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第16話〜先手必勝〜

「ルイス、ティーブ、準備して」

「了解」

「かしこまりました」


 森の中を予定通りに進んでいく。獣道といえど、多少は足場が整っている。ファニーは定期的に集中してゴブリンがいないか確認していたが、ついに遠くにその影を見つけ出す。


「見つけたのか?」

「うん。まだ遠いけど」

「ん?わかるか?」


 警備隊の中にも、索敵に優れた人もいる。リーダーが確認するように指示するが、まだ首を横に振るだけだ。


「どこにもいないみたいだぞ」

「正面ですよ」

「いや〜、って言われてもなぁ」


 警備隊員は全く気付いていない。それよりもティーブの正体がガーダンであったことの方が気になって仕方がない様子で、警戒が高まらない。

(どうしよう。このままじゃ先頭の人たちが危ないだろうし)

 ただでさえ森には適していない動きにくい装備の警備隊員。ゴブリンと言えど、先手を取られてしまうことをファニーは危惧していた。


「じゃぁ先手を撃ちますね」

「えっ、あっ」


 リーダーの返事を待たず、ファニーは木の幹を蹴り上がっていく。太めの枝の上でバランスを取りながら、警備隊が進む先にいるゴブリンに狙いを定めた。

(良かった。まだ気づかれてないみたい)

 ゴブリンの方にほとんど動きはない。ファニーには獲物を選ぶ余裕さえあった。


「ねぇねぇ。ファニーちゃん」

「うわっ!ア〜ちゃん、いきなり話しかけないでって」

「うん。それよりドッカ〜ンは?」


 ファニーの耳元で突然アスチルベの声がした。危うくあらぬ方向に矢を放ちそうになりながら、なんとか持ちこたえる。

(あぶなかったー。あと魔法は、まだかなぁ)

 まだ遠くにいるゴブリンの位置を、ファニーは把握しきれていない。警備隊がいないという意味では魔法を使っても問題はないが、出来るなら多くのゴブリンを巻き込みたいところ。


「あとでね」

「ぶ〜」

「ありがとね〜。いい子いい子」


 ふてくされてしまったアスチルベの頭をファニーは優しく撫でる。そして再び弓矢を構え、見えているゴブリンの中で一番装備が立派な個体を狙い撃つ。

 ファニーは矢を上空に放った。大きく弧を描いた矢は、ほぼ真上からゴブリンを貫く。どの方向から射抜かれたのかわからないほどに、頭から串刺し。


「当たった」

「おお〜」

「戻るよ」


 森に響くのはゴブリンの叫び声。勢いよく木から飛び降りたファニーは、突然の叫び声にたじろいでしまっている警備隊の横に着地する。

 すぐにリーダーのところへ駆け寄ると、なんとか警備隊を落ち着かせようとしていた。


「やりましたよ」

「お、おぅ。でもこれは」

「まだこっちの位置はバレていないんで、チャンスですよ」


 警備隊の動きが悪い。装備のせいで思うように動けないのではなく、単にすべきことがわかっていないかのように。


「ティーブ」

「はい」

「反対側に行って、逃げるゴブリンを止めて。この辺に行けばいいから」

「かしこまりました」


 代表から受け取っていた森の見取り図を取り出し、目的地を指し示しながらファニーは手早く指示した。その場所は、直接確認したゴブリンの位置から予想した潜んでいるであろう場所。


「あっ、ちょっと来て」

「はい」

「危なくなったらフードは外して。それでもダメなら逃げていいからね」

「かしこまりました」


 早々に指示された場所へ向かおうとするティーブを一度呼び止め、ファニーは他の人に聞こえないように小声で話した。

(無茶して怪我しないようにしないと)

 ただ止めろとだけ言ってしまえば、大怪我して動けなくなるまで戦い続けてしまうかもしれない。森の中を難なく駆けていくティーブの背中を見送りながら、ファニーは弓を構え直す。


「じゃぁ、私達も行きましょ」

「おお〜」

「ちょ、ちょっと待った」


 ゴブリンを狩りに、先頭を行こうとしたファニー。片手を振り上げて出陣の声をあげるアスチルベ。様子を見ていたルイスに引き止められてしまった。


「な、なに?」

「なにじゃない。弓兵が1人で突撃するなって」

「えぇ、でも」

「先走りすぎだ。まぁ判断力はすごいんだけど。待っててくれ、すぐに準備する」


 それぞれ思い思いに話し、ざわつく警備隊が静かになっていく。ルイスがリーダーと協力し、森の奥へ突撃出来るように隊列が整えられていく。


「よし、いいぞ。ファニーは一番後ろだ」

「え〜」

「む〜。そんなのつまんな〜い」

「なんでそんなに息ぴったりなんだ?とにかく、弓兵なんだからここだ。それと念の為後ろから襲われないか警戒してくれ」


 ファニーとアスチルベは不満の声をあげるが、早口にダメだと言われてしまった。

 そして返事をする前にルイスは盾を持ち、隊列の前の方に行ってしまう。間髪を入れずにリーダーの号令が飛び、警備隊の森の奥への突撃が始まった。

(後ろなんて、何もないのに)

 ゴブリンは元々森の奥に多くいて、仲間の叫び声を聞いてさらに集まっていた。後方には1匹も確認できない。


「ファニーちゃ〜ん」

「今日はお預けだね」

「ぶ〜。じゃぁもういい」


 アスチルベはファニーの頭の上に寝そべってしまった。

 警備隊の突撃は続き、一番後ろからでもファニーは全ての様子を見ることが出来ていた。先頭がゴブリンと接触するのを見計らい、矢を放って出鼻をくじく。


 突撃に弾みがつき、警備隊はゴブリンを蹴散らしていった。だが次第に勢いは無くなってしまい、森の中での乱戦に移り変わってしまう。


 森向きの装備でない警備隊。素早く動き回るゴブリンに翻弄されていた。

 そんな警備隊に危険が迫るたびに、ファニーは弓で射抜く。射線を木で遮られていたとしても、ガーダン用の剛弓にとって障害物でもなんでもない。


 木を貫通した矢がゴブリンの眉間を貫いていく。戦う個体は減っていき、逃げ出す個体を追っていく。


 ピーーー。


 リーダーの合図が森に響き渡った。追撃をやめて集合しようという指示。

 森の一角に集合した警備隊は、誰一人として欠けておらず。今すぐにでも完全勝利の宴会でも開かれるのではないかという雰囲気。なんとか引き締めようとするリーダーと、仕事を終えて戻ってきたティーブ。


「あっ、大丈夫だった?」

「はい。討ち漏らしはありません」

「そうじゃなくて、怪我はないかってこと」

「はい。怪我はありません」


 ティーブは全身血だらけになっていたが、全て返り血のようだった。一安心したファニーはルイスとも合流し、警備隊とともに街へと帰っていった。


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