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第19話~世界の木漏れ日~

「こ、ここは?」

「へへ~ん、すごいでしょ。これで世界のふもとに近づいたよ。ん~、でも限界。ふわぁぁあ。もう寝る」


 大きなあくびをした後に、アスチルベは眠ってしまった。ファニーはもう一度しっかりと周りがどうなっているのか確認した。


 その森の木は、とてつもなく高かった。それだけでここがファニーの生まれ育った国ではないことがわかるほどだ。なぜなら国で一番高い木はとても有名で、観光地化していたからだ。国の一番高い木より遥かに高く、しかもそれが森の大半を占めていた。


「今って、何時だろう?」


 転移してからどれだけの時間が経過したのかファニーはわからなかった。森の中がとても薄暗かったからだ。とてつもなく高い木々は、葉を一面に広げている。日の光がわずかに差し込む程度の隙間しかなく、木漏れ日だけの黄昏時のような暗さだった。


 ファニーはアスチルベを起こそうとして思いとどまった。元の場所に帰して欲しいとお願いしようと思ったのだが、幸せそうに寝ている顔を見ると出来なかった。どちらにしても、疲れて魔法は使えないだろう。


「イタズラ好きって、こういうことだったのかな」


 決してイタズラのつもりでこんなことをしたのではないということはファニーにもわかっていた。良かれと思ってやってくれたのだろう。本当に世界のふもとに近づいているのかもしれない。だがこれは、ファニーの望んでいることではなかった。


「本当は良い子なんだもんねぇ」


 眠ったまま起きる気配が全くないアスチルベの頭を指先で撫でながらファニーは呟いていた。結果だけ見れば迷惑と言わざるを得ない状況だったが、その気持ちだけでファニーは嬉しかった。


 とはいえこれからのことも考えなければならない。ファニーが持っているのは弓矢だけ。水も食料も持っていないので、このままでは帰れないどころか野垂れ死にしてしまう。


 ファニーは周囲に集中した。聞こえてくるのはアスチルベの寝息、森のせせらぎ、そして水の流れる音。


「見つけた。けどこの森、なんか変」


 水を確保できそうなのは良いことだった。なのだがこの森には問題があった。


 生物の気配が全くないのだ。


 動物の足音も、鳥のさえずりも、虫の羽音すら全く聞こえない。まるで森が生物を拒んでいるかのようだった。もしかしたら食べ物がないのかもしれない。ファニーはそんな不安を抱いていた。木の実やキノコを食べるという手もあるが、生物がいないということは食料に出来る植物が全くないのかもしれない。


「とりあえず、水だけでも」


 世界を旅したいと森で狩りをしていた経験で、水の方が重要になるとファニーは考えていた。眠っているアスチルベを手で包み、水の音がするところへ歩きだす。


 道中でファニーは食べられそうなものがないのか探していた。木の実は見当たらなかったが、キノコはいくつもある。だがそれが食べられるキノコなのか判別することは出来なかった。見たこともないものばかりだったからだ。


「アツっ。えぇ?」


 それはありえない感覚だった。ファニーは肩に熱した鉄板でも押し付けられたかのような痛みを感じたのだ。その場から飛びのきなにがあるのか確認しているが、そこにはなにもない。


 あるのは一筋の木漏れ日だけ。


 ファニーは手近に落ちていた小枝を拾い上げ、木漏れ日の中に投じた。光の中に入った瞬間に、小枝は燃え上り消えてしまう。不思議だったことは同じように木漏れ日に照らされている草花が燃えるようなことはないこと。


「なんで?」


 理解できないことが多過ぎたが、ただ1つ言えることは木漏れ日の中に入ってはいけないということ。ファニーは光を避けるように森の中を歩いていく。


 注意しながら歩いていたが、水の場所に辿り着く頃にファニーは汗だくだった。そこは小さな小川で、一際大きな木に囲まれているからか木漏れ日は全くない。川の底まで見えるほど透き通った水を見て、おそらく飲んでも大丈夫だろうとファニーは考えていた。


 木漏れ日のせいでファニーは喉が渇いていた。一口だけ水を口に運び、小川の上流に向かってまた歩きだした。湧水の方がより安全だからだ。


 上流に行けば行くほど木漏れ日が少なく、暗くなっていった。気付けば夜のように暗くなっており、木漏れ日は星の光のようになっていた。


「キレイ」


 見上げるとまるで満天の星空のようだった。本物の星空と違うのは、木々の揺れに呼応して星々の光の強さや配置が移り変わっていくこと。


 水の湧く場所に到着した。歩き続けていて疲れてしまったファニーは、思い切り水を飲んだ後に横になって休む。眠るつもりはなかったが、ウトウトした後に眠りについてしまっていた。


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