第15話~魔物討伐へ~
翌朝。ファニー達は魔物討伐に同行するために集合場所へと向かう。まだ太陽が昇りきっていない薄暗い街の中。いつも通りの狩りの格好のファニーとルイスと、フードを深く被ったティーブ。
「ティーブ、動きづらくない?」
「動きずらいです」
「そ、そっか。もしも時は取っていいからね」
「かしこまりました」
心配になったファニーの質問に正直に答えるティーブ。角を隠すために、一番簡単な方法がフードであったが着慣れていないこともあり動きにくそうであった。
「まぁ、魔物といってもゴブリンしかいないみたいだから。大丈夫じゃない?」
「そ、そう?ルイスもいざとなったら魔法を使っていいからね」
「はいはい。わかってるよ」
ルイスの鏡の魔法の盾も、使わないと決めていた。その手に持っているのは、ヴィンダーに売ってもらった普通の盾。代表から話を聞いた後にヴィンダーに事情を話し、急いで工房の修繕を終えるとともに手に入れたものだ。
「本当にわかってるのかなぁ?」
「わかってるわかってる」
フードを取りさえすれば普段と変わらないティーブと違い、魔法を使わないルイスは明らかに戦力が落ちている。
(まぁ私たちだけじゃないから大丈夫だと思うけど。というよりゴブリン以外の魔物ってなんだろう?)
街の警備隊と一緒に行くことと事前に調査されていることを考えれば、それほど危険は大きくないはずだった。ゴブリン以外の魔物を見たことがなく、魔物=ゴブリンという認識だったファニーが質問してみようと考えた矢先、1人の装備が整った男性がやってきた。
「ファニー様ですか?」
「あっ、はい」
「やはりそうですか。今日はよろしくお願いします。こっちです」
男性は警備隊のリーダーで、すでに準備が整っている部下のところへとファニー達を案内する。全員が同じ装備に身を包んでいた。
(あれで森に入るのかな。ちょっと動きにくそうだけど)
普段は街の警備隊として仕事をしているからか、重そうな装備だった。足場の良い街中では問題ないだろうが、森の中では満足に動けそうにない。
「その、余計なことかもしれないんですけど、その装備」
「あぁこれか。森向きじゃないのはわかってるけど、代えが無くてね。代表は口うるさく言ってくれてるんだけど。全く、王族どもは何を考えているのやら」
不満をこぼしながら森に入る準備を進めるリーダー。入り口の前で整列する姿は、ただの街の警備隊とは思えないほど見事なものだ。
(そっか、戦い方を考え直さないと)
代表に渡された計画では、警備隊が先行してゴブリンと対峙し、ファニー達は比較的安全な後方から攻撃する予定だった。だが装備を見ていると、そんなに都合よくいくとは思えない。
「リーダーさん。計画とは違っちゃいますけど、私たちが先行した方が良くないですか?森には慣れているんで」
「ん?そりゃ、そうだろうな。でもダメだ。この街はな、俺らが守らなきゃいけないんだ。本当なら旅人に助けてもらうのも良くないんだよ。だから、一番危険な役目は任せてくれ」
「そ、そうですね」
「ははは。心配すんなって。みんな危険を承知で仕事をしているんだ。よ〜し、準備はできたな。出発だ」
装備に身を包んだ重い足音が響く。隊列を崩さないように警備隊は次々と森に入っていく。その真ん中より少し後ろの場所にリーダーと一緒にファニー達がいた。
(それでも、ここにいるみんなは私より長く生きられるんだよね)
余命が3年しかない自分が一番危険なことをした方が良いのではないか。そんなことをファニーは考えながら、令嬢であったことを明かすことになりかねないので何も言えない。
「おお〜。なにこれ〜」
大人しくしてくれていたアスチルベが、行進の足音に興奮したのか元気よく飛び回り始める。心なしか警備隊員達は妖精を避けたがっているように見えた。
「ア〜ちゃん。戻って、これから危ないことするから」
「ん〜。わ〜い」
「あっ、ちょっと」
ファニーの手の平に突撃するアスチルベ。怪我しないように優しく受け止めようとすると、空中で止まり指に抱きつく。
「ねぇねぇ。あぶないことって?」
「それはね。これからゴブリンを倒しにいくから」
「あいつらか〜。じゃぁじゃぁ、ドッカ〜ンってするの?」
「ん〜?」
もしゴブリンに囲まれるようなことがあれば、アスチルベの魔法は必要になるかもしれない。だが強力すぎる上に1発が限界なので、使い所は重要になる。
(この間の狩りと違って、絶対使わないわけじゃないからなぁ)
使いたいタイミングはあるかもしれない。だが勝手に使われると困る。そんな、伝え方が難しい状況。
「む〜。わたしも手伝うの〜」
「あぁ、うん。そうだね。だけど最初に使ったらア〜ちゃんは疲れて寝ちゃうでしょ?後でにしよ」
「そだね〜。わかった〜」
アスチルベはピクニックでも行くかのように元気に飛び回り、警備隊員の頭に乗ったりして遊んでいる。最後にはファニーの頭の上に落ち着いたが、妖精が笑うたびに少しだけ隊列は崩れてしまっていた。