いかけるって言って張ってさ」

「そ、そう?」


 露骨に話題を逸らされてしまう。そして聞いてもいないのに、ファニーを助け出した方法の説明が始まる。それはアスチルベの魔法の痕跡を追いかけたという、聞くまでもないほど単純なもの。


「お~い」


 雨が降り出しそうなほど空は黒い雲に覆われている。横になり休んでいたファニーは、遠くからアスチルベの声を聞いた。


「黒の賢者。ファニーちゃんに変なことしてないでしょうね」

「なにもしてないって。それより早く運ばないと」

「本当ぅ?」


 ファニーの体が宙に浮かぶ。ふかふかのベッドの上で寝ているかのような感覚。そのまま運ばれていく。


「ファニーちゃん、大丈夫ぅ?」

「うん。平気」

「でも痛そ~」


 優しく運ばれているので、衝撃で痛みが増すことはない。それでも怪我自体が多く、出血もしているので痛みは続く。そんな仰向けに寝ているファニーの上に、アスチルベがゆっくりと着地した。


「も~。黒の賢者がちゃんと準備しないから」

「そういうこと言わないの」

「は~い。む~」


 元気に返事をしたアスチルベは口元に手を当てながらファニーのことをジッと見ている。


「どうかしたの?」

「ん~。血」

「血?」

「ちょっと確かめさせて」


 アスチルベは出血しているファニーの怪我の横に近づく。そして血を少しだけ指にとり、口に含んだ。


「なにしてるの?」

「う~ん。やっぱり人間じゃない血が混じってるね。でもなんだろう?」


 遠くの空は晴れていた。真上にある黒い雲とは対照的に、快晴の空から差し込む光。手を伸ばしても届かない光と、今にも雨となって襲い掛からんとする黒い雲。

(そういえば、最初に会ったときもそんなこと言ってたっけ)

 ファニーの血には、人間ではない血が混じっている。その詳しい所を、アスチルベは突き止めんとしていた。


「ねぇ、それって私の寿命にも関係しているのかな?」

「ん~、わかんないけど。そうなんじゃない?だって普通の人間って60年は生きられるよね?」

「じゃぁさ、その人間じゃないものって取り除けるのかな?」

「どうだろう。もうちょっとちょうだい。む~。ほんのちょっとなんだよね。何の血なんだろう」


 遠くの快晴の空が少しずつ雲に覆われていってしまう。差し込んでいた光も減っていく。


「ごめ~ん。やっぱりわからない」

「え~。なんとかならない?もっと血を飲んでいいから」

「ファニー。あんまり無理しない方が良い。自分で思っているより怪我は酷いんだから」

「あっ、うん」


 一度諦めたファニーは再び仰向けに横たわる。余命3年だと覚悟はしていたが、もし解決出来る方法があるのだとしたら。


 世界のふもとへ。世界を旅する間に、寿命を伸ばす方法を見つけられるかもしれない。


「着いたよ」

「うん。あれ?」


 期待に胸を膨らませていたファニーが街に到着すると、街の代表に出迎えられる。疑問だったのは、周りにいるのが警備隊員ではない別の人達ということ。


「どういうこと?」


 黒い雲から、ポツりポツりとついに雨が降りだす。ファニーの周囲を、謎の集団が取り囲む。


「ファニー悪いな。旅はもう終わりだ」


 本格的に雨が降りだす中、聞きたくないルイスの言葉はファニーの耳にしっかりと届いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ