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第2話~旅の始まり~

「う~ん。気持ちいい~」


 果てしなく広がる草原。どこまでも、どこまでも、歩いて行ける。高草が風になびかれ、旅立ちを拍手で見送るように葉が擦れる音に包まれる。

(この先に、何が待っているんだろう)

 ファニーは草原を踏みしめ、両手を大きく広げ、胸を高鳴らせていた。日の光に照らされ、遮られた視界の向こう側にある夢は途方もない。


「行きたいところってあるの?」

「わかんない」


 後ろを歩くのは黒髪の男ルイス。高草をかき分けながら、置いていかれないように、見守るかのように、確かめるように、ファニーに話しかけていた。

(行きたいところかぁ。世界のふもとは、いきなり無理だしなぁ)

 世界のふもとへ、という夢を追いかけて宮殿を飛び出したファニー。旅の終着点はあまりに遠く、余命3年の月日で辿り着ける保証はない。


「ねぇティーブ。良い所あるかな?」

「良い所、でしょうか?申し訳ありません。わかりかねます」


 旅の始まりにふさわしい場所はどこなのか?従者として長く付き従っていた、ガーダンという人間ではない種族のティーブは困惑の表情を浮かべる。

(どうしようっか。でも旅の準備を整えなくちゃだよね)

 宮殿を飛び出すときに、持ち出せたものは多くない。最低限の旅の備えと、ほんの少しのお金。どこかで旅の備えは必要だ。


「じゃぁティーブ。長旅の準備をするには、どこに行けばいいかな?あと、お金も稼がないと」

「はい。それでしたら、あちらの街がよろしいかと」


 指差された方向のかなたには地平線。街は影も形もない。だがファニーには見えていた。人々の活気にあふれ、様々な露店が軒を連ね、子供たちの笑い声や焼き菓子の良い香りにあふれかえった旅立ちの街が。

(なんだか、全部楽しみ)

 ルイスとティーブは旅立ちの街へと先を進んでいく。黒の賢者ルイスのたくましい背中と、幼馴染ティーブの親しみのある背中。

 ファニーは早足で歩き、2人を追い越した。宮殿の中で、ずっと誰かに従ってしまっていた。余命3年だからと決めつけられた運命を受け入れてしまっていた。

(私は、残り3年だったとしても。私が、後ろを歩いちゃいけない。私の、夢見た世界のふもとなんだから)



「やっと着いたぁ」


 ファニー達は草原を出発し、街道へ出て、ひたすら歩いた。到着したのは塀に囲まれた大きめの街。世界を旅するための準備を整えるための、旅立ちの街。


 魔物から街を守るための高い塀がぐるりと街を囲っている。今いるのは、街に入るための手続きをする門の前。令嬢時代とは違い、列に並んで順番を待つ。


 誰一人としてファニーが令嬢であることに気づかない。森で狩りをするための格好をしており、無骨な旅人ばかりの周囲に溶け込んでいた。


「なんだか新鮮」


 手続きが終わり軽い足取りで街の中へ入る。活気あふれる旅立ちの街を想像し、子供のように無邪気に門をくぐる。


「へ~」


 令嬢時代に見てきたような、煌びやかな物は全くない。野営のための丈夫な布でできたテントや、保存食である干し肉、厳しい環境に耐えるための衣服。


「色々そろってるな」

「だね。でも全部買うお金はないから、ちょっと稼がないと」


 ファニーは手持ちのお金を確認しながら、店に並んでいる品々の値段と見比べていた。令嬢時代に憧れていた値引き交渉を思い浮かべながら、どんなに工夫しても必要なものは揃えられないことを悟っていた。


「しばらく、ここに滞在しないと」

「稼ぐって、あてはあるの?」

「そこは任せて。ルイスにも手伝って欲しいけど」


 余命を告げられ世界を旅することを諦めてしまった後も、ファニーは旅の準備を続けていた。出来ないとわかっていても、旅する自分の姿で頭が一杯になり、無意識に旅の段取りを考えてしまっていた。

(お肉はどこでも希少だから、狩って売ればお金になるよね)

 この世界には、魔物が存在する。魔法を使えない人間という種族にとって大きな脅威であり、この街のように高い塀で防衛しながら暮らしている。

 街の外で狩猟するというのは、とても危険な行為だ。なので肉というものは希少で、高く取引されていた。


「手伝うって?」

「お肉を売ろうと思ってて、狩りの手伝い。というより護衛かな」

「あぁ、護衛ね」


 ファニーが独りで狩りをして旅の支度をするのは非現実的だが、ルイスとティーブの手助けがあれば問題ない。魔物の脅威から守ってもらえるというのは、それだけ大きい。


「肉って、そんなに売れるのか?」

「そりゃもう。家畜はいるけど、そんなに多くないし。美味しいからね」

「お、おう」


 3人は様々な店がひしめき合う門の近くを素通りし、街の中へと入っていった。徐々に街の様相が変化していき、食料品や日用品といった普段の生活のために入りそうな店が増えていく。

(あれ?なんだろう)

 なにかから逃げ出すように、多くの人が走っている。恐ろしいものを怖がっているというよりも、見たくないものを嫌がっているかのようだ。


「行ってみよう」

「待ってくれファニー。危ないから俺が先に行くよ」

「え〜?私だって戦えるのに」

「そうじゃなくて、ファニーは弓使いだから。後ろに下がるもんなんだよ」


 ルイスは魔法を使い鏡の盾を作り出し騒ぎの中心へ体を向ける。ゆっくりと剣を構えたティーブが続き、弓に矢を番えたファニーは最後尾だ

(やっぱり弓より剣の方が良かったのかな。でもそれだとティーブと同じだしなぁ)

 会得する武器を選ぶとき、ファニーは弓を選んだ。狩りのためには一番良い武器というのもあったが、ティーブと共に旅することを想定すると剣士2人よりも戦いやすいと考えたからだった。


「ティーブ、気を付けて」

「承知しました」


 人の波が収まるのを3人は待つ。人々は鏡の魔法に目を見張っていたが、ただそれだけで逃げる足が止まることはない。魔法よりも重要なのかと、ファニーは弓矢を握る手に力を入れる。そして、先にあるものに意識を集中した。


「なんだろう、あれ」

「ん?ここから見えるのか?」

「大した距離じゃないから。それより、小さな人?かな。羽もあるみたい」


 逃げ惑う人々の中心には、とても小さな人影。背中に羽が生えており、あちこち飛び回っていた。それが見えるのはファニーだけのようで、ルイスは目を凝らした後に首をかしげている。


「この距離で、よく。いや、それより羽か」

「うん。どうかしたの?」


 人々は逃げ去っていき、3人の後方には慌ただしい足音と好奇の視線。そしてファニーの隣には、ルイスの怪訝な顔とティーブが警戒する顔。

(そんなに危ないのかな?ちょっと可愛く見えるけど)

 羽の生えた小さな人が危険な存在だとは、ファニーには思えなかった。仰向けになって泳ぐように飛び回る姿に、愛らしさすら感じていた。



「ファニー。俺等も逃げよう」

「う、うん。なんで?」

「きっと妖精だ。イタズラ好きで、だからみんな逃げていたんだ。巻き込まれたくない」


 返事も聞かずにルイスはその場から離れようとする。妖精と聞いても、その恐ろしさを知らないファニーには戸惑いしかない。

(イタズラって、それくらい大丈夫だと思うんだけどなぁ)

 ファニーは後ずさりながら、最後に妖精の姿をもう一度ちゃんと見ようとした。その瞬間に、妖精の視線が貫いた。


「えっ?」


 まばたきをした瞬間、遠くにいたはずの妖精が消える。次にまばたきをした瞬間、妖精が目の前に現れた。


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